なぜ藤春廣輝だったのか?リオ五輪OA内定、G大阪番記者が見たクラブの内情と“地獄の組”を戦うためのタフさ

リオ五輪サッカー男子代表のOA枠の1人にガンバ大阪の藤春廣輝が内定した。A代表でも実績のある選手だが、果たしてこの人選は最適なものなのか? ブラジルに精通するガンバ番記者が分析するとともに、クラブの内情にも迫る。

リオ五輪は“地獄の組”。タフさ求める手倉森監督

 リオデジャネイロ五輪に出場する男子U-23日本代表のオーバーエージ(OA)枠にガンバ大阪の藤春廣輝が14日、内定した。

昨年26歳で初の日本代表に招集された遅咲きのスピードスターのOA枠起用は、U-23日本代表がグループステージを戦う開催地の特性を考えれば、実に理に適ったものだった。

日本が属するグループBはナイジェリアとスウェーデン、そしてコロンビアと同居する「死の組」。そんな組み合わせ以上に日本の障壁となりかねないのが、開催地の気象条件である。

日本がグループステージの開幕戦と2試合目を戦うマナウスは、世界最大の熱帯雨林アマゾンのど真ん中に位置。「緑の地獄」と称されるように高温多湿の過 酷な環境で8月の平均気温が33度前後。ナイジェリア戦とコロンビア戦は午後9時にキックオフではあるものの、厳しい環境で試合を行う可能性は十分だ。

そしてやはりブラジル北部のサルヴァドールも常夏の地で、マナウスほどの湿度はないが日中は厳しい暑さが待っている。

死の組どころか「地獄の組」と言っても過言ではない組み合わせが決まった翌日となる4月15日に市立吹田サッカースタジアムで行われるガンバ大阪対柏レイソルの一戦を視察に訪れた手倉森誠監督は、本大会に向けた選手の選考を問われると、開口一番こう言い切った。

「まずタフじゃなきゃいけない。精神的にも身体的にもタフな選手、ちょっとでも故障をかかえているとなると相当しんどくなる。オレは世界大会の中でも一番過酷な大会だと思っている」

藤春が誇る脅威のスタミナ。本人は暑さも歓迎

 高温多湿の環境でも運動量やインテンシティが落ちないことが必須条件。守備陣に怪我人が続出するU-23日本代表の苦しいチーム事情の中、ガンバ大阪が誇るスピードスターを抜擢したのはある意味で必然でもあった。

手倉森監督の選択が決して間違いではないことを物語るのが6月11日に行われた湘南戦における藤春のパフォーマンスだ。

気温32度を超える蒸し暑さの中、前半から再三、左サイドを駆け上がった背番号4は速さと並ぶもう一つの武器であるタフさを見せつけた。細身の体からは 想像もつかないが、昨年のチャンピオンシップ準決勝では延長戦を含む120分をフルに戦い抜き、終了間際に圧巻のカウンターから決勝点をゲット。その得点 も見事だったが15キロを走り抜いてなお、フルパワーで前線へと駆け上がるタフさは驚異的だった。

ブラジルで待ち受ける厳しい気象条件にも藤春は「暑い気候だと相手が先にバテるし、僕は好き」とむしろ歓迎気味だ。

一方でクラブにとっては藤春をOA枠で送り出すのは痛し痒しといったところである。

チーム力ダウン必至だが、クラブの反応は?

 5人のOA枠候補に入っている段階で長谷川健太監督は「拒否できるなら拒否したい」と苦笑。「シーズン中に最大5試合いなくなるわけだし、快く送り出すチームはないと思う」と現場を預かる立場での本音を口にした。

無理もない話である。左サイドからの攻撃はチームの武器の一つだが、藤春の離脱に加えて、同サイドでプレーする宇佐美貴史もアウクスブルクへの移籍話が浮上しており、左サイドの戦力ダウンは必至。

ただ、6月14日の会見に同席した上野山信行取締役アカデミー部長も「一番は本人の意向を尊重する。その次にクラブが合意するということ。本人に聞けば 『行きたいです』ということだった。セカンドステージの5試合不在は不安だが、藤春選手のステップアップになればということで快く送り出した」と内情をこ う明かす。

一方で、上野山取締役アカデミー部長の言葉で示唆的だったものがある。

「当初の目標通り、今回は2名出す。2020年は4人出すというプランを持っている」

言い間違いでなければ、「今回は2名出す」という発言が意味するものは藤春に加えて、更にもう一人をU-23日本代表に送り出すという事だ。

アジア最終予選を兼ねたAFC U-23選手権や先日行われたトゥーロン国際大会にはガンバ大阪から井手口陽介が招集されているが、井手口もやはりタフさを持ち合わせる選手。「つなぎが まだまだ課題」とトゥーロン国際大会で自身の足下を見つめ直した19歳だが、藤春同様にブラジルでのプレーに適した特長を持っているのは確かである。

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