<ガンバ大阪・定期便162>宇佐美貴史がたどり着いた境地。「一切を遮断し自分のプレーに目を向ける」

■力みなく、迷いなく、プレーを繰り出す。

 とにかく、宇佐美貴史に一切の力みを感じない。キック、パス、シュート。どれをとっても、だ。言うまでもなく、そのすべては、彼が磨き続けてきた技術と、それをピッチで表現するための準備があってこそ、だ。それは宇佐美に限らず他の選手も同じだろう。だが、繰り返しになるが、ここ最近の宇佐美はとにかく力みがない。

 正直、今、チームが置かれている状況は決して楽観視できるものではない。結果が出ない苦しみは、当然、選手の誰もが背負っていて、それでもと、前を向いて戦いを続けている。

「変えるのは自分たち」。山下諒也が言い切るように。

「この状況にみんなで責任を背負って、進んでいく」イッサム・ジェバリが言い続けてきたように。

 宇佐美も然りだ。彼の場合は、ピッチを任される責任はもちろん、おそらくはこのクラブで宇佐美にしか担えないエンブレムの重みも背負ってピッチに立っている。

 だが、それさえも感じさせないほどに、今の彼には力みがない。

 『スーパーミドル』で今シーズンのリーグ戦初ゴールを挙げた前節・アビスパ福岡戦に続き、今シーズン初めて2試合連続の『先発』を預かった、第12節・京都サンガF.C.戦もそうだった。

 この日、ガンバがあげた2つのゴールは宇佐美のフリーキックから生まれたが、いずれも、今の「力みのなさ」を象徴するものだった。

 31分、ペナルティアークの外、やや左側で得たFKのチャンスに右足から放たれたキックは、見事な軌道でゴール左隅を捉え、65分に右タッチライン際で得た、やや距離のあるFKでは、ゴールにほど近いニアサイドに山なりのボールを届け、中谷進之介がヘディングで競り落としたこぼれ球をイッサム・ジェバリが押し込んだ。

「先制点は、イメージ通りに蹴れました」

「2点目は、あそこのポイントの相手の対応が前半から終始、良くなかったので、そのポイントにあげただけです」

 これは、いずれも、試合直後、TVメディアがゴールシーンについて尋ねた際に、彼の口をついて出た最初の言葉だ。

「イメージ通りに」「ポイントにあげただけ」。

 至極当然という口ぶりだったが、言うまでもなく、それらは決して簡単なことではない。特に、1点目のFKは、宇佐美が得意とするエリアからのFKだったとはいえ、相手選手は7枚で壁を作り、壁の下には1枚、寝転がってコース消している。その状況で、宇佐美は壁の上を狙い、ゴール左上を突き刺したのだ。囲み取材に応じてくれた彼にゴールシーンについて少し突っ込んで尋ねると当然、明確な狙いがあった。

「天皇杯だったり、他の試合を通して、あの辺の位置から僕がFKを蹴る際に、壁の外側を打っているというようなデータが少し相手GKに入っているかもな、というのは頭にありました。なので、自分の中では『外側』も選択肢にはあったんですけど、その方向に蹴りすぎていたことを踏まえ、今日は逆に上を通した方が入るんじゃないかと思って、あの弾道になりました」

 映像でぜひ振り返ってもらいたいのが、宇佐美がFKを蹴ったあと、ゴールに突き刺さるより前に、ガッツポーズで走り出していることだ。それも「イメージ通り」にボールが軌道を描いた証だろう。かつて24年のJ1リーグ開幕戦・FC町田ゼルビア戦で決めたFKを「自分史上、最高のFK」と話していた宇佐美だが、この日の一発も、当時とほど近いエリアから決めている。感覚的には似たものを得たのではないか。尋ねたところ、「そうですね。はい。距離的なことを含めても、自分が決めたFKの中でもランクが上の方に入る点だったと思います」と返ってきた。

■『ガンバ・宇佐美貴史』としてサッカーを楽しむ先に。

 話を戻そう。ではなぜ、今、これほどまでに肩の力が抜けているのか、だ。

 いちばんの理由は、メンタルだろう。

 選手がその一本に、目の前の試合にどれだけの時間を注いできたのかを考えると、その一言で片付けるのはやや心苦しさもあるが、彼はいま明らかに『ガンバ・宇佐美貴史』として、そのキャリアでもっともサッカーを楽しんでいる。事実、少し前に、彼にそのままの言葉をぶつけた際も、彼からはチームの現状に対する思いとともに「うん、楽しいですよ」と返ってきた。

