G大阪の選手が新スタで抱く決意。宇佐美が覚えた“既視感”は夢舞台誕生の証左か

ガンバ大阪の新たな本拠地「市立吹田サッカースタジアム」が、ついにこけら落としを迎えた。名古屋グランパスを迎えた14日のプレシーズンマッチで3対1 の快勝を収め、新たな勝者の歴史をスタートさせた選手たちに、日本サッカー界で初めてクラブ主導で建設された、夢と魅力が凝縮されたサッカー専用スタジア ムをホームとして戦っていく意義を聞いた。

歓声が反響し、威圧感を強める構造

 こけら落としとなる一戦のキックオフの笛が鳴り響いた直後に、守護神の東口順昭は違和感を覚えた。時間が経過していくごとに、それは間もなく始まる新シーズンへ向けた課題と化していく。

「キーパーとしては声の通り具合などを意識していましたけど、まったく通らなかったですね。万博のときは声でポジションを修正していたのに、それができないという難しさがありました」

ゴール裏のスタンドとゴールラインまでの距離が10m。メイン及びバックスタンドとタッチラインまでの距離に至っては7m。いずれもFIFA(国際サッ カー連盟)が定める下限の距離で接しているサッカー専用のピッチには、声の塊がスタンドを覆う屋根に反響して、まるでシャワーのように降り注いでくる。

さらには、メインスタンドから見て左側、ガンバのホーム側となるゴール裏だけは他のスタンドと異なる構造となっている。3層で形成されている点は同じだ が、メイン、バック、そしてアウェー側のゴール裏の2層部分がVIPエリアとなって上下を分断しているのに対し、ホームのゴール裏にはそれがない。

3層すべてがスタンドとなり、折り重なるような形で急傾斜のスロープを形成している。一体となって応援したいと望むサポーターの意見を取り入れて、当初の設計を変更したホームのゴール裏は、ガンバの野呂輝久社長によれば「すべて埋まると1万人が入る」という。

市立吹田サッカースタジアムの収容人員は約4万人。実に全体の4分の1が集結するホームのゴール裏が作り出す、青一色に染められた光景は壮観であり、相手チームの神経をすり減らした。

2010年シーズンまでガンバに在籍。ヨーロッパから復帰した後はジュビロ磐田、サガン鳥栖、ヴィッセル神戸、そして名古屋グランパスと渡り歩いてきたDF安田理大は、ボールをもつたびにガンバのゴール裏に陣取ったサポーターが繰り出すブーイングの標的となった。

鮮明に聞こえてくる罵声は努めて聞かないようにしたが、それでもメンタル面で少なからず影響があったと、安田は試合後にこんな言葉を残している。

「ピッチのサイズは変わらないのに、狭くなったような気がしたというか。威圧感というものもあった」

プレー中に宇佐美が覚えた“デジャブ”

 もっとも、ホーム裏のゴール裏はガンバの選手たちの背中を押すだけではなかった。大声援の塊を背中と頭上から浴び続けながら前半の45分間を守った東口が、苦笑いしながら続ける。

「守備全体に関しては特に問題はありませんでしたけど、いままでコーチングでカバーしてきたマークの受け渡しなどは、ちょっと考えないといけないですね」

MF宇佐美貴史はデジャブを覚えながら、後半40分にMF大森晃太郎との交代でベンチへ下がるまでプレーしていたと試合後に明かした。

「ホッフェンハイムのスタジアムにちょっと似ていて、さらに規模を大きくしたような感覚ですね。見ての通りでピッチと(スタンドが)近いし、これでお客さ んが入ったらどうなるんだろうなと思っていましたけど、すべてがイメージ通りだったというか。常に歓声が降ってくるような感じでしたね」

2012年夏から1年間プレーしたホッフェンハイムのホーム、ヴィルソル・ライン・ネッカー・アレーナの収容人員は約3万人。2009年1月の開場と比較的新しく、すべての席を屋根で覆われている構造も、デジャブを喚起させたのだろう。

ガンバの先発フォーメーションは4‐2‐3‐1。昨シーズンも数多く見られた、パトリックをワントップにすえた背後に3人の攻撃的MFを配置。宇佐美は左サイドを主戦場にした。

前半26分には相手コーナーキックのこぼれ球を拾い、前方にいたMF藤本淳吾へパス。藤本が右タッチライン際に張っていたMFアデミウソンへロングパス を通し、アデミウソンが放った低く速いクロスがグランパスのオウンゴールを誘発。新スタジアムにおける第1号ゴールが生まれた。

