<ガンバ大阪・定期便156>ACL2決勝の記憶。今だから明かせる安部柊斗、魂の闘い。

 半年の特別シーズンが終わったので、安部柊斗について記しておこうと思う。

 記憶に新しいAFCチャンピオンズリーグ2 2025/26の決勝戦を前に、彼にどんな闘いがあったのか、だ。

 戦いではなく、闘い。

 そう書いたのは、アルナスル戦を前にして安部が示した姿は、まさに魂を込めた『闘い』そのものだったから。もちろん、その言葉は安部に限らず、すべての選手にあてはまるものではあった。脅威の『11連戦』において、もっと遡れば、開幕から続いた絶え間ない連戦において、身体が悲鳴をあげていた選手は多く、ともすれば、全員が万全とは言えない状態で決勝に向かっていたと言っていい。移動中も、また現地についてからも絶えず、痛みを抱えている箇所のケアに尽力した選手も多かった。

「みんながそれぞれに、いろんなものを抱えていた決勝戦でしたが、とにかく、その大一番を戦えることが選手のモチベーションというか、頑張れる理由になっていたんじゃないかと思います(田中雄太チーフトレーナー/フィジオセラピスト)」

 そうした状況にあって、チームに漲る決勝への『気迫』をより大きくしたのが安部の『闘い』だったと感じている。彼の決勝へ向かう執念、姿は間違いなく仲間を奮い立たせ、「俺たちも負けてはいられない」という気概をチームに生み出した。

■名古屋戦での負傷。ACL2決勝に帯同するか、否か。

 ACL2決勝を前にした安部の闘いに触れる前に、5月6日にアウェイの地で戦ったJ1百年構想リーグ・名古屋グランパス戦まで時計の針を巻き戻してみる。

 4月4日の第9節・京都サンガF.C.戦に始まった『11連戦』の10試合目。安部はこの日もボランチとして先発のピッチに立っていた。そんな中、アクシデント起きたのは、開始早々の12分のこと。相手選手のチャージを受けてピッチに倒れ込んだ安部は、左足を両手で抱え苦悶の表情を見せる。

 とはいえ、局面、球際でのバトルは彼の強みでもあり、それによってピッチに倒れ込む姿はある意味、シーズンを通して何度も見てきた光景だ。しかも、常に本人からも「痛みには強い方」だと聞いていたのもあったかもしれない。一度は立ち上がってピッチに戻る彼の姿を「そうだよな」と思いながら静観していた。

 だが、プレーを再開させて2分後、安部は再び座り込んでしまう。結果、プレーの続行は不可能となり、17分にピッチを離れた。榎本雄介チームドクターによれば「細かな事象も色々ありますが、大きな括りでいうと強度の捻挫」だったという。全治は明らかにされなかったものの、それが決して軽度ではないことは、のちにイェンス・ヴィッシング監督が彼の経過を見て、一度はサウジアラビア・リヤドへの安部の帯同を断念したことからも明らかだった。安部が当時を振り返る。

「5月6日に受傷して、10日のサンフレッチェ広島戦(第16節)はとてもじゃないけどピッチに立てる状態ではなかった…というか、必要以上に動かない方が、という状態だったので、スタジアムにすら行けていません。その経過を踏まえてイェンス(ヴィッシング監督)にも『決勝は連れて行かない』と伝えられていました。ただ、僕自身は最後までできる限りのことをやろう、と。チームが大阪を発つ日まで、ファイティングポーズを取り続けることがチームと一緒に戦うということだと思っていたし、少しでも可能性がある限り諦めたくなかったので、メディカルスタッフにも本当に手を尽くしていただきました」

 安部にとってAFCチャンピオンズリーグ2は、昨年5月末にガンバへの加入を決めるにあたって、大きなモチベーションにしていた大会だ。ベルギーからの帰国を決めた彼にガンバを選んだ理由について尋ねたときもその思いを口にしている。

「ACL2に出場することがガンバ加入の決め手になったと言っても過言ではないくらいアジアの戦いはすごく楽しみです。それによって試合数は大きく増えますが、自分はできるだけたくさん試合をしたいタイプだし、シーズンを通してフル稼働している方が自分らしさが出ると自負しているので。ぜひ、痺れる試合をたくさん戦いたいと思います」