 少し長くなるが、その言葉のすべてを聞いてほしい。

「正直、ここまでの戦いを振り返って、百年構想リーグと今シーズンで、こんなにもチームが変わってしまうんやということに驚いています。これはサッカーがどうとか、個々の質がどうという話ではなく…全部、マインド。少し僕がケガから離れていた後にチームに戻った時にも感じましたけど、とにかく、みんなに余裕がない。センターバックが弾き返すボールはことごとく相手に渡るし、ボールを持った選手が(相手の)プレッシャーがきているわけでもないのに、前を見れない。ビルドアップの際に一人食われただけで一気にパスコースがなくなってしまう。余裕がある時なら、じゃあ自分で剥がせばいいやん、ってなっていたのにそれもできない。剥がすのがリスキーなら、抜き切らずとも剥がす素ぶりを見せるだけでもパスコースは作れるのに、勝手に切羽詰まった感じになってボールを下げてしまう。じゃあ、長いボールを蹴って、そのセカンドボールを拾おう、となっても、みんながガッチガチすぎて、拾ったセカンドボールも選択が全部、後ろ、みたいな」

「でも、面白いことに、それが1点取った瞬間に、解き放たれたみたいに、みんなの鎖が外れて、本来の姿が戻ってくるんですよね。今はその1点が遠いから、なかなか鎖も外れへん、ってことなんやろうけど。じゃあ、その鎖って何? って考えたら、マインド、メンタルでしかないというか。全部、ミスを犯すことへの恐怖でしかない。正直、この世界でプレーしている選手が、つい半年前までできていたことができなくなるなんてことは絶対にないし、実際、練習では前にもつけれるし、思い切ったプレーも、仕掛けられてもいますしね。なのに、試合になると、ミスをしたくないから前を見て斜めにつけていたボールがセンターバックに戻り、剥がしていたところで、ステイするから余計に行き詰まってしまう。それを見た相手は当然、その状況に付け込んで、ラインを上げてくるから、どんどん後ろ向きのサッカーになってしまいますしね。マジで、それだけ」

「その鎖を外すのって勝ちが一番の特効薬なんですけど、そう簡単に手に入るものではないから、僕はまずは今、その鎖を自分のプレーで外そうとしているというか。みんなに余裕がないなら僕が中盤で受けて、後ろ向きの状態からターンで剥がして前に持っていくとか。いつもならパスを選択していたシーンで敢えて、スピードアップしてシュートまで持っていくとか。敵ではなく味方が『おお!』となるような、『そうやったよな!』と思い出させるようなプレーをすることに集中してる。あるいは、無慈悲なシュートで点を取る、とかね。それで変わるものが絶対にあるから。というのも、変な言い方やけどこの鎖って、みんなのメンタルが弱いってこととも少し違って…なんていうか、この規模のファンがいるクラブの特性というのかな。みんながそれを感じすぎてがんじがらめになっているだけな気がするから。ミスをしたらまたファン・サポーターの皆さんを失望させてしまうとか、SNSで叩かれる、とか。今の時代は世に溢れる情報を拾う選手も多くなっているだけに、負ければまたそこから食らうという悪循環も出てきてしまう」

「ただ、幸い、僕はそれを全く食らっていないというか。正直、いい意味でも悪い意味でも、達観して自分のやるべきことに集中してる。頭にあるのは、ミョウさん(明神智和監督)に選択された時にベストを出します、ってことだけで、それ以外のことに気持ちが揺れることもない。もちろんこれは、ファン・サポーターの想いを感じてないとかそういうことじゃなくてね」

「いや、わかるんですよ。シン(中谷進之介)にしても諒也(山下)やタローちゃん(食野亮太郎)、柊斗(安部)にしても、倫(美藤)にしても。あの世代はここからガンバを背負ってまだまだ戦っていかなアカン選手で、その自覚があるからこそ、余計に食らうってことも。僕もその経験は少なからずしてきたつもりですしね。ただ、それを感じることと、プレーの選択肢が消極的になるのは別の話。実際、特別シーズンで前に前に躍動感を持てたのも、ある意味、昇格・降格がない百年構想リーグという特性と、負けが込んでいなかったからというか。少なからず従来のシーズンとはプレッシャーが全然違ったというのは、ガンバに限らず、どのチームの選手も感じていたはずで…。ある種、いい意味で気持ちが解放されてサッカーをしていたことがいろんなことを好転させていっていた。実際、その時と今とで、プレーしているメンツはほぼ変わってないんですよ。なのに、ここまでズルズルいくのって、絶対にマインドでしかない」

