「あと10年早ければ」 宮本恒靖氏も憧れるガンバ大阪の新スタジアムに見る未来

ついにこけら落としを迎えるガンバ大阪の「市立吹田サッカースタジアム」。

かつてガンバ大阪で現役時代の多くの時間を過ごした宮本恒靖氏も「あと10年早ければな、と思いますよ」と、うらやましそうに笑う。

世界中のスタジアムでプレーした経験を持つガンバのレジェンドが、新スタジアムに見ている未来を語った――。

心の動きまで感じられる新スタジアム

――ガンバ大阪の新スタジアムが、もうすぐこけら落としを迎えますね。

宮本「ガンバのアカデミーが練習をしているグラウンドのすぐ隣にあって、だんだんと出来上がっていく様子を見てきたので、本当に楽しみですね」

――他のスタジアムとの違いを教えていただけますか?

宮本「まず、寄付から生まれたというところですね。建設費140億円のうち、99億がスポンサーや地域企業、35億がtotoなどの助成金、6億が個人。 本当に、みんなの思いがないとできなかったスタジアムですし、自治体のお金に頼らなくても、あれだけのものができるというのは、他の地域のサッカーファン にとっても夢がある話だと思いますね」

――さらに新スタジアムはトラックのない「サッカー専用スタジアム」です。

宮本「観客席が近いというのは、サッカー選手としてうれしいこと。見ている人の心の動きまで感じられるし、それにつられるように自分たちのパフォーマンスまで上がっていく。あのピッチでプレーできる選手たちがうらやましい。ホンマに、あと10年早ければなと思いますよ」

――陸上競技場とサッカー専用スタジアムでは、プレー面での違いはあるのでしょうか?

宮本「プレーヤー目線で言うと、陸上競技場の方が技術的には難しくなります。観客席とピッチの間にトラックがあるので、ロングボールを蹴る際など遠近感がつかみにくいんです。プレーの質に関しても、陸上トラックがないことのメリットはあると思います」

――近い距離で試合を見ることは、ライトファンを増やすことにもつながるでしょうか?

宮本「Jリーグの課題は新規で見に来る人が少ないこと。新スタジアムをきっかけにJリーグに足を運ぶ人は多いでしょうから、どれだけリピーターとして引き付けられるか。そこは大きなチャンスになると思います」

実際にヨーロッパのスタジアムで感じたこと

――宮本さんは世界中のスタジアムでプレーされてきましたが、日本が参考にしたいと感じたことはありますか。

宮本「ヨーロッパではスタジアムがサッカービジネスの中心になっているんですね。FIFAマスターの時に学んだのですが、ヨーロッパには“UEFAファイ ナンシャルフェアプレー“というルールがあって、2018-19シーズンからは、直近の3シーズンの支出と収入の差がマイナスになるとペナルティーが科せ られます。でも、その支出の中にスタジアム建設に関わるお金は含まれない。UEFAはスタジアムを造って、お金を生み出すことを各クラブに推奨しているわ けです。ユベントスは11年に新スタジアムを建設しましたが、自前で建てて、管理も自分たちで行っている。自前のスタジアムであれば、テナントの賃貸料も 入ってくるし、スタジアムを借りるお金も発生しない。実際にユベントスも収入はアップしているようです。ガンバのスタジアムが日本における新しいビジネス モデルになるかもしれません」

――「スタジアムがお金を生む」という発想は日本のサッカーには今までなかったものですね。

宮本「ヨーロッパのやり方を全て見習うことは難しいと思います。ただ、ヨーロッパに行って日本よりも進んでいるなと感じたことは多くありました。例えば、 僕がプレーしていたザルツブルクでは、試合後にラウンジでスポンサー企業の人たち、選手やその家族などが食事をするんです。ちょっとサインをしてあげた り、写真を撮ってあげたりもする。でも日本のように囲まれることはない。そういう程よい距離感がありました」

――スポンサーにとっては、応援しているクラブの選手たちとそうやって触れ合えるのはメリットですよね。

宮本「ヨーロッパでは、それだけサッカーの地位が高いということもあります。だから、クラブを応援することや試合を見に行くことがステータスになるし、ス タジアムがある意味で社交の場になっている。もちろん、観客席で応援してくれるファンやサポーターの方々を大事にしながら、スポンサーを満足させるための 仕組みを作ることも考えていくべきだと思いますし、ガンバもそこに取り組んでいくと聞いています」

