「正直、悔しかった。でもね…」G大阪、倉田秋の芸術的ゴラッソに見た“ナンバー10の矜持”

「溜まってるものがあったけど、ゴールで少しは解消された」

[J1リーグ第14節]仙台 1-4 G大阪/9月5日/ユアスタ

背番号10の決めたスーパーゴールが、ガンバ大阪を窮地から救い出した。

土曜日にユアテックスタジアム仙台で開催されたベガルタ仙台戦。G大阪は先制されるも瞬く間に逆転に成功し、前半を2-1で折り返した。しかしながら後半は、スタートから防戦一方の展開を強いられる。リードを守りたいがあまりに極度にラインを下げてしまう悪癖が、またしても顔を覗かせていった。

そんななか迎えた73分、仙台サポーターを沈黙させる一撃をねじ込んだのが倉田秋だ。右サイドの小野瀬康介のクロスが跳ね返され、バイタルエリアにこぼれた球を素早く拾った元日本代表は、タックルを仕掛ける相手DFを軽くいなすと、狙いを定めて渾身のミドルを放つ。これが鋭い弧を描く絶妙なループショットとなって、仙台ゴールに吸い込まれた。倉田にとっては開幕戦以来となる、実に13試合ぶりのゴールだ。

これで仙台は意気消沈する。さらに終盤に1点を加点したG大阪が今季最多得点となる4ゴールを挙げて、4試合ぶりの白星を掴んだ。絶え間ない献身的なフォアチェックで守備の貢献度も高かった倉田は、まさしくMOM級の働きでチームを快勝へと導いた。

今季の倉田は14試合を戦ったチームにあって、全試合に出場している。だが、そのうち先発は6試合を数えるのみ。2018年が31試合で30試合の先発、2019年が31試合で21試合の先発だったことを考えれば、かなりのペースダウンと言わざるをえない。

レギュラー落ちした、というわけではない。中盤センターの3枠には倉田のほか、新加入の小野裕二、井手口陽介、矢島慎也、遠藤保仁らが代わる代わる起用され、宮本恒靖監督は巧みな用兵で彼らを回しているのだ。そしてこのJリーグでも有数の分厚い選手層が、コロナ禍の過密日程でもなんとか上位に踏みとどまるチームを下支えしている。

とはいえ、倉田にとって悩ましい状況であることに変わりはない。

「コンディション云々じゃないんですよ。ここ数年、ずっと試合に出てリズムを作ってたのが、久々に途中から出るのが多くなってたんで、単純に強い強度でやってる時間が少ないと感じてるんです。だから、自分のリズムを作るために強めの練習をやってる。コンディションが悪いとかじゃない」

ずっと主軸を張ってきた者にしか分からない感覚なのだろう。倉田は日々のトレーニングにおいて、フィジカルコーチと相談しながら独自のハードメニューを消化しているという。それは宮本監督も知るところで、「難しく感じているのは分かっていたけど、そこは個人的に工夫して対処していた」とベテランの振る舞いを称え、「練習から見せてくれるパフォーマンスはしっかりしていたし、今日も良い時間帯であんなテクニカルなシュートを決められる。チームにとって大きなゴールでしたね」と続けた。

もちろん、倉田にとっても一息つける一発となった。「正直、自分のなかで溜まってるものがあったけど、それがゴールで少しは解消されました」と微笑を浮かべて語り、「後半、押し込まれた時間で3点目がキーになると思ってたので、自分がそれを取れて良かった。チャンスは1本くらいあるかなと思ってたんでね。あれを決め切って、自分たちの流れにもっていけたわけやから」と、胸を張る。

ルーキー山本は「秋くんがずっと気に掛けてくれた」と感謝
この日は怪我をしたアンカー矢島の代役として、大卒ルーキーの山本悠樹が先発に抜擢された。J1では初となるスタメン起用に応え、貴重な同点ゴールを挙げるなど奮迅の働きを見せたのだ。

倉田は「(山本に対して)なんも気は使ってないですよ。持ってるものは素晴らしいんやから、試合でそれを出してくれ。伝えたのはそれだけで、しっかりやってくれましたね」と評したが、山本に話を聞くと、少し内情は違ったようだ。

22歳の新鋭は「試合中はずっと秋くんが気に掛けてくれてた。もっとチャレンジしてボール受けていいよとか、ピッチのなかで声をかけてもらって。本当に助かりました」と感謝しきりだ。どんな状況でもチームの勝利のために最善を尽くし、周囲に常に気配りができる。でもそれを誇示などはしない。新人の口から漏れてきた、実に倉田らしいエピソードだ。

はたして次節の柏レイソル戦で、倉田は2戦連続のスタメンを飾れるのか。それは誰にも分からない。

「先発じゃなくて悔しい、という気持ちは正直あったけど、自分を見つめなおす良い時間にもなったんですよ。求められてるのはハードワークと、ゴール前での仕事。それを出していければ、おのずとスタメンに返り咲けると思うんです。自分を信じてやるだけですね」

31歳の背中は、かなり渋みが増してきたようだ。

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