 その決意のままに昨年9月から始まったACL2の全試合に出場し、そのほとんどを先発で戦ってきたからこそ、彼が『決勝』に並々ならぬ思いを抱いていたことや、それが「少しでも可能性がある限り」という思いに繋がっていたことは言うまでもない。

 そして、その姿を近くで見ていたからだろう。ヴィッシング監督も、広島戦を終えた翌日、つまりは遠征前日になって急遽、榎本チームドクター、田中チーフトレーナーを呼び「5〜10%でも可能性がある状態なら柊斗(安部)をリヤドに連れて行く。決勝までに少しでもその数字を増やしてほしい」と意向を伝えたという。それを受けて安部も、あることを確認し、帯同を決めた。

「決勝への思いは当然強いものがありましたけど、だからと言って、広島戦の翌日に榎本ドクターに電話をもらって『監督が連れていきたいと言っている』と聞いた時は正直、すぐに『はい、いきます!』ということではなかったです。実際『副キャプテンだから、とか存在感みたいなことだけで連れていきたいということなら僕は行きません』と答えていました。戦力としてカウントされないのなら、チームのためにも僕ではなくしっかりピッチに立って戦える選手が帯同すべきだと思ったし、自分の足のことを考えても、ただ長い距離を遠征するだけなら得策じゃないと考えました。それを再度監督にも確認してもらったところ『選手として連れて行くつもりだ』と聞いて、それなら、僕も他の選手と同じように試合に出るために最善を尽くします、となりました」

■リヤド入り。死力を尽くした闘い。

 その決意のもとリヤド入りしてからの安部はまさに目を見張るような闘いを繰り広げた。約20時間の移動を経てリヤドに到着した13日のトレーニングは別メニューで調整。痛めた左足首をテーピングで固定して、鍜治亮輔トレーナー(兼フィジオセラピスト)とマンツーマンで走ったり、ステップやジャンプを繰り返して足の状態を確認する。途中、テーピングを巻き直した後は、短い距離のボールを蹴ってフィーリングを確かめ、練習を終えた。

 2日目(14日)からは痛み止めを飲んで、部分合流。田中チーフトレーナーによれば「通常のリハビリのように『このプレーはできる』『あのプレーはできない』と段階を踏んで判断している時間がなかったので、全体練習に混ぜて本人の感覚を確認するのが狙い」だったという。その中ではほとんどのメニューをこなしながら、8対8のミニゲームのみ接触プレーのないフリーマンでプレー。その後のグループ練習には加わらず、鍜治トレーナーとクールダウンをして、グラウンドを後にした。

 そして3日目。キングサウード・ユニバーシティ・スタジアムでの前日練習で安部は、いよいよ完全合流を果たす。

「昨日初めて痛み止めを飲んで練習してみたんですけど、リバウンドもなかったので安心しました」

 この日はミニゲームでも制限なくプレーし、チームメイトとともに全メニューを消化。トレーニング後には、ピッチでヴィッシング監督と話し込む姿も見られた。

「この3日間、とにかく練習以外の時間は治療して、ケアして、プール行って、ジム行って、走っての繰り返しでした。少しずつプレー強度を上げていく上では、テーピングの巻き方もいろんなパターンで調整してベストを探ってきました。僕にほぼつきっきりで伴走してくれている亮さん(鍜治)には本当に感謝しています。すべての時間を惜しむようにケアをしていただいていますし、自分でも練習以外の時間はずっと足が良くなるためのケアにあてています。今はまだ『やれることを全部やろう』が合言葉ですが、亮さんのためにも試合に出て活躍し、優勝したいって思いは日に日に強くなっています。なので、今日の練習後に監督と話して状態を確認されたときも、正直に『痛みはゼロではないですけど、(試合は)いけます』と伝えました。それに対して監督にも『まだメンバーは決めていないけど『できる』と言う限り、ピッチに立ったら足のことを言い訳にしないでほしい。それでもやれるか?』と確認されて『はい、大丈夫です』と。実際、怖さもないです。というか、決勝のピッチに立てば、否が応でもアドレナリンが出るので足のことなんて忘れちゃうんじゃないかな。すでに前日練習でも『このスタジアムにお客さんが入ったらすごい雰囲気になるだろうな』って想像して気持ちが昂っているくらいなので、それを明日の試合にバチっと合わせるだけだと思っています。といっても、まだメンバー入りができるかもわからないんですけどね(笑)。でもここまでやれることは全部、やり切ったので。どんな結果になっても悔いはないです」