――ブンデスリーガのクラブでは、シーズンチケットによる安定収入がクラブの経営の柱になっているとも言われます。

宮本「ヨーロッパではシーズンチケットを持っていること自体がステータスになっているんです。買いたい人が多いので、ウェイティングリストがあって数年待 ちということも珍しくないそうです。シーズンチケットを持っている人も毎試合見に行くわけではないけど、失ってしまうと買えなくなるからずっとキープす る。クラブにとっては、シーズン前の段階で売り上げが確保されるという面で大きい。日本の場合、まだまだサッカー文化、Jリーグのステータスの高さを確立 できていない中で難しいかもしれませんが、新スタジアムがそういうきっかけになっていってほしいですね」

新スタジアムのもう一つの目的

――日本の多くのスタジアムは街から離れたところにあって、試合がない日は閑散としています。でも、ガンバの場合は商業施設「ららぽーと」が近くにあるので、試合がない日でもにぎわいそうですね。

宮本「最近、提唱されているのが“スタジアムを核とした街づくり“です。先ほど話したスタジアムがお金を生むということともつながるのですが、ガンバのよ うにスタジアム周辺にショッピングモールがあったり、テーマパークがあったりして、相互にお金が落ちるようにする。そうすることで地域全体の活性化につな がります。あとは屋根にソーラーパネルがついていたり、備蓄倉庫があるなど、災害時に地域の防災対策機能の役割を果たすそうです」

――バルセロナに行った人はカンプ・ノウ、ロンドンに行った人はエミレーツ・スタジアムの見学ツアーに行くなど、ヨーロッパでは、スタジアムが観光スポット化している例もあります。

宮本「ガンバとしても外国人の観光客を呼びたいという考えもあるようです。大阪の場合、関西国際空港が南の方にあって、そこから心斎橋、USJ(ユニバー サル・スタジオ・ジャパン)、大阪城と“北上“していくのですが、そこから京都などに行ってしまう。万博記念公園などがある北エリアに訪れる観光客が少な くて、あまりお金が落ちていなかった。ヨーロッパのように、サッカーのスタジアムは観光客が足を運ぶ一つのフックになります。経済効果をもたらすものとし て大阪府も期待しているようです」

宮本氏の最も思い出深いスタジアム

――宮本さんがコーチを務めるアカデミーの子どもたちのモチベーションも上がっていますか?

宮本「かなり(笑)。今年から試合で使われるようになるので、そこで試合を見ると、よりいっそう上がると思います。子どもには言ってますよ。『あそこに何があるの?』と。あと5年ぐらいは、そのセリフが使えるでしょうね(笑)」

――宮本さんはJリーグで監督をするために必要なS級ライセンスを取得されましたが、“宮本監督“がガンバの新スタジアムで指揮を執る姿を見たいと思っているファン・サポーターは多いはずです。

宮本「まだ、具体的にはイメージできないですね。一つの目標ではありますけど、自分としては経験が足りないと思っているので、やっていくべきことは多いと 思います。昨年までジュニアユースのコーチを担当して、今年はユースの監督になりましたけど、それぞれのカテゴリーでやるべきことは変わってくる。トップ ではまた違ったプレッシャーもあると思いますから」

――宮本さんにとって思い出深いスタジアムを一つ挙げるとしたら?

宮本「やっぱり、万博記念競技場ですね。あそこに立つことを本当に夢に見ていた時代もありましたし、優勝したシーズンの熱狂は本当に忘れられません。陸上 競技場とか、サッカー専用スタジアムとかは関係なく、万博への思い入れは強いものがあります。僕が指導している選手たちには、ガンバの新スタジアムを夢見 ながら頑張ってもらって、そこで大きな夢を叶えてもらいたい。そう思っています」

[PROFILE]
宮本恒靖(みやもと・つねやす)
1977年2月7日生まれ、大阪府出身。ガンバ大阪ユースから95年にトップデビュー。2000年に日本代表初選出を果たすと、02年の日韓、06年のド イツとW杯2大会出場。07年よりオーストリアのザルツブルクへ移籍。09年よりヴィッセル神戸でプレーし、11年12月に現役引退。12年9月より FIFAマスターに挑戦し、13年7月末に修了。14年のブラジルW杯ではFIFAテクニカル・スタディ・グループの一員として活動。15年に古巣G大阪 のジュニアユースのコーチ、16年にユースの監督に就任。JFA公認S級コーチライセンス取得。

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