[INTERVIEW]宇佐美貴史―世界で勝つための武器の磨き方―

アウグスブルク移籍が決まったガンバ大阪の宇佐美貴史。日本代表のなかでも抜きん出た破壊力を持つG大阪のエースストライカーが2015年当時に語った、自身の新しい武器とは。

「わからないのが、いいんじゃないですか」

「ちょっと、あそこに入れてみようか」

FIFAのある会議で、出席していたフランツ・ベッケンバウアーが新しい公式球を手にしてそう言った。ポンと革靴で蹴ったボールは少し離れた屑籠にゴールイン。出席者の拍手を誘ったという。

スター選手の条件を1つだけあげるとすれば「蹴る能力」だと思う。

ボールコントロール、アイデア、スピード……いろいろな能力はあるけれども、結果を出し続けるからスターはスターと呼ばれるのであって、結果はキックによってもたらされる。パスもシュートも最後はほぼキックで終わるからだ。

ウズベキスタン戦、宇佐美は正確なシュートで代表初ゴールを記録した。GKに防がれてしまったが、左サイドからカットインしてファーポストを狙ったシュートも“らしい”一撃だった。

独特のキックの上手さについて聞くと、「説明できないです。振りが小さいとか言われますけど、自分ではまったく意識していないので。普通に蹴っているだ けです。まあ、筋力ではないでしょうし、上手くボールに当てられているのか、体をしならせられているのか、自分ではわからないです」

おそらくベッケンバウアーやペレやマラドーナに聞いても「説明できない」と答えるのかもしれない。そもそもキックはその人固有のもので、人に説明しても あまり意味がない。同じ蹴り方をしても同じボールにはならないからだ。上手く蹴れていれば本人にとっては何の問題もないわけで、体が覚えているものは言葉 にはしにくい。

そして、彼らは上手く蹴れないという経験もたぶんしていない。

「わからないのが、いいんじゃないですか」

宇佐美にとって、もうそこは問題ではないのだ。シュートが入るのはわかっている。終点は見えているので、そこまでの過程を作っている段階なのかもしれない。

得点を取るための力の使いどころ

――ウズベキスタン戦は見事なゴールでした。

宇佐美 ボールが来たときに、シュートまでは持っていきたいと思っていました。ファーストタッチで右側へ持ち出したときに縦へのコースが見えたのでグッと入っていって、あとはGKと近すぎず遠すぎずの距離を保ちながらシュートしました。

――左足で止めて、右足のアウトで右へ持ち出してDFを外す。このプレーはJリーグでもよく見られます。そんなに速い感じはしないのですが。

宇佐美 速さだけではないですね。相手の体重移動とかを見て逆をとります。駆け引きです。

――ハリルホジッチ監督の印象は?

宇佐美 完璧主義者じゃないですか。強調したいことは繰り返し伝えます。

――「縦に速い攻撃」も強調されていたことですか。

宇佐美 はい。日本代表の現在の選手たちで遅攻は十分できるので、速攻の意識を植え付けるのはいいことだと思います。両方できないと幅が生まれないですからね。監督のやりたいことと、チームとして不足しているところが一致していたので、すごくいいんじゃないかと思います。

――今回のポジションは4-2-3-1の2列目左サイドでした。プレーしてみていかがでしたか。

宇佐美 ずっとやっていたポジションなので違和感はなかったです。中央よりもプレッシャーもない。中央だと前後左右からプレッシャーがかかりますが、サイ ドだとそこまでではないのでプレッシャーが緩い感じがしました。まあ、90分間プレーしたわけではないので、運動量がどうかとかはわからないですけど。

――G大阪では2トップでプレーしていて、前線で得点にエネルギーを使うことができる。サイドハーフはもっと守備で下がるケースもある。4-2-3-1ならトップ下のほうがG大阪のポジションに近いと思いますが、監督からトップ下での起用について話はありましたか。

宇佐美 いえ、なかったですね。

――代表でのプレーのイメージは?

宇佐美 G大阪で中央でやっていることをそのまま左サイドでやるイメージです。縦に仕掛けてクロスか、中へ入ってシュートかというプレーではないです。僕はプレーの幅があるほうなので、それを生かしながら一辺倒にならないように心掛けてプレーしようと思っています。

「常に動き回りながら点をとれればベストだと思っています」

――得点にエネルギーを使えるという点では、G大阪のようなポジションのほうが向いているのではないですか?

宇佐美 ポジションは監督が決めることなので、言われたポジションでやるのが仕事です。中央をやりたい気持ちはありますが、サイドでも間違いなくやれますから、ポジションへのこだわりはありません。

――岡崎(慎司)選手のように動き回っても点がとれる選手もいますが。宇佐美さんは動きすぎると点をとるのが難しいタイプではないですか?