ガンバの先発フォーメーションは4‐2‐3‐1。昨シーズンも数多く見られた、パトリックをワントップにすえた背後に3人の攻撃的MFを配置。宇佐美は左サイドを主戦場にした。

前半26分には相手コーナーキックのこぼれ球を拾い、前方にいたMF藤本淳吾へパス。藤本が右タッチライン際に張っていたMFアデミウソンへロングパス を通し、アデミウソンが放った低く速いクロスがグランパスのオウンゴールを誘発。新スタジアムにおける第1号ゴールが生まれた。

屋根で全席で覆いながらも日照量は確保

 この1月で36歳になったベテランのMF遠藤保仁は、いつものように飄々としていた。昨シーズンまでと同様に左腕にキャプテンマークを巻いてはいたものの、右足の甲に違和感を覚えていたこともあり、セットプレーのキッカーを藤本と宇佐美に託した。

前半36分にMF今野泰幸が決めた2点目は、藤本の左足から放たれた正確なフリーキックによってアシストされた。後半21分の3点目は前述した通りだ。

特に昨シーズンまで不在だった左利きのキッカーが加入したことを受けて、「セットプレーでもゴールできるようにしていきたい」とこう続けた。

「(藤本)淳吾もいいボールを蹴っていましたからね。まあ、僕が蹴るボールは嫌というほど見ているだろうから、今日は試合前から監督に『蹴らない』と伝えていました」

もっとも、新スタジアムへの感触を問われると、淡々とした口調のなかにも、高ぶってくる熱い思いをのぞかせてもいる。それだけ、3万5271人で埋まった空間は刺激的だった。

「スタンドの上のほうまでお客さんが入っていましたし、これだけ毎試合入れば素晴らしいスタジアムになっていく、応援の声も自然と大きくなっていくのかなと。雰囲気も非常にいいですし、プレーしている側にはモチベーションが上がる以外の何物でもないと思いますけどね」

長短の正確なパスを配給して攻撃にリズムをつけ、相手守備網の急所を突く遠藤のプレースタイルと、芝生の状態は切り離して語れない。一方でノアビアスタ ジアム神戸に代表されるように、全席が屋根に覆われたスタジアムは日照不足が原因となり、芝生が発育不足に陥るケースが少なくない。

そうした失敗例を生かして、市立吹田サッカースタジアムは南側の屋根をガラス張りとして一定の日射量を確保。さらにピッチレベルには4隅に通風口を設け、自然の風を取り入れる構造とした。

“自前”となったスタジアムで狙う、タイトルの積み重ね

 法人及び個人からの寄付金と助成金で140億円強の建設費をすべてまかない、既存のスタジアムのように行政ではなく、クラブが主導する形で市立吹田サッカースタジアムは建設された。

設計からの過程では、何よりもサッカーを「観ること」と「プレーすること」が重要視された。スタンドとピッチをぎりぎりまで密着させたのも、当初の計画 を変更してホーム側のゴール裏スタンドの形態を変えたのも、屋根やピッチレベルに芝生の発育を考慮した工夫が凝らされたのも、すべては日本で初めてスタジ アム建設においてクラブの意向を十二分に反映させたからだ。

「今日の試合に関しては問題なかったですけど、これから連戦が続くとか、雨が多い時期になるといろいろなアクシデントが起こる可能性があるので。管理する方々は大変だと思いますけど、今日くらいのレベルを保っていただければ、毎試合いい状態で迎えられると思いますけどね」

試合後の取材エリア。ジャージー姿でこう語る遠藤の左胸の部分には、9つの星が縫い込まれていた。J1を2度、ナビスコカップを2度、天皇杯を4度、そ して2008年のACL。これまで獲得したタイトルの数を示すものであり、さらに増やしていくことを見越して、新たな星が刻まれるスペースも確保されてい る。

迎える2016年シーズン。ACLを含めたすべてのタイトルを狙いにいくスタイルは変わらないと、遠藤は静かな口調のなかに決意をみなぎらせる。

「これだけいいスタジアムができて、いい結果を出せるメンバーもいるので、自分たちがいいパフォーマンスを見せていくことで、より多くのタイトルを積み重ねていければと思います」

市立吹田サッカースタジアムは昨年9月の竣工後に吹田市へ寄贈され、同時にガンバが指定管理者として管理運営を担っている。吹田市との契約は2063年 3月31日までの47年6ヶ月間。実質的にガンバの「自前」となった夢舞台で、西の横綱、あるいはビッグクラブとなるための新たな挑戦が紡がれていく。

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