もはや相手も怖がらない。遠藤保仁が語るガンバ大阪「停滞のシーズン」

ガンバ大阪・遠藤保仁インタビュー(1)

 Jリーグセカンドステージの天王山となった第14節の浦和レッズ戦。首位レッズを勝ち点4差で追う3位のガンバ大阪は、勝てばレッズとの差が勝ち点1差に縮まり、逆転優勝を狙える状況に持っていくことができる。しかし、ガンバは0-4で大敗し、優勝争いから脱落した。

「あれが、今の俺らの実力だと思う」

遠藤保仁は淡々とそう語った。

確かにこのレッズとの一戦、2014年に三冠を達成したときの勢いや、昨季のチャンピオンシップでサンフレッチェ広島と激闘を繰り広げたときのような勇ましさはなかった。

2016年シーズン、ガンバはファーストステージ6位、セカンドステージ4位、年間勝ち点4位という結果で終えた。チャンピオンシップ出場を逃し、ルヴァンカップでも決勝でレッズにPK戦の末に敗れてタイトル獲得を逃した。まだ天皇杯は残しているものの、今季の成績について、遠藤はどう見ているのだろうか。

「物足りないね。リーグ戦ではファーストステージの成績が影響したのもあるけど、総合(年間勝ち点)で2位以内には入らないといけなかった。通常、優勝するチームは得失点差がプラス20~30ぐらいになるけど、うちはプラス10ほど(※正確には得点53、失点42、得失点差11)。実際、(年間勝ち点1位の)レッズはそのくらいあるもんね(得点61、失点28、得失点差33)。まずはそこ、だよね。

特に、うちは得点が少なかった(53点)。今年は誰も(得点が)ふた桁にいっていない。優勝を目指すうえでは厳しいよね。前線だけの責任じゃないけど、これだけ前にいい選手がいて53得点っていうのは、少ない。もっと点が取れたし、もっと攻撃的にいってもよかったと思う」

前半戦が終わったあと、遠藤は「前に攻めたい攻撃陣と、後ろに重心を置きたい守備陣との考え方の違いが試合(の結果)に出てしまった」と語っていた。FWパトリックが不調で、FWアデミウソンの融合が遅れたことも大きかったが、点が取れなかったのは、チームとしてどう戦うのか、その擦り合わせがきちんとできていなかったからでもある。その結果、全体的にボールを奪う位置が低くなり、前線が孤立し、攻撃がうまく機能しなかった。

「ファーストステージは、全体的に低い位置で我慢しながら、相手の隙を狙って点を取りにいくサッカーをしてきた。その中で(前のほうは)連係を欠いていた。攻め上がったとしても、個人技で何とか相手のマークを外していく、みたいな感じだった。それじゃ、なかなか得点は伸びないよ。

セカンドステージは、アデミウソンがよくなってきたし、メンバーも固定できて、多少波に乗れた感があった。でも、相手をいなして、余裕を持って勝った試合はほとんどなくて、紙一重の試合が多かった。実際、力の差はそんなにないし、『今のガンバなら勝てる』って、どこのチームも思っている。以前は、俺らが攻撃的にいくことで、相手は『まず守備をして』っていう態勢になるから、その時点で先手が取れていたんだけどね」

ガンバは初のJ王者となった2005年以降、3点取られても4点取って勝つ、という超攻撃的なスタイルを標榜してきた。しかし今や、その面影は薄れつつある。ここ最近は、どちらと言うと「堅守速攻」のイメージが強い。

「(監督が代われば)スタイルが変わるのは、当然。監督それぞれ、目指すものがあるんだから、俺たちはそれを理解してプレーするだけ。ただ、うちには”攻めて勝つ”という、これまでのクラブの伝統があって、それが(チームの)土台になっているからね。そこで、守備に比重を置きすぎてしまうと、(選手たちの中で)葛藤が生まれてしまう。もちろん、それとは逆に守りに徹するなら、完全に気持ちを切り替えてリーグ最少失点を目指すサッカーをすればいいんだろうけど。

とにかく、監督の考えているサッカーの中で、僕ら選手は(プラスアルファーして)何をすべきか、ということが大事。いい意味で型を破っていくのは、どんな監督のもとでもやらないといけない。それで、監督が納得するぐらいのサッカーができればいいんだけど、今年はそれができなかった」

