<ガンバ大阪・定期便161>期待膨らむ、藤原奏哉のガンバデビュー。

■攻守に『らしさ』を光らせた、ヴィッセル神戸戦。

 ガンバ大阪への完全移籍が発表されたのが9月15日。大阪に移動して、チームの全体練習に合流したのが17日。そして、ガンバでの公式戦デビューが20日のJ1リーグ・ヴィッセル神戸戦となれば、試合までいかに目まぐるしい日々を過ごしたのか、想像に難くない。

 特に、J2リーグ2026/27が開幕してから9月6日の第5節・横浜FCまで、前所属のアルビレックス新潟でフル出場を続けてきたことを思えば、きっと彼自身も『ガンバ・藤原奏哉』としてピッチに立つことにまだ慣れていない状況での先発出場だったことだろう。

 だが、神戸戦で先発のピッチを預かった彼は、ピッチを退くまでの80分間、それを感じさせない『らしい』パフォーマンスを示し、攻守に輝く。明神智和監督は彼の加入に際し「基礎技術もしっかりしていて、堅実にプレーできる賢い選手。フィットに時間はかからないだろう」と話していたが、まさにその言葉を彷彿とさせるプレーが序盤から余すことなく表現された。

「合流からあまり時間がない中でしたけど、チャンスが巡ってきたので本当にやるだけでした。シーズンの途中から加入した選手というのは、こうした難しい状況でもチームに馴染んでいかなきゃいけないし、結果を出さなきゃいけない。そのために呼ばれたとも思っているので、(時間がないことは)言い訳にしたくなかった」

 印象的だったのは試合の立ち上がり、4分だ。神戸・井手口陽介が差し込んだ縦パスが永戸勝也を経由して郷家友太にわたり、右サイドを攻略されかけたシーン。藤原は連続した動きから郷家の前にグイッと体を入れ、自由を与えない。本人は「欲を言えば、あそこで奪い切って前に出したかった」と振り返ったが、そのプレーは彼にも、チームにも確かな『スイッチ』を入れたように見えた。

 事実、以降も神戸を圧倒する展開になった。前線からの効果的な守備からゲームを支配し、かつ、奪った後もチーム全体の矢印が前に向いた攻撃が続く。ボールを持った選手を追い越す動きも多く、敵陣で押し込む時間を長く作り出しつつ、相手のカウンターに対しても速い切り替えからその芽を摘み取ってボールを奪い返す。藤原も効果的なポジショニングと戦術眼を光らせつつ、時折、前線にも顔を出した。

 その中では、11分に安部からのワンタッチパスを右サイドで受け取った後、スピードを上げてボールを運び、前線をめがけた長いグラウンダーのパスを通したシーンも。残念ながら相手DFに対応されてわずかに軌道が変わり、土信田悠生はシュートを打ちきれなかったものの、運動量と周りと連動性といった藤原の『らしさ』が目を惹いた。

「立ち上がりはチームとして相手の背後を狙いながら試合を進めようという話だったんですけど、相手も下がってきて、スペースが空いてきていたのもあって、1枚剥がして、ボランチを経由して、自分も上がれるタイミングがあるならサポートに行って、というのを繰り返すことを意識していました。そこは狙い通りにできたと思っています」

 スコアレスで迎えた後半。55分にオーバーラップから体勢を崩しながらイッサム・ジェバリを目掛けてクロスボールを送り込んだシーンも印象的だ。これも相手DFに対応され、ジェバリのボレーシュートは枠を捉えられなかったが『プラスワン』の効果は確かに感じられた。

「長いクロスボールはそこまで得意じゃないですけど、狭い局面だと自分の良さが出ると思っていて、そういう意味では今日はいろんな(攻撃の)形を出すことができたのかな、と。今日はクロスボールを2本上げましたけど、2本とも味方に通ったことを思えば今後も、『あとはFWが決めるだけ』というような質のボールを供給できれば、もっとチームを助けていけるんじゃないかと思っています。ジェバリはしっかり収めてくれる選手だし、常に前を向いてゴールに向かってプレーするので出す側としてもすごく出しやすい。諒也(山下)も背後を突きながらチェックバックで足元でもプレーできるし、スピードを活かして仕掛けられる選手なので、自分がそこにしっかりついていければ、チームとしてもゴールチャンスは増えていくはず。そんなふうに後ろからの組み立てには積極的に参加したいと思っているし、自分の持ち味でもある、周りの選手に対して『プラスワン』を作るというか、パスコースを作るとかサポートに入る動きはどんどん増やしていきたいです」

■「新潟への愛もあったので悩んだ」移籍。31歳の決断。

 約6年間にわたって在籍し、J1昇格やJ2降格など悲喜交々を味わった思い入れのある古巣・アルビレックス新潟を離れる決断は簡単ではなかったが、AFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACL Elite)の戦いなど「これまでのキャリアで経験できていないことができる」ことに魅力を感じ、移籍を決めた。

