「今の監督は僕に合っている」G大阪、美藤倫がヴィッシング体制で掴んだ自信と成長意欲。「上には上がいる」と知った世界との差とは【コラム】
AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)決勝で、クリスティアーノ・ロナウド擁するアル・ナスルを封じ込め、ガンバ大阪のタイトル獲得に貢献した美藤倫。その勢いのまま臨んだ清水エスパルス戦でも、強度の高いデュエルと闘争心を前面に押し出した。苦しい時期を乗り越え、ボランチの主軸へと成長した男は、さらなる高みを目指している。(取材・文:元川悦子)
●「一皮剥けたかなと…」
5月16日のAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)でアル・ナスルを1−0で撃破し、頂点に立ったガンバ大阪。敵地・サウジアラビアで完全アウェイの中、クリスティアーノ・ロナウド、サディオ・マネ、ジョアン・フェリックスといったスター選手揃いの強敵を倒した意味は非常に大きい。
「クリロナ相手?もういつも通りやること。自分にできるのは一生懸命やることしかない。物怖じせずやることを意識しました。それで結果を出せて、無失点で終われて、自分たちのサッカーができた部分もあった。
アウェイの地で難しかったですけど、一皮剥けたかなと思います」とフル出場したボランチ・美藤倫は1週間前の激闘を脳裏に刻み付けていた。
だが、彼らの戦いはそれだけでは終わらない。明治安田J1百年構想リーグ・地域リーグラウンドはいよいよ最終盤へ突入。短い調整期間を経て、ガンバはMUFGスタジアムに乗り込み、24日のWEST最終節・清水エスパルス戦に挑んだのだ。
17試合終了時点でガンバは6位。ACL2王者としては、決して満足できる順位ではない。清水に勝てば1つでも順位を上げることができる。イェンス・ヴィッシング監督も選手たちを鼓舞して試合に臨んだ。
●劣勢の試合展開で見せたACL2王者としての意地
だが、やはりACL2ファイナルの影響は大きく、前半のガンバは全体的に重かった。立ち上がりは調整十分の清水に主導権を握られ、大いに苦しんだ。
17分には美藤が相手キャプテン・宇野禅斗に、球際で激しいアプローチを見せた。
このプレーにより、宇野が負傷交代を余儀なくされ、美藤にもVARによる退場確認が入った。結果的に警告止まりとなったが、彼自身は世界基準のデュエルを前面に押し出そうとしたのだろう。
その後、清水はややペースダウン。だが、ガンバも30分には食野亮太郎が右太もも裏を痛めるアクシデントに見舞われた。
互いに満身創痍の中、前半を0−0で終えられたのは、ガンバにとっても最低限の結果だったと言えるだろう。
迎えた後半、先手を取ったのは清水だった。
58分に右サイドを駆け上がった吉田豊のクロスに、宇野と代わった弓場将輝が巧みにヘッドで合わせてゴール。ガンバはビハインドを背負うことになった。
そうなるとヴィッシング監督も黙っていない。すぐさま南野遥海、名和田我空を投入すると、その直後、南野が値千金の同点弾を叩きこんだ。
●「この半年間…」
左サイドを駆け上がった初瀬亮のクロスに頭で合わせた形だが、「ユースの時に大黒(将志)コーチが『ボール来てからも動き出せる』と言っていた。
先に動くんじゃなくて、ボールに合わせるのも1つ動き出しの種類のパターンとしてある。そういうのが成功体験からうまくつかめたかなと思います」と本人にとっては理想通りのゴールだったようだ。
南野は、75分にも名和田からのクロスを左足で押し込み、ガンバは2−1で逆転勝利。勝ち点3を積み上げ、5位で地域リーグラウンドを終えることになった。
「この半年間、自分自身もサッカーをしていてすごい楽しかった。11連戦だったりとか、精神的にも肉体的にも本当にタフになったと思うので、キツかったですけど、すごく成長できた。
自分の持ち味である対人やデュエルを確立させられましたし、今日もそれを表現できた。今は自信も持てていますし、本当にいいハーフシーズンだったと思います」と美藤もACL2と百年構想リーグを戦い抜いた充実感をにじませた。
関西学院大学から加入したプロ1年目の美藤は、リーグ戦での出場がわずかに12試合。2015シーズンも23試合にとどまり、同じボランチのネタ・ラヴィ、鈴木徳真、安部柊斗らとの競争に勝ち切れなかった。
大学同期の濃野公人が2024年に鹿島アントラーズでブレイクし、Jリーグベストイレブン入りを果たす姿を見て、焦りを感じたこともあっただろう。
それでも、地道にコツコツ努力を続けた。そして、今シーズンから指揮を執るヴィッシング監督は徐々に重用。最終的にはボランチの主軸へと据えた。
●「苦しい時期もありましたけど…」
「今の監督は僕に合っているかなと思います。前の意識が強くなりましたし、持ち味をより発揮できるようになった。キャンプの時から取り組んでいたフィジカルトレーニングもよかったですね。
しっかり強度を上げられましたし、メンタルも強くなった。苦しい時期もありましたけど、やるべきことを確立できたのは大きかったと思います」と美藤はドイツ人指揮官との出会いに感謝した。
その結果、ACL2のファイナルでは世界的名手たちと渡り合うことができた。
「ジョアン・フェリックス選手は特にうまかった。今まで経験したことがないレベルだったので、本当にまだまだ上には上がいると感じた。
ボールの持ち方、トラップの質、パスの質とか、全てにおいてすごかったですし、判断を間違わないんで、ボールを取れるシーンがほぼほぼゼロだったんじゃないかな」と美藤は26歳のファンタジスタから衝撃を受けたという。
そのような経験を経て、「もっともっと上の領域に到達したい」という思いは強まる一方だ。
●「いろんな経験をしたい」
疲労困憊の中、フル出場した今回の清水戦でも「絶対に負けられない」という闘争心を前面に押し出していた。さらに、自身の成長曲線をより引き上げていきたいという野心も湧いてきたに違いない。
「やっぱり上に行きたいですし、いろんな経験をしたいので、今後どうなるかは分かりませんけど、しっかり認められたいと思っています」
美藤はガンバの偉大なボランチの先人である明神智和、遠藤保仁両コーチのように日本代表入り、ワールドカップ(W杯)出場を目指していくことになりそうだ。
北中米W杯後には新たな日本代表が発足し、選ばれる顔ぶれも変わっていくはず。そうなれば、美藤や南野といったガンバの若き成長株たちにもチャンスは十分にあるはずだ。
それを引き寄せるためにも、まずはプレーオフラウンドで東京ヴェルディを倒して、少しでもいい形で百年構想リーグを終えることが肝心だ。
5月30日・6月6日の2試合で青黒の背番号「27」はどのようなプレーを見せてくれるのか。タフさと逞しさを前面に押し出し、チームを勝たせる男になってほしいものである。
(取材・文:元川悦子)



