宇佐美貴史のブンデス再挑戦を、戦友・遠藤保仁はどう見ているか

ガンバ大阪の宇佐美貴史が、ドイツ・ブンデスリーガのアウクスブルクに完全移籍した。

「ガンバですべてが成長した。(ドイツでのプレーにも)不安はないです。自信を、勇気を持ってやっていきたい」

ドイツに旅立つ前、宇佐美が語った言葉は、5年前に19歳でバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)に期限付き移籍したときとは違った。「今回が最後」という覚悟を秘め、「必ず結果を出す」という強い決意が込められていた。

バイエルン・ミュンヘンからホッフェンハイムに移ってプレーし、志半ばで帰国したのは3年前。当時、J2だったガンバに復帰すると、FWでプレー した。もともとシュートの技術が高く、得点能力は高かったものの、以前はドリブルなどで仕掛けるプレーが多く、ストライカーというイメージはなかった。し かし長谷川健太監督は、宇佐美のゴールセンスと技術の高さを評価してトップに配置。それが見事に奏功し、宇佐美は18試合で19得点をマーク。J2優勝、 そしてJ1昇格に絶大な貢献を果たした。

「(FWをやって)自分のプレーの幅を広げられたと思うし、自分のスタイルがガラッと変わった感じ。新しいモノを見つけたというか、出会ったというか、とにかく新鮮で(伸び盛りだった)中学校の頃に戻ったように楽しかった」

J1に昇格した2014年は、パートナーや対戦相手によって自らの役割を変えつつ、ゴールを重ねた。リーグ戦ではシーズン10得点を記録。ベストイ レブンに輝く活躍を見せると、チームは三冠(Jリーグ、ナビスコカップ、天皇杯)を達成した。宇佐美本人も、「攻撃において、やれないことが少なくなっ た」と、プレーヤーとして大きな自信を得た。

ところが、昨季の8月からサイドハーフに配置されると、ゴールを決められない時期が続く。宇佐美自身「(思っていたよりも)サイドからの点の取り方に難しさがあった」と相当悩んでいた。

その悩みは、今シーズンを迎えても解消されていなかった。解決の糸口さえなかなか見つけられず、ファーストステージ序盤はチームも低迷した。

そうした状況の中で、宇佐美はある日、大事なことに気がついた。自身と同じようなポジションで、世界で活躍する選手たち、アトレティコ・マドリードのアン トワーヌ・グリーズマン(フランス代表)や、バルセロナのネイマール(ブラジル代表)などの点の取り方を見て、点の取れるポイントに入ることの重要性を認識したのだ。

そうして、Jリーグファーストステージ終盤の湘南ベルマーレ戦、浦和レッズ戦、サガン鳥栖戦と、3試合連続でゴールを記録。サイドからの点の取り方を完全につかんだ。

宇佐美にとっては、ドイツに行く前に悩みが消え、すべてのパーツがそろったという感覚を得たに違いない。それゆえ、「すべてが成長した」という言葉が自然と出たのではないだろうか。

そんな宇佐美を頼もしそうに見つめる男の姿があった。遠藤保仁である。

「この3年間は、(宇佐美が改めて)海外に行く準備期間としてはちょうどよかったと思う」

宇佐美が10代の頃から、ずっと間近で見てきた遠藤はそう語った。

「タ カシは3年前、日本でやってきたことがドイツで通用せずに帰ってきた。でも、それ(その失敗)をその後の自分の成長にどうつなげるのか、もう一度海外に行くためには何をしなければならないのか、タカシはやるべきことがわかっていた。実際、それらを実現できなければ、うちでレギュラーになることもできない し、代表にも入れないし、(海外から)オファーもこないわけだから。

例えば、(ガンバに復帰した宇佐美は)スプリントの回数が増えた。守備もちょっとずつできるようになった。そうして(海外から)オファーが届いて、また海外に挑戦できるようになった。それは、タカシが3年間で成長してきた証だと思う」

この3年間、宇佐美は公式戦133試合に出場し、75ゴールを記録した(※Jリーグチャンピオンシップ、ゼロックススーパーカップを含む)。その中でプ レーの幅も広がった。私生活でも子どもが生まれ、親としての責任感が芽生えた。同時に、10代の頃にはなかった気持ちの余裕も生まれた。

19歳で海外に挑んだ前回は「不安もあった」と宇佐美は言うが、今回は満を持しての挑戦になる。3年間の成長を武器にして、はたしてドイツで輝きを見せることができるのだろうか。

遠藤は「正直、わからない」と言う。

「でも、少なくとも前回とは違う。まず、ドイツでのプレーを一度経験しているので、ドイツのサッ カーのスタイル、質、選手のことはよくわかっている。ゼロからのスタートじゃないから、それは大きなアドバンテージになる。それに、今のタカシはコンディ ションがいい。Jリーグのシーズン途中での移籍だから、(オフ明けの)他の選手より動けるだろうし、“違い”を見せられると思う。そうすると、出場機会が 増える。そこで結果を出せば、タカシの(チーム内での)序列は上がっていくよ」

プレシーズンでは、新戦力の試用と見極めが同時に行なわれる。宇佐美はすでに、チーム合流2日目の練習試合でゴールを挙げるなど、自身のアピールは順調に進んでいるようだ。このまま結果を出し続けることができれ ば、少なくとも開幕からしばらくはチャンスがもらえるだろう。

「とにかく、最初が肝心。そこでゴールを決めるしかない。昨年、マインツに移 籍した武藤(嘉紀)も最初に点を取ったからボールが集まるようになった。(本田)圭佑(ミラン)にしても、点を取るようになって評価が一変した。海外っ て、そんなもんでしょ。だから、出場のチャンスをもらっている間に、いかに結果を出すかが重要。あとは、チームのスタイルにどれだけ馴染むか、だね」

そう語った遠藤。宇佐美の再挑戦において、唯一危惧しているのは、最後の部分だ。

アウクスブルクは中堅クラブゆえ、ボールをしっかり保持して常に主導権を握って戦うようなチームではないからだ。アウェーの試合となれば、より守備 的な戦い方に徹するだろう。だとすれば、かつて「ドイツのスタイルは自分に合わない」と言っていた宇佐美は、なかなか思いどおりにはプレーできない可能性 がある。スタイルが合わない中で自分らしさを出していくのは、相当な力がないと難しいため、なおさら不安は増す。

遠藤が再び語る。

「も ともとアウクスブルクは攻撃的なチームではないからね。攻撃したいけど、できない状況をずっと我慢したり、その際にチームのために何ができるのか考えたり しないといけない。それにプラスして、ハードワーク。わかっていると思うけど、それができないと、ドイツでも、代表でも試合には出られない。

(チー ムのスタイルを考えると)最初はなかなかゴールを奪えず、結果が出ないかもしれない。でもそこで、周囲が騒いでも、気にせずにやること。それが大事だと思 う。タカシは気にしぃだし、悩むと深く考え込んでしまうところがあるけど、持っているモノは十分に通用するんだから、我慢強く自分のやれることをやればい い。そうすれば、評価も、結果もついてくるよ」

宇佐美にとって2度目のブンデスリーガの舞台は、過去を塗り替えることではなく、過去の経験を生かして3年間で成長してきたことをプレーで証明する場でもある。24歳の挑戦は決して甘いものではないが、打開していく術は十分に持ち得ているはずだ。

リンク元

Share Button