中3日でガンバの3バックが突然進化。“サッカーの神”が降りた遠藤保仁。

「うちの対応力すごいと思います」

柏レイソルに3-1で勝利した後、今野泰幸は満面の笑みをみせて、そう言った。

1日、ACL1次リーグでガンバ大阪は済州に1-4で敗れた。この試合はJリーグ開幕戦から中2日だったが、長谷川健太監督は4バックと3バックの併用こそが今シーズン、タイトル獲得のポイントになると考えて3バックを採用した。

ところがその3バックは、練習でもほとんど試したことがなかったという。しかも済州は前からの圧力が強い。Jリーグの相手ならまだしも、国際試合でぶっつけ本番になる。多くの選手は不安を抱えていた。そして、それが現実のものになったのである。

両サイドを押し込まれ、前線が完全に孤立。

 守備になると押し込まれて5バックになり、全体のポジションがかなり低くなってしまった。そのため、我慢してボールを奪っても、今度はなかなか前にボールを運べない。中盤の枚数が相手よりも少ないので、ボールを持っても早々に潰され、遠藤保仁はやりづらそうだった。頼みのアデミウソンは前線で孤立無援状態。得意のカウンターも不発だった。

またクサビが入った時、潰しにいくべきか、スペースを空けないように自重して待つべきか、その判断が中途半端になっていた。その結果、相手FWにボールをキープされ、つねに後手を踏み、相手の攻撃のリズムで試合が流れていった。もちろん単純にボールを奪い合うシーンなど局地戦でも負けていた。

それが1-4という大敗を招いてしまった。

「球際で負けていたし、守備も強くいけていなかった。攻撃の回数も少なかった。悔しさしか残らなかったし、情けないという気持ちでいっぱいだった」

今野はそう述べたが、おそらくそれは選手全員が感じたことでもあろう。

3バックが機能せずにボコボコにやられた形だが、それは逆に、3バックの定着に効果を発揮した。済州に負けた後、現状に危機感を覚えた選手たちが、積極的に3バックに取り組むことができたからだ。

3バックに見えて、実は3バックではない?

 「柏の攻撃を頭に入れつつ、3バックで守備になった時にどうするのか。練習で監督からの指示があり、自分たちも話をしながら細かい部分を確認しました。十分な時間はなかったけど、危機感はあった。2試合連続で情けない試合をしたらどうなってしまうんだろうって思っていた。だから、(3バックに)集中して取り組むことができた」

今野は、そう言った。

果たして、柏戦は済州戦でのぎこちなさが嘘のように動きが良くなった。

「3バックというより変則的なシステムで、中盤4人が横並びになっていました」

今野の言う通り基本は3-5-2なのだが、実際は右ウィングバックの初瀬亮がかなり高いポジションを取り、三浦弦太が右サイドバック、ファビオと金正也がセンターバック、藤春廣輝が左サイドバックになり、4バックのような布陣になっていた。

済州戦ではウィングバックの位置が低かったので効果的な攻撃がほとんどできず、苦しい展開に持ち込まれた。その経験を活かし、変則的な3バックが生まれたのである。

中盤4人の距離感が絶妙で、守備が機能。

 効果は絶大だった。

中盤の4人の位置、距離感が絶妙でボールホルダーへのアプローチが非常に早かった。激しく粘り強い当たりでボールを奪い切る回数が増え、そこからサイドに展開し、長沢駿の高さを活かす、あるいはアデミウソンのスピードを活かす攻撃がうまくハマっていた。

後半16分の長沢のゴールや後半27分にアデミウソンが奪ったPKは、いい攻撃の流れを作れていたからこそ生まれたゴールだった。

守備面ではクリスティアーノを三浦がマークし、初瀬は輪湖直樹を牽制して相手陣に押し込んだ。左サイドは藤春と今野が抜群のコンビネーションで相手右サイドバックの鎌田次郎を圧倒し、後半30分には交代に追いやった。守備での曖昧さがなくなり、後手を踏むことがほとんどなかった。

改めて能力の奥深さを誇示した遠藤に監督も驚愕。

 潰しも非常に早かった。

「前線に入ったボールを潰しにいかないと相手のペースになってしまうんで、今日はそこがすごくよかった。自分はファール気味だったけど、そのくらいでないとダメだし、後ろがコンパクトにしてしっかりついてきてくれた。前から潰しにおきがいがありました(笑)。なおかつ最終ラインがクロスを跳ね返してくれた。それがいい結果につながったと思います」

今野は満足そうにそう言った。

このシステムを機能させた最大の要因は、今野を含めた遠藤と倉田秋ら中盤の選手の動きだった。とりわけ遠藤は、寄せのスピード、当たりの強さでワンランク上のレベルを見せ、チームを引っ張った。

攻撃面では今野や倉田の近くに寄って彼らをサポートし、うまく使った。速攻だけではなく、わざとテンポを遅らせてボールをさばくシーンもあり、遠藤の能力の奥の深さを見せてくれた。長谷川監督は「あんなヤットを久々にみた」と感嘆したが、まさに“サッカーの神”が降りてきたようなプレーだった。

課題をすぐ修正できる、という自信は長期戦で輝く。

 これだけの短期間で、“違い”を見せたのは、本当に驚きでしかない。自分たちのスタイルを押し出すだけではなく、求められるシステムに柔軟に対応して自分たちのモノにしていく。そのためには全員の意志統一が必要だが、同時に戦術的な引き出しの多い経験のある選手が必要になる。遠藤や今野らベテラン組が中心となってシステムを理解し、やりやすいように改良した。それが変則的な3バックを生み、見事に機能させて柏を破ったのだ。

「3バックは今も考えながらプレーしているし、改良すべきところはある。でも、今回はやれた手応えがあった。課題をすぐに修正できるところがすごいし、それができるのはみんなの能力が高いってことだと思います」

課題に対応し、修正し、モノにする。

言うのは簡単だか短期間でこなすのは極めて難しい作業だ。ガンバは、それを容易にやってのけた。チームが不安と危機感が充満する中、奥底に眠るとんでもない力を見せ付けてくれたのである。

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