G大阪、中盤の配置転換で脱「宇佐美ロス」へ。トップ下・遠藤、ボランチ・倉田が放つ輝き

ファーストステージで6位に甘んじたガンバ大阪が、復活への狼煙をあげつつある。敵地に乗り込んだ2日のセカンドステージ開幕戦。ブンデスリーガのアウグスブルクへ完全移籍したエース宇佐美貴史を欠いたなかで、トップ下に遠藤保仁、ボランチには倉田秋をすえた新布陣が機能。ファーストステージ覇者の鹿島ア ントラーズから3-1の逆転勝利をもぎ取った試合内容に、長谷川健太監督も「プラス材料が出てきた」と手応えをつかんでいる。

ファーストステージ王者を圧倒した試合内容

 悔しさともどかしさ、そしてふがいなさ。6位に終わったファーストステージの結果を振り返るたびに、ガンバ大阪の選手たちの胸中にはネガティブな感情が込みあげてくる。

7勝3分け7敗の勝ち点24は、優勝した鹿島アントラーズに15もの大差をつけられた。総得点22は最多の川崎フロンターレの33に遠く及ばず、総失点20は最少のアントラーズの倍を数えている。

「勝ち点をまったく取れなかったわりに、順位が6位だったことが何だか不思議な感じがするんですけど」

リオデジャネイロ五輪に臨むU-23日本代表にオーバーエイジで招集されたDF藤春廣輝が自嘲気味に振り返れば、ボランチの今野泰幸は語気をやや強めながら不完全燃焼の思いを口にする。

「納得できない? もちろん。まだまだ、オレたちはこんなものじゃないですよ」

未勝利のままグループリーグで敗退したACLを含めて、今シーズンの前半戦では「西の横綱」のプライドを打ち砕かれた。捲土重来を期す後半の戦いへ。ガンバがひと筋の光明を見出しつつある。

敵地カシマサッカースタジアムへ乗り込んだ、7月2日のセカンドステージ開幕戦。ファーストステージ王者を圧倒した後半の内容に、試合後の長谷川健太監督は笑顔で及第点を与えている。

「鹿島に対して『やってやろう』という気持ちが強かったから、黙っていてもみんな気合いが入っていた。そのなかで、後半戦へ向けてプラス材料が出てきた。あとは、この戦い方を続けられるかどうか。ファーストステージではいい試合をしても、なかなか続かなかったので」

指揮官が言及したプラス材料とは何か。答えを先にいえば「中盤の配置転換」と「セットプレー」となる。1-1で迎えた後半15分。司令塔の遠藤保仁が操る「伝家の宝刀」がまばゆい輝きを放った。

2月の開幕戦での零封を倍以上で返す

 右コーナーキックから狙いを定めたのはファーサイド。DF金正也とMF阿部浩之にそれぞれDF西大伍とMF柴崎岳がマークにつき、さらには日本代表DF昌子源が余っていたエリアに漂っていた弛緩した雰囲気を、百戦錬磨の36歳は見逃さなかった。

緩やかな放物線を描いたボールは金と阿部を、さらにはジャンプした昌子の頭上をも超えていく。

「オレは何もしていない。ただ立っていただけなんですけど」

今野が苦笑いしたのも無理はない。ファーサイドの密集地帯の上空を通過してきたボールは、さらに外側に位置取っていた背番号15の頭と完璧にシンクロ。アントラーズのゴールネットを揺らしたからだ。

昌子とU-23日本代表の植田直通を中心に堅守を誇ってきた今シーズンのアントラーズにとって、これがセットプレーから喫した初めての失点だった。しかも、牙城崩壊は一度だけにとどまらない。

後半28分に今度は左サイドで獲得したコーナーキック。遠藤の照準は同じように味方にマンツーマンでマークがつき、昌子が余っていたニアサイドに定められる。

一転して低く、速いボールが競り合う阿部と柴崎の頭上を超えて鋭く落ちる。マーカーのFW鈴木優磨の死角を突き、その前方へ走り込んできた金の頭をへたボールは、ゴール右隅へと軌道を変えた。

アントラーズが1試合で3失点を献上するのも今シーズンで初めて。屈辱を幾重にも上塗りされた逆転負けに、ディフェンスリーダーの昌子は「特に3点目はオレの責任」と唇をかんだ。

新本拠地の市立吹田サッカースタジアムにアントラーズを迎えた2月28日の開幕戦で喫した、0-1の零封負けの悔しさを倍以上にして返した快勝劇。長谷川監督が勝因をあげる。

「ヤット(遠藤)の守備の負担がかなり減ったので、いい部分を出しやすくなったというのはありますね」

ボランチの遠藤をトップ下に、2列目を主戦場としてきた倉田秋をボランチにすえる。5月21日のサンフレッチェ広島戦で初めて試した新布陣が、セカンドステージの成績を左右しかねないアントラーズとの開幕戦でほぼ完璧に機能した。

「ガンバ大阪の遠藤保仁ではなく、遠藤保仁のガンバ大阪」

 ガンバの梶井勝志強化本部長は、遠藤の存在をこんな言葉で表したことがある。

「ガンバ大阪の遠藤保仁ではなく、遠藤保仁のガンバ大阪ですよね」

あまりに突出していて、代えのきかない遠藤の存在は数字にも表れている。長谷川監督のもとでJ1を戦った2014シーズン以降のリーグ戦で、遠藤はフィールドプレーヤーではただ一人、全86試合で先発メンバーに名前を連ねて現在に至っている。