宇佐美 (岡崎選手のように)上下動して、裏への飛び出しを繰り返しながら点をとる。そういう選手にならなければいけないと思っています。世界的にさぼり ながら点をとっているアタッカーは、もうクリスティアーノ・ロナウドぐらいでしょう。メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールも動きながら点をとっていま す。

ロナウドはうまくさぼりながら、クロスが入ってくるときにいいポジションをとって、そこで一気に力を使ってワンタッチで得点を決めています。ロナウドは そういう点のとり方をしますけど、目指しているのはそこではない。常に動き回りながら点をとれればベストだと思っています。

――ただ、得点の大半はペナルティーエリア内ですから、「そこ」へ入っていくのは大事ですよね。

宇佐美 今年はそういう得点を増やしたいと思っています。ボックスに入っていかないと点のとり方が限られてくる。逆に「そこ」へ入っていけば、いくらでもとれる感覚はあります。あまり後方で力を使わず、前でどれだけ力を使えるか。力の使いどころはわかってきています。

昨年はワンタッチのゴールが少なくて、それが10点しかとれへんかった要因だと思う。ワンタッチ、ツータッチのシンプルなゴールを増やすのが課題だと思 いました。今年はスタートからなるべく前でプレーする意識を持っていて、それが上手くいっている。下がらないわけではないですが、前でプレーする回数を多 くする。

オンを生かすために問われるオフの質

――代表の雰囲気はいかがでしたか。

宇佐美 楽しかったです。プロになって1、2年目のときのワクワク感がありました。G大阪とは立ち位置も役割も違うし、代表ということで注目度も違う中で、いいモチベーションでやれました。

――遠慮とかもなく? 本田や香川に合わせなきゃいけないとか。

宇佐美 全然ないです。ビビりもない。だからこそ合わせられるんじゃないですか。上手い選手同士なら細かいフィーリングも合わせられるものです。遠慮してやるといいプレーにならないし、そんなことすら考えていません。

――全然遠慮しないというのは性格ですか、それとも経験?

宇佐美 性格もありますけど、バイエルン・ミュンヘンにいたときにリベリーやロッベンと練習していたのは大きかったかもしれません。世界のトップレベルを 間近で見たことで、そこから逆算して何をすればいいのかがわかりやすくなりました。また、彼らの基準で考えるようにもなった。だからこそ代表でも物怖じせ ずにできた。

――世界のトップはどうでしたか。

宇佐美 トレーニングでも圧倒的でしたね。100パーセント、120パーセントやる、練習から。リベリーとロッベンはとくにそうでした。

――ところで、体脂肪が多いと報道で取り上げられていましたが。

宇佐美 すでに解決策は見出しています。もともと低いほうではなくて、十代のころから13パーセントを切ったことがなかった。今年から体重と体脂肪の管理 を徹底するようになったので、この3ヶ月でも2パーセントは落ちています。その途中の段階での数字が出て、メディアが騒いでいるだけで。

僕としては6月に体調管理の成果を見せつけられるので、騒いでもらってむしろ有難いと思うようにしていますけど。

――奥様がそのあたりの専門的な知識(編集部注:ジュニア野菜ソムリエ)があるとか。

宇佐美 食生活に関してはほぼ任せきっています。助かりますよ。おかげでキレもコンディションも良くなっています。

――今後の課題は何ですか。

宇佐美 オン(ボールを持っているとき)をやれるのはわかっているので、それを生かすためにもオフをどれだけできるかですね。いまのところオフ・ザ・ボールで引き出して点をとれていますし、いい感触を持っています。90分間、攻守に貢献することも課題です。

――これまではオフをそんなに考えていなかった。

宇佐美 それはあります。オンでやれるぶん、それにこだわっていたところもありました。今年、長谷川(健太)監督や和田(一郎)コーチと話して、もっと得 点するにはオフをプラスしていこうと。いただいた教材も見ながら、オフの駆け引きを自然にできるようになってきた手応えはあります。

――プレーしていても楽しくなりますね。

宇佐美 幅ができましたね。ワンタッチ、ツータッチのゴールも増えましたし、このまま継続していけばオフが武器になっていくと思います。

攻守両面で貢献して、なおかつ点もとるストライカー

――得点も楽にとれる。

宇佐美 楽ですね。こんな楽やったかなと思うぐらいで。コネてコネてシュートしたり、ミドルでぶち抜くようなゴールだけでなく、オフで外してワンタッチでのゴールもあれば、相手もつかみづらいと思いますし。

これまでもオフの動きはやってきたつもりでしたけど、どうすればいいのかはわかっていなかった。中学高校年代ではオンで勝負してきたこともあって見えてなかった部分です。

例えば、カバーニやジェコの動きの意味をレクチャーしてもらったのですが、一発目のオフの動きがその後の布石になっていたりする。オフへの見方が変わってきましたね。

小学生のときには年間200ゴールもしていたそうだ。

「1日に3試合とかやりますからね」

本人はあっさりしたものだが、子供でも200ゴールはかなりとてつもない数字だ。もうそのころから蹴る能力は身についていたのだろう。

ボールを持てば何でもできるタイプのアタッカーが、ボールのないときの動きに進化をみせはじめている。いいポジションをとって、ワンタッチで流し込むだけの「シンプルな得点」も狙うようになった。

ただ、宇佐美の目指しているのは「ロナウド」ではないという。攻守両面で貢献して、なおかつ点もとるストライカーであるようだ。

アルジェリアを率いていたときの起用をみると、ハリルホジッチ監督は対戦相手や状況に応じてタイプの違う選手を使って変化をつけている。4試合すべてに先発した選手は3人だけ、アタッカーでは右サイドハーフのフェグーリただ1人だった。

ガンバ大阪での宇佐美のプレースタイルをそのまま代表に当てはめれば、ポジションはトップ下になると思う。

しかし、最初の2試合ではいずれも左サイドハーフでの起用だった。より運動量が求められるポジションだ。ハリルホジッチ監督が宇佐美に何を求め、今後どう起用していくかは興味深いところだが、宇佐美のゴールは決まっている。

目指すところに到達してしまえば、ポジションや起用法の議論すらなくなっているに違いない。

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