「だからこそ、僕はその鎖を外すきっかけをなるべく早く作りたいと思っています。そのためにも、僕はただ自分のやるべきことに集中するだけというか。ファン・サポーターの皆さんとか、応援してくれる人のために、なんて想いは、放っておいても自分の中に存在するんやから、必要以上に思うことをもうやめました。っていうか、ぶっちゃけ、そこに色々思うことにもう飽きた(苦笑)。思えば思うほどというか『頭が考えすぎるほど視野がギューっと狭くなってしまって思うプレーができひん』では本末転倒すぎるから。だから、僕はいいプレーを見せるために、一切を遮断して自分のプレーだけに目を向けてる。ある種の、自己防衛ですね(笑)。でも、今の僕はマジでそこだけです。実際、(試合に)使われなくても心がざわつかないなんて、以前の僕ならプロとしてどうなん? と思っていた気がするけど、今はマジで『ああ、そうなのね』ってだけ。でも、出たらやりますよ、っていう。これをメラメラ感がないとかそういうふうに受け取られたくないけど…いや、好きに受け取ってくれていいけど(笑)、でも少なからずその方が、自分を表現しやすいから。もうしばらくはこれでいかせていただきます」

■「ミスを帳消しにしていく結果をチーム全員で出していかなくちゃいけない」

 その言葉を聞いて「それは、ある意味、子供の頃のように純粋にサッカーを楽しめている境地だということですか?」と尋ねてみる。そこは即座に「それもちょっと違う! もう34歳やから」と否定された。

「いろんな経験を経て、ここにようやく辿り着いている感があるから、子供の頃のサッカーを楽しむとは、ちょっと違うかな。なんていうか、プロとして自分らしくサッカーを楽しむスタンスをようやく見つけたみたいな? それがガンバのためでもあるかもな、的な? まぁ、色々言いましたけど、純粋に痛いところもなくなって、コンディションがいいのももちろんあります。ただ、それもこの境地になっているかな、っていう気もしないでもないですけど」

 冒頭に書いた京都戦に限らず、これまで出場した全ての試合で、宇佐美は今、そのマインドでピッチに立ち続けている。それがピッチ上で、どんな効果として表れているのかは、改めて説明するまでもないだろう。

 ただし、だ。それがまだまだチームの『勝利』という結果に繋げられていない事実には、当然、彼も思うところはある。そして、おそらくは自分が発言するのが一番いいと自覚して、敢えてそれを言葉に変える。

「京都戦も攻撃の作りのところは感触的に悪くなかったし、攻撃も少しずつ改善していっていると思う。攻撃の内容は、1つ前の福岡戦よりも良かったですしね。その部分は引き続き高めていきながら、あとは守備のところでしっかりゼロ(無失点)で我慢できるように…口で言うのは簡単ですけど、そこを高めていければなと思います。10人になってシステムを変えてからも、僕自身がピッチにいた時間帯もそうですが、全然、守れるという感覚はありました。カウンターか、セットプレーでは点が取れる気もしていたし、10人になってすぐにみんなで集まった時も、そういう会話をしていました。チームには全然いけるぞ、っていうモチベーションも感じていました。むしろ、好都合というか、あの瞬間は、特に1人少なくなったことへのデメリットは感じていなかったです。実際、狙い通りにセットプレーから追加点を決められて、あとは締め括るだけだったと思います。ただ、その状況からしても、あの時間帯、あそこで、あのミスは絶対にしちゃいけない。もちろん、前半のシュートチャンスをFWが決めていたら、というのも含め、サッカーでは誰か一人のミスでチームが負けることは絶対にありません。だから、クリアミスをした将太(福岡)一人の責任ということでは決してないし、背負わせることも絶対にしたくない。だけど、この試合を次に繋げていくためには、そこは厳しく求めていく必要もある。と同時に、いろんな選手がそういったミスを犯す可能性があるのがサッカーだと思えば、次の試合で必ず勝って、そうしたミスを帳消しにしていく結果をチーム全員で出していかなくちゃいけないとも思っています」

 その『次』は中3日で迎える10月28日の、ACL Elite第3節、ブリーラム・ユナイテッド戦だ。さらに中3日でJ1リーグ第13節・FC町田ゼルビア戦へと続く。勝ちきれなかった悔しさを晴らす戦いは、すぐそこに迫っている。

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