 オファーから決断まではわずか2日。シーズン中の移籍ということもあり、限られた時間の中でとことん考え抜き、結論を出したという。

「ガンバはタイトルを獲れるチームだと思っています。これまでのキャリアで個人的には、ギラヴァンツ北九州でJ3リーグ優勝を、新潟でJ2リーグ優勝を経験してきて、J1リーグでもタイトルを獲りたいという思いが強かった」

 その過程では、新潟で不動の右サイドバックとして戦ってきたからこそ「新潟にいれば長くプレーすることはできるかもしれない」という考えも浮かんだそうだ。だが、最後はそれを「居心地のいい場所を離れなければ変われないこともある」という思いでかき消した。

「新潟の監督をはじめ強化部の方、社長とも話をして、クラブからはサッカー面でも重要な存在だと評価していただいたし、クラブとしても大事な選手だと伝えてもらっていました。新潟には約6年間、在籍しましたけど、特に自分としてはサッカー面じゃないところも評価していただけたのは素直に嬉しかったです。当然、(新潟への)愛もあったので、悩みました。ただ31歳になって、自分のパフォーマンスがいいうちに、できるだけ早く上のステージでやりたいという思いが勝りました。新潟ではずっと4バックでプレーしてきたのでガンバの4バックにもハマるのかなと描いていますし、ガンバはサイドからの攻撃もオーバーラップだけではなく中に入っていくプレーもやっているので、そういう部分でも貢献できるんじゃないかと思っています。ただ、ディフェンダーなので、まずは『守備』のところをより自分の売りにしていきたいです」

 移籍は今回で2度目。阪南大学卒業後、プロキャリアをスタートした北九州から新潟に活躍の場を求めた際は、25歳だったこともあってだろう。「ただただ、新たな気持ちで挑戦する、やってやろうという思いが強かった」と聞く。それに対し今回は31歳と、年齢的にもベテランの域に達した中での決断だったからこそ、当時とはまた違う決意で新天地を求めた。

「今回は初めてのシーズン途中の加入だということもあるし、年齢のことを考えても、ただ挑戦するというよりは、自分がどこまで上がっていけるか、このチームに認めてもらうためにどのくらいできるか、ということをなるべく早く示したいと思っています」

 加入が決まった日に開催されたACL Elite2026/27の初戦、コンアン・ハノイ戦をDAZNで観戦しながら、似たようなタイミングで加入した土信田悠生や角昂志郎が『ゴール』という結果でチームに貢献する姿にもいい刺激を受けたそうだ。

「二人が点を取るシーンも見ていましたが、やっぱり選手は『結果』を出すことで認められると思うので。僕は前線の選手ではないし、どちらかというと『90分』で評価される選手だと思っているからこそ、しっかり練習からアピールして試合に出るしかないと思っています」

 ガンバに対しての印象は、加入した時こそ「怖いイメージもあった」と笑ったが、実際に合流してみると「年齢が上の選手も、下の選手もみんな話かけてくれるので、打ち解けやすいチームだと思いました」と藤原。パナソニックスタジアム吹田には、新潟時代、J1リーグを戦っていた2023〜25年に3度、足を踏み入れていたとはいえ、対戦成績はガンバの4勝2分だったことから試合前には「パナスタでは一度も勝てなかったという印象しかない」と苦笑いも。だが、神戸戦を戦い終えたあとはそのイメージに大きな変化があったようだ。

「敵としては勝てていない印象しかなかったので、パナスタには嫌なイメージしか残っていなかったんですけど、今日ここでガンバの一員として試合を戦って、ガンバのファン・サポーターの皆さんを味方に戦えることを本当に心強く感じました。悔しくも勝利という結果では応えられなかったですけど、まずは自分の特徴は出せたのかなと思うので、これを続けていきたいです」

 『28』という背番号に新たな覚悟をにじませて。

「背番号を選ぶにあたっては、小さい頃からサッカーをしてきた中でこれまでつけたことのある番号をつけたいと思っていました。最初は小学生の時に初めてもらった背番号『55』がいいなと思ったんですけど、二種登録の選手がつけているので無理となり…。それなら、北九州では22を、新潟では25と、ずっと20番台を背負ってきたので20番台にしようと思い、大学2回生で初めて試合に出た時の背番号28を、新たな気持ちで、という思いで選びました」

 その決意のもと、持ち味を存分に知らしめたデビュー戦。残念ながら何よりも望んでいた『勝利』は掴めなかったものの、「1つの試合、1つの失点を重く受け止めながらも投げ出さないとか、戦う姿勢を見せ続けることが本当に大事。その姿勢が必ずチーム全体に広がっていくと思っています」と藤原。そのキャリアで味わってきたたくさんの喜び、悔しさといった経験値が感じられる言葉と共に、しっかりと前を見据えた。

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