チームというものは、毎年少しずつ上積みしていくことで、成長し、強くなる。2014年に三冠を達成したガンバだが、戦い方も、メンバーも、そのときから大きく変化はしていない。しかし、”圧倒的な強さ”は感じられず、なかなか勝てなくなった。それは、チームのピークが過ぎたことを意味しているようにも見える。

「(チームが)成長しているかどうか、それを結果だけで判断するなら、今季はリーグ戦4位で、勝ち点も、得点も落ちていて、まだタイトルを獲れていないのだから、停滞しているのかもしれない。でも、タイトルはそんなに簡単に獲れないからね。レッズにしても、今季のルヴァンカップ優勝が10年ぶりのタイトルでしょ。ガンバが過去2年間で4つのタイトルを獲れたというのは、それだけすごいこと。世界的に見ても、バルサとユーベぐらいじゃない?

でも、2014年のリーグ戦にしても(最終戦で)レッズとアントラーズのどちらかが勝っていれば、ひっくり返されていた。運が味方した面もあって、圧倒的な強さでタイトルが獲れたわけじゃない。要するに、あのときがピークだったわけじゃない。ガンバは”魅せて勝つ”のがスタイルだし、俺らも楽しくプレーして勝ちたい。そういう目標に向かって歩みを止めない限りは、まだ成長できると思うし、本当のピークを迎えられると思う」

遠藤が「強い」とイメージするガンバは、2008年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を制したときのチームだという。

「あのときのACLは、負けなしで優勝して、隙のない安定した戦いができていたし、FIFAクラブW杯ではマンチェスター・ユナイテッド(3-5)とも面白い試合ができた。やっぱりボールの支配率を高めていけば、相手の手数が減る。それで勝てるかどうかは別問題だけど、少なくともいろいろな攻撃ができる可能性は広がる。今も、それができるメンバーがいるんで、チームコンセプトからはみ出さない形で、もっとボールを持つ時間を増やしていきたい。それは、来年やっていきたいことのひとつ」

 今季は、年間勝ち点1位のレッズと同2位の川崎フロンターレには大きな差をつけられた。特にレッズには、セカンドステージの大一番で引導を渡され、ルヴァンカップ決勝でもPK戦まで持ち込んだが退けられた。これまで、大事な試合ではレッズに負けないガンバだったが、今季はそれが覆(くつがえ)されてタイトルを逸した。

「レッズは今季、守備が安定していたね。独特のスタイルだけど、それがハマッて、しかも移籍してきた選手が結果を出せるようになった。もともと力のあるチームだけど、今季のような成績が3年続けば、本物の”強いチーム”になっていくと思う。

フロンターレはたまに転けるけど、風間(八宏)さんがいいスタイルを作り出した。(サッカーの)楽しさでいうと、一番なんじゃない。あれだけ攻撃のバリエーションがあるのは本当にすごいことだし、見ているお客さんも楽しいと思う」

ガンバはチャンピオンシップ出場こそ逃したが、天皇杯では3連覇の可能性を残している。しかも元日の決勝は、ホームの吹田スタジアムで行なわれる。リーグ戦のホーム最終戦、遠藤は自身の挨拶の際に「元日は空けておいてください」とファンに訴え、タイトル死守に意欲を見せた。

「天皇杯を勝つのは簡単じゃない。トーナメントは勝つのが難しいし、その時々の調子に左右されるからね。でも、天皇杯は獲りたい。その先にACLがあるからね。ガンバはACLのプライオリティが高いし、ACLを獲るのがひとつの目標になっている。とにかく、タイトルをひとつでも獲ることは、チームにとってすごく大事なこと。3連覇はうちにしか狙えないし、ホームで優勝するよ」

チームの成績も、そして内容も、笑顔で語れることが少ないシーズンだった。それでも、リーグ最終戦ではフロンターレ相手に派手な撃ち合いを演じて、ガンバらしい戦いぶりで勝った(3-2)。天皇杯は残り3試合(準々決勝=12月24日、準決勝=12月29日、決勝=1月1日)。はたしてそこで勝ち進み、笑顔で新年を迎えることができるだろうか。

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