横浜FCの53歳FW三浦“カズ”が4630日ぶりにJ1ピッチに立つ可能性「PKのキッカーはカズ!」

4630日もの歳月を乗り越えて、キングカズがJ1公式戦の舞台に帰ってくる。53歳の現役最年長選手、横浜FCのFW三浦知良が5日に敵地・駅前不動産スタジアムで行われる、サガン鳥栖とのYBCルヴァンカップ・グループステージ第2節へ臨む遠征メンバーに名を連ねることになった。

3日にオンライン取材に応じた、横浜FCの下平隆宏監督が「メンバーとして遠征に行ってもらおうと思っています」と明言した。2007シーズン以来、13年ぶりにJ1の戦いに挑んでいる今シーズンの横浜FCで、カズは公式戦10試合目にして初めてピッチに立つ権利を得ることになる。

1日のサンフレッチェ広島との明治安田生命J1リーグ第8節で敗れている横浜FCは、ルヴァンカップから中2日でガンバ大阪との同第9節が待つ。
8日間で3試合を戦う過密日程へ、下平監督は「リーグ戦にかかわっていないメンバーが、多く出場することになる」とサガン戦で選手を大幅に入れ替えるプランを明かした上で、初めてベンチ入りするカズを中心に生じる変化に期待を寄せた。

「チームがなかなか勝てない状況で、カズさんがメンバーで行くだけでも、チームのなかでエネルギーを発揮してくれると思います。カズさん自身も試合に出場することに対してすごく意欲を見せていて、本当にいい準備をしているので、もちろんプレーの面でも期待しています」

カズよりも年下の48歳とあって、メディアの前で「さん」づけで呼ぶ下平監督の言葉通りに、横浜FCはリーグ戦で4連敗を喫している。
第5節で川崎フロンターレに1-5、第6節では横浜F・マリノスに0-4と大敗。抜擢されている若手選手たちが自信を失いかけた状況に、再開後の過密日程で蓄積された疲労が追い打ちをかける形で、浦和レッズ、サンフレッチェにも0-2で敗れた。

「ちょっと重たい感じはありましたし、疲労はかなりあると思います。そこへなかなか結果がついて来ない状況で、肉体的な疲労にメンタル的なものも来ているところがあるので、ルヴァンカップが入ることで流れが変わるきっかけになると、僕はポジティブに考えています」

現状をこう語る下平監督は新型コロナウイルスによる長期中断の前後で、大胆な変化を横浜FCに加えている。J2で2位に食い込んだ昨シーズンから継続してきた[4-2-3-1]システムを[3-5-2]へスイッチ。22歳の一美和成、18歳の斉藤光毅で組む2トップを中心に、先発メンバーの平均年齢も開幕節の27.82歳から、北海道コンサドーレ札幌との再開初戦では25.91歳へ若返った。

「3バックに変えてから攻守両面にわたって、選手たちに躍動感が出てきた印象があります。選手たちが前向きに、積極的にトライしてくれているおかげであり、その結果として個々の特長やパワー、ストロングポイントが出るようになりました」

斉藤のJ1初ゴールなどで柏レイソルから今シーズン初の、J1の舞台に限れば13年ぶりとなる勝利をあげた第3節の直後には、下平監督も大きな手応えを感じていた。そして、レイソル戦から歴史をさかのぼっていった先に行き着く、レッズを1-0で下してJ1連覇の夢を断ち切った2007年12月1日のリーグ戦最終節が、現時点でカズがプレーした最後のJ1公式戦となっている。

「あのときは40歳でピッチに立ちましたよね。思っていてもなかなか(J1昇格を)達成できることじゃないですけど、それでもこの瞬間を信じて、ずっとプレーしてきました」

いつしか2007シーズンにプレーしたただ一人の現役選手に、なおかつ横浜FCにおける最古参選手になったカズは、無念の最下位に終わり、1年でJ2へ逆戻りした2007シーズンのJ1挑戦を思い出しながら、ようやく成就した昇格をこんな言葉とともに振り返ったことがある。
それでも不惑だった当時も、53歳になったいまも、胸中に抱き続ける思いは変わらない。

「試合に出てゴールを決めて、味方のゴールをアシストして、チームの勝利に貢献する。どんな状況になっても、自分のなかでの目標というものは変わりません。毎週のように試合に出たい、ベンチ入りメンバーに入りたいと思って毎日やってきたので、下を向くことはなかったですね」

トップ下を中村俊輔、レイソル時代にリーグMVPを獲得したレアンドロ・ドミンゲスらと争っていたシーズン始動時の立ち位置が、新システムのもとでは長く主戦場としてきた最前線へ再び変わった。一美と斉藤の新2トップや元日本代表の皆川佑介、阪南大から加入して2年目の草野侑己、昨シーズンまでの4年間で78ゴールをあげたイバと、2枠をめぐるチーム内のライバルは多い。

「リーグ戦になかなか絡めない状況を、カズさん自身も理解してくれていたし、ルヴァンカップではチャンスがめぐってくるんじゃないか、というところでおそらく照準を合わせていたと思うので。その意味ではコンディションもいいし、練習では相変わらず先頭に立って引っ張っています」

新型コロナウイルスへの感染予防対策として、ほぼすべての練習をメディアに対しても非公開で実施してきたなかでのカズの様子を下平監督は頼もしそうに明かした。そして、指揮官に続いてオンライン取材に応じた、まもなく35歳になる元日本代表DF伊野波雅彦はカズ、42歳の俊輔、40歳のキャプテン南雄太、39歳の松井大輔らのベテラン勢がチームに与える影響をこう語ってくれた。

「それぞれの立場や役割を通して、背中で引っ張るようにチームをすごく盛り上げてくれている。特にカズさんは若い選手たちと一緒に厳しいトレーニングをフルメニューでこなしていて、そういった姿が刺激になっている。情熱を失わないでいるところは、本当に大きいと思っています」

ルヴァンカップにおける最年長出場記録と最年長ゴール記録は、ともにDF土屋征夫(現東京23フットボールクラブ監督)がもっている。ヴァンフォーレ甲府でプレーした2017シーズンに前者で42歳10カ月0日、後者で42歳9カ月10日と最年長記録を立て続けに塗り替えた。

つまり先発でも途中出場でも、どのような形でもカズがサガン戦のピッチに立った瞬間に、前身のヤマザキナビスコカップ時代を含めた最年長出場記録が生まれる。ならば、最年長ゴール記録はどうか。オンライン取材では「もしPKを獲得したら、キッカーはカズさんに――」との質問も飛んだ。

「そこは間違いないです。みんな同じ意見だと思いますよ」

下平監督は笑顔を浮かべながら即答した。獲得したPKを託せる確率は、プレー時間が長いほど高くなる。リーグ戦からメンバーをターンオーバーさせて臨むサガン戦へ。途中出場ではなく先発する2トップの一角として、指揮官の青写真にカズが描かれていると言っていい。

50歳になった直後の2017年3月12日のザスパクサツ群馬戦で決めた決勝ゴールが、現時点で最後の“カズダンス”になっている。自分自身の軌跡に対して、カズは「出場機会が少ないとはいえ、ゴールできていないので」と忸怩たる思いを募らせ、捲土重来を期して努力を積み重ねてきた。

経験が少ない若手が多いがゆえに失速気味になっている横浜FCのなかで、勇気と自信を蘇らせる起爆剤になるだけではない。めぐってきたチャンスで確固たる結果を残し、リーグ戦でのポジション争いへ挑まんとする一人のストライカーとして、満を持してカズが敵地のピッチに立つ。

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