【藤田俊哉の目】頼もしかった3トップの躍動。大量点を奪った攻撃力は素直に評価したい SOCCER DIGEST Web 6月13日(土)11時0分配信

2次予選では「こじ開ける」がキーワードになる。

 ワールドカップ2次予選前の最後の強化試合、日本の前線は観ていて面白かった。

日本のシステムは4-2-3-1。展開によっては宇佐美、岡崎、本田の3トップのようになり、躍動感があったのが印象的だった。

対戦相手のイラクがフィットしていなかったことについては、ここでは言及しないけれど、見方を変えれば、ワールドカップの2次予選の相手はそこまで強いわけではないから、2次予選に向けたスパーリングパートナーとしては良かった。

どんな相手だろうと大量ゴールを奪えたのは、素直に攻撃力を評価すべきだろう。2次予選は守ってくる相手に対してどれだけゴールを奪えるかがポイントになる。ゴールを奪えなければ次のラウンドへは進めない。

その点で言えば、イラク戦で決めたゴールは理想的なパターンだっただろう。セットプレーからの得点と、スピードに乗った攻撃からの得点。今後は「こじ開ける」というのがキーワードになるわけだから。

3トップに話を戻すと、僕は両ワイドに開いているオランダのサッカーを見慣れているぶん、日本代表の3トップは新鮮に映った。とくに両サイドの位置取 り。宇佐美と本田がボールの位置により、反対サイドは中央寄りにポジションを取った。岡崎と香川を含めた攻撃全体の距離感もとても良かった。

ハリルホジッチ監督は、右利きの宇佐美を左サイドへ、左利きの本田圭佑を右サイドへ配置した。ドリブルでカットインしてシュートを狙おうという意図を持った配置と、その意図どおりのプレーが見られた。攻撃陣は順調に仕上がっている印象を受けた。

柴崎と長谷部がコントロールMFとしてプレーしていたけれど、とくにバランサーの役割を担う長谷部が守備に追われる場面が少なかったのは、日本の攻撃が うまくいっていた証拠だろう。パスを得意としている柴崎が目立っていたのも、前線の動き出しが良かったからでもある。とりわけ切り替えの速さから生まれた 先制ゴールの場面は、守備から攻撃への前線の動き出しが速かった。

ポゼッションとカウンターを高いレベルで両立させるには前線の運動量とスピードが不可欠。

 それにしても、これからの3トップは本当に大変だ。1試合でやらなければいけない仕事が本当に多いから。つねに裏のスペースを狙い続け、相手が間延びしたと思ったら中盤のスペースに顔を出し、ファーストプレッシャーとしても動き続けなければいけないんだ。

もはや、ポゼッションで戦うんですか、カウンターで戦うんですか、と戦術を二極化して考える時代ではないということ。両方のサッカーを高いレベルで求め られるわけだ。ポゼッションができなければ裏のスペースを効果的につけないし、カウンターができた後には、またポゼッションできるスペースが生まれる。

要するに、ポゼッションとカウンターは表裏一体なんだ。そうした臨機応変な動きができなければいけないうえ、前線には運動量とスピードも求められるのだから。

運動量、スピード、コンビネーション、そしてゴール。そういう視点で3トップの働きを観てみると面白いかもしれないね。
今回のイラク戦のスタメンが現状のベストなのかどうかは分からないけれど、攻撃陣に関して香川を含めたこの4人が現状でのベストだろうね。

そうしたなか、初スタメンの宇佐美がしっかり攻撃に絡んでいたのは収穫。ほかの選手は代表チームでのキャリアがあるからコンビネーション的にも問題ない。現状のグループのなかに宇佐美がどうフィットしていくかが問われてくる。

前回は初招集した指揮官の期待にゴールという結果で応えた。欲を言えば、今回も宇佐美本人は得点という結果を残したかっただろうけれど、2次予選前の最 終確認ということもあって、チームとしてどうやってゴールを奪うかという見方をすれば、誰がゴールを奪ったのかというのはそれほど問題ない。

もちろん、3点目のゴールシーンを振り返れば、宇佐美がドリブルで中央突破してそのままシュートまで持ち込まれたと思うけれど、あそこでパスを選択したからといって宇佐美の評価が変わることはない。

ミランで苦しいシーズンを過ごした本田が、代表でしっかり存在感を示してくれたのはすごく頼もしい。

 宇佐美は初招集でゴールを奪い、初スタメンでチームにフィットしたことを証明した。代表チームで順調なステップを踏んでいるのは間違いない。彼の成長は、チームにとってもプラスだし、観ている僕たちからしても喜ばしいことだ。

あとは、その宇佐美に続いてくるのはどの選手なのか、という点も興味深い。個人的な意見だけど、前線の選手のゴールはいつでも見たいから、チャンスをも らった選手は思い切ってシュートを狙ってほしい。その点に関しては、宇佐美がそうだったように、初ゴールを決めた原口も良かった。

武藤がJリーグで結果を残してドイツへ渡ることになって、ドイツで頑張っていた原口が日本に戻ってアピールに成功している。ライバル同士がしのぎを削り 合う関係が出ていた。競争がなければチーム力は絶対に上がらないからね。間違いなく言えるのは、ハリルホジッチ監督になって、以前よりも増してチーム内で の競争が生まれてきた。観ていて元気があるし、活気づいてきたという印象もある。

ハリルホジッチ監督の戦術は時間の経過とともにチームに浸透するはずだ。その戦術はヨーロッパのスタンダードだろうと想像できる。前線にはつねにスピー ドと運動量が求められ、それらをこなすなかでのコンビネーションが問われている。これからもそうした考えの下で選手の選考がされていくはずだけど、その視 点からいけば、先制ゴールを決めたのが本田だったというのは、とても意義があった。

ミランというチームがシーズンを通じて低迷するなかで、自身の怪我などもあり苦しんでいた。それでも日本代表に戻ったら、しっかりと元気な姿を見せてくれた。このチームのなかでの存在感をしっかりと示してくれたのだから。素直に嬉しく思うし、すごく頼もしい。

宇佐美は本当に才能があってシュートセンスもある。これからどんどん成長する選手だろうけど、日本代表はまだ本田のチームだということを教えてくれた試合でもあった。

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