G大阪守護神、2年間の“大改革”で得たものとは? 恩師にかけられた転機の言葉「戸惑いはあった」

【東口順昭インタビュー|第2回】2018年開幕前に松代GKコーチから決断を迫られる 「ロシアに行けないかも」

ゴール前に立ちはだかるその存在は大きく、何よりも頼もしい。今季序盤戦で好調なガンバ大阪の絶対的守護神・東口順昭が、オンラインで「Football ZONE web」のインタビューに応じた。プロ12年目の34歳GKは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、約4カ月の中断を強いられたなかでも好パフォーマンスを維持し、G大阪の最後の砦として守備陣を牽引している。J1リーグ第7節ヴィッセル神戸戦(2-0)でビッグセーブを連発するなどした東口に、これまでの“ベストセーブ”や取り組んでいる”改革”、衝撃的だったFWなどを聞いた。第2回は「好調維持の理由」について語った。

G大阪ジュニアユース出身で、ボタフォゴMF本田圭佑や川崎フロンターレMF家長昭博らと同期だった東口。ジュニアユース時代は身長も低く、ユースには昇格できなかったため、京都府洛南高校に進学した。その後、福井工業大学から新潟経営大学に転入し、2009年にアルビレックス新潟でプロキャリアをスタート。プロ2年目には主力に抜擢されるも、11年には右ひざ前十字靭帯損傷、12年には右ひざ十字靭帯再断裂と内側側副靭帯損傷という大怪我で長期離脱を強いられた。それでも抜群の安定感を誇り、14年に“古巣”G大阪へ移籍。移籍1年目から高いパフォーマンスを見せ、J1昇格初年度の三冠獲得に貢献した。そして、現在もビッグセーブを連発する守護神として君臨している。

日本代表にもコンスタントに選出されていた東口は、18年にロシア・ワールドカップ(W杯)メンバーに選ばれた。その勝負の1年が始まる前、18年の開幕前にG大阪の松代直樹GKコーチからある言葉をかけられていた。

「現状維持か、代表レギュラーどちらを選ぶ? このままならロシアのメンバーには選ばれると思う。でも、ここから課題克服に取り組んだら不安定になるかもしれない。もしかしたら、ロシアには行けないかもしれない。それでも、現状維持なら下との差は詰まっていく。下からの追い上げを突き放して挑戦するか、どうする?」

その時、東口は迷わず「新たな挑戦」を選んだ。課題は、攻撃参加とポジショニング。東口は、身体能力が高く瞬時に反応ができる。だが一方で、反応できてしまうがゆえに細かいステップワークがなく、スプリント回数が増えていた。スプリント数が増えることで3手先、4手先を考えることもなかなかできず、有効なパスの選択肢が減っていた。

課題を克服するためにGK練習を一新 「フィールドプレーヤーのような…」
その課題を克服するため、東口は松代コーチとともに”改革”に取り組んだ。まず、練習を一新。シュートキャッチの練習は自主練習程度で済ませ、常に実戦的で判断が求められるトレーニングに変更した。東口自身、最初は戸惑いもあったという。

「ただただシュートを打ってGKがキャッチしてシュートストップするだけじゃなくて、相手を意識したポジショニング、試合につながるような練習をやっている。戸惑いはありましたね。GKとしては特殊な練習をやっていたから。フィールドプレーヤーのような。最初は戸惑いもあったし、『できへんな』と思うこともありました。でも、できないストレスがあるなかで新しいことに取り組むのは嫌いじゃないので、割と楽しくできた」

練習からフィールド選手の“一員”のように参加し、ビルドアップを意識。普段のGK練習は選手とGKコーチ合わせて4人ぐらいで行うが、ほとんどを実戦的にこなしていく。集中力、一瞬の判断、守備だけでなく攻撃のパターンをGKも一緒になって増やしていくのが特徴だ。

「練習からビルドアップを意識して、見るところを増やす。練習相手も全員でパスコースを探す。そういうところを意識しながら、いろんなところを見ながら出す場所、逃げる場所を考える。頭のほうを使うことが増えましたね。そういう練習が増えていったので、最初は難しいと感じるところもあった。徐々に慣れてできるようになってきた。去年の夏前ぐらいからビルドアップでポンポンと外してシュートまでいく回数が増えたので、ようやく手応えを感じるようになった」

2年間、今の練習を続けていることでようやく安定感にも自信を持てるようになった。今季はビッグセーブを連発し、すでに何度もチームを救っている。34歳となった今でも力は衰えることなく、日々進化を遂げている。東口がいなければ……と考えることも恐ろしい。この成長は自身でも実感しているという。

「確実に変わってますね。ビルドアップのポジショニングはもっと細かく取れるようになった。でもポジションを取らなくていい時も出てくるし、ポジションの取り方の幅が増えた。今年はよりシュートを止めるにしろ、止められへんにしろ、そんなに変なポジショニングはないかな。練習から意識できているので、それがつながっている」

「プロになってからずっと今がベスト」 34歳GKの挑戦し続けるサッカー人生
2018年、決断を迫られた時に、もし一歩踏み出していなかったら――。もしかしたら、今の高パフォーマンスを発揮することはできなかったかもしれない。たとえ不安定になっても、課題を一つでも克服して理想のGKに近づくことを選んだ。目指す姿があるからだ。

「プロになってから、ずっと今がベストだと思い続けている。自分に足りないことが多いのでそこを埋めていきたいと思っているし、そのためには新しいことをチャレンジしないといけないので、常にアップデートしている気がします。僕は(元イタリア代表GKジャンルイジ・)ブッフォンが好きなので、動きに無駄のない、ビッグセーブもするけど簡単にシュートをはじかず、何事もなかったかのように普通にキャッチしてしまうほうがカッコいいと思っている。当たり前のことを当たり前にできるキーパー。それでいてチームを勝たせられるGKが理想」

ビッグセーブの裏にあった大きな”改革”。日々進化を遂げる頼もしい守護神は、今日も自身の課題と向き合っている。

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