■いざ、決勝へ。

 そうして迎えた試合当日の朝。安部はメンバー入りを伝えられ、ベンチで出番を待つ。出場は1-0とリードを奪った状況下、60分から。勝っている流れ、守備に追われていた時間帯での投入とあって、どちらかというと「このまま試合を終わらせること」を意識してピッチに立ったという。

「とにかく、今の自分の最大値を、と思って入りました。ヤットさん(遠藤保仁コーチ)にも『勝っているから無理してガンガンいかなくていい。しっかり終わらせよう』と言われていたし、そこを一番に意識していたんですけど、一度、前がかりになったところでカウンターを喰らってしまったシーンがあったので、あそこは反省点として残りました。ピッチコンディションも少し難しかったというか…芝も長かったし、試合当日に少し刈られると聞いていたのにそうでもなくて。みんな前半からパスがズレたり、トラップを苦戦したりしていたように、僕も難しさを感じながらプレーしていました。ただ、そういう中でもアルナスルの選手はしっかりとクオリティを出してきていたので流石だな、と。特にモハメド・シマカンやジョアン・フェリックスの強度、質は別格でしたが、僕たちも前半のうちに1点を奪えていたことが勇気になって、最後まで全員で死ぬ気で守って優勝するんだっていう姿を示せたと思っています」

 その言葉通り、試合終盤は相手の猛攻にさらされながらも、守備陣を中心に「死ぬ気で守る」姿勢を示したガンバは勝者として試合終了のホイッスルを聞く。

「正直、ここまで押し込まれる展開は予想していなかったし、自分も思い通りにプレーできたのかと言えばそうじゃなかったです。でも最後までみんなで、ビビらずに相手に立ち向かっていけた。DFラインの頑張りのおかげで最後まで固い守備も示せたし、これまで連戦の中で積み上げてきた力がしっかりと決勝の舞台で表現できたからこその結果だったと思っています。個人的にもこの舞台を戦うために『タイトル』を喜ぶためにガンバに加入したからこそ、優勝の瞬間をピッチで体感できて本当に嬉しいです。最後まで寄り添い続けてくれた亮さんをはじめとするメディカルスタッフ、快く『頑張ってこい!』と送り出してくれた家族に本当に感謝しています。サポーターの声援も心強かった! 『海外で活躍する』という夢を捨てて日本に帰ってきて、ガンバに加入して本当に良かったです。試合が終わればドクターストップだと言われているので、僕の今シーズンはこの試合が最後になりますけど、この喜びをまた自分の力にして頑張っていこうと思います」

 歓喜の輪の中で感情を爆発させた安部はヴィッシング監督と抱き合った後、メディカルスタッフのもとへと足を進め、喜びを分かち合う。その安部についてヴィッシング監督は「偉大な選手」と賛辞を送った。

「正直、広島戦前は柊斗(安部)は難しいんじゃないか、と思っていましたが、諦めず、準備を続けている姿を見てリヤドに連れていくと決めました。それでも、前日までは『どうなんだろう?』と半信半疑でしたが、前日に彼と言葉を交わし、彼の目を見て、底知れない思いを受け取ったし、何よりリヤドに入ってからの彼の準備、努力は、本当にすごかったです。試合当日、残り30分強という状況で彼を投入する判断に至ったのも、その彼の想いが必ずチームの力になると思ったからでした。心から、彼を信じてピッチに送り出しました。本当に素晴らしい、偉大な選手です(ヴィッシング監督)」

 こうして、決勝でのプレーを最後に、チームより一足早く特別シーズンの戦いを終えた安部。悲願の『タイトル』の余韻に浸ったのも束の間、今は再び、左足首のリハビリと向き合う毎日だ。

「5月末に検査した結果、リヤドでのあの1週間もありながら、痛めた左足首が悪化していなかったのはすごくポジティブでした。次のシーズンに間に合えば、とは思っていますがそれも状態を見ながらになるかな、と。でも、タイトルがこんなにも嬉しいものだと知れたので、また頑張れます」

 勝利を、タイトルを獲得するために。ファイナルの舞台にしかない、特別な歓喜を味わうために。心と体を尽くした安部柊斗の魂の闘いは、すでに始まっている。

https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa

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