そのうちフル出場を果たしたのは78試合。トータルの試合時間7740分間に対する遠藤の出場時間は7685分間を数え、出場率は実に99.29%に達している。

いまも衰えをみせない技術と戦術眼を駆使する遠藤だが、今年1月には36歳になっている。生身の人間である以上は、誰もが肉体の衰えと正面から向き合わなければいけない。

ただでさえ、ボランチは攻守両面で心と体に負担がかかる。ガンバを愛してやまない遠藤にとって、チームの状態がなかなか上向かなかったファーストステージにおいては、なおさら焦燥感を募らせたはずだ。

だからこそ、打開策として長谷川監督は「中盤の配置転換」に打って出た。遠藤をトップ下で攻撃に専念させる一方で、誰をボランチにすえるか。白羽の矢を立てられたのは倉田だった。

攻撃的な中盤のイメージが強い倉田だが、ジュニアユースからユースをへて、ガンバのトップチームに昇格した2007シーズンはボランチを主戦場としていた。

しかしながら、当時は遠藤と明神智和(現名古屋グランパス)がボランチで黄金コンビを組んでいた。厚い選手層の前に出場機会を得られないなかで、倉田は期限付き移籍での武者修行を選ぶ。

2010シーズンにJ2のジェフ千葉で、2011シーズンにはJ1のセレッソ大阪でプレー。ハードワークと2列目でのプレーを身につけて、復帰した 2012シーズン以降は中盤のマルチプレーヤーとして、2014シーズンの三冠獲得と2015シーズンの天皇杯連覇に、いぶし銀の輝きを放つプレーで貢献 してきた。

宇佐美流出に備え、厚くなっていた2列目の選手層

 迎えた今シーズン。エース宇佐美貴史が冬のマーケットで移籍することを覚悟していた長谷川監督は、2列目の補強を強化部に要請。横浜F・マリノスからアデミウソンと藤本淳吾を獲得した一方で、納得のいくオファーを得られなかった宇佐美が残留した。

阿部や宇佐美と同期の大森晃太郎、ベテランの二川孝広(現東京ヴェルディ)を含めて、2列目の選手層が一気に厚くなった。長谷川監督以下の首脳陣にとってはまさに嬉しい悲鳴となるが、必然的にコンスタントに先発の機会を得られない選手も出てくる。

倉田もその一人で、ボランチで起用されるまでの11試合で先発は5回にとどまっている。それでも、年齢的にも中堅の域に差しかかった27歳は心身のコンディションを常に整えて、チームに貢献できる機会が訪れるときを待った。

くしくも、ファーストステージ終了をもって宇佐美がブンデスリーガのアウグスブルクへ完全移籍。攻撃陣の再編成を余儀なくされたアントラーズ戦でフル出場を果たした倉田は、両チームを通じて最長となる11.276kmを走破している。

たとえば後半19分。ボランチの位置から果敢にドリブル突破を図った倉田は、左サイドをフォローしてきた大森へ絶妙のパスを通し、あわやゴールのシーンを演出している。

時計の針を巻き戻せば、前半26分に大森が決めた同点ゴールにも倉田が絡んでいる。DF米倉恒貴からのスルーパスを、ペナルティーエリア内に攻め上がっていた背番号11が巧みにスルー。あうんの呼吸で反応した大森が、冷静にゴール左隅を射抜いている。

「ネットを見れば『(宇佐美)貴史がドイツへ行ってどうなる』みたいなことが、あれこれ書かれていた。アイツの存在が大きかったのは事実ですけど、今日は 代わりに……代わりといっては何ですけど、(大森)晃太郎が出て、点も取って結果も残している。そういう競争意識がチーム内にあるので、いい刺激になっていると思います」

確信に変わりつつある指揮官の手応え

 武者修行時代に培ったハードワークを存分に発揮。同時にボールを巧みにさばき、あるいは力強く前へ運ぶプレーでガンバの中盤に新風を吹き込んだ倉田が 「宇佐美ロス」を吹き飛ばせば、これまでは守備に費やしていたパワーを攻撃に生かし、正確無比なキックで2ゴールをアシストした遠藤も続く。

「1試合だけで判断するのは早いと思いますけど、いい感じで攻撃ができていたし、もう少し自分たちがボールをもつ時間を長くすればさらにベターかなと。カ ウンターでもボールをキープしながらでも、相手ゴールへ勢いをもって攻めていく攻撃ができれば、どんな相手に対してもチャンスは生まれてくると思うので」

新布陣のもとでサンフレッチェに3-1で快勝した一戦を境に、長谷川監督は「経験を積ませてガンバの武器にしていきたい」と、ボランチ・倉田をキーマンに設定していた。

あれから1ヶ月半。敵地でアントラーズを撃破したことで、指揮官の手応えは確信に変わりつつある。

「シュウ(倉田)のボランチが様になってきたし、ヤット(遠藤)をトップ下にしたことで、だいぶゲームをコントロールできるようにもなってきた。ヤットは 相手が嫌がるところでボールを受けるし、ゴール前に入っていく一方で、危ないと思えばちょっとポジションをさげてくる。常に頭を使いながら、彼らしい動き をしてくれるようになったことはチームにとっても大きい」

いまだにアデミウソンが完全にフィットせず、無得点のパトリックが自信を失いかけているという課題も残ってはいる。それでも、宇佐美を欠いた戦い方に方 向性を見出したガンバは、アントラーズ戦で得た勢いを自信に変えるために、ホームにベガルタ仙台を迎える9日の第2節で必勝を期す。

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