ガンバ大阪がドイツ人監督とともに新時代へ。復権の鍵は去ったスペイン人指揮官の「伝言」にあり
If you want a happy ending, that depends, of course, on where you stop your story.(ハッピーエンドを望むなら、それはいつ、物語を終わらせるかにかかっている)。アメリカの映画監督、オーソン・ウェルズは、こう言った。タイトルこそ手にできなかったが、ダニエル・ポヤトス前監督は、サポーターの心をガッチリと掴んでガンバ大阪を去った。
最終節後のセレモニーで漂った「ハッピーエンド」の空気感
2025年12月6日のJ1リーグ最終節。東京ヴェルディに快勝した後のセレモニーで漂った空気感は、紛れもなく「ハッピーエンド」を感じさせるものだった。
サポーターから惜しまれながらホームで別れの挨拶したのは、実に2011年を最後にチームを去った西野朗元監督以来。本来であれば昇格即三冠を成し遂げた長谷川健太元監督も、称賛されるべき大きな功績を残したが、セレモニーではあろうことかブーイングを受ける「バッドエンド」。やはり、物事は終わらせるタイミングが肝心なのである。
「ガンバをあるべき場所に戻す」と公言し続けた目標は夢半ばに終わったが、スペイン人指揮官は一つの「シクロ(スペイン語でサイクル)」を終えた。
集大成となるはずだった3年目のシーズンの評価が難しいのは、クラブが公式に2025年の目標を公式に明らかにしていなかったからだ。
ポヤトス体制のラストマッチとなるACL2のラーチャブリー戦後、スペイン人指揮官は「タイトルには届かなかった。しかし、これをベースにしてもう一つ上に進みたかったんですけど、クラブの判断で新しい道を行くというところをしっかりと受け入れて、選手たち全員がそれをしっかりとやってくれると思います」と語った。その言葉からも分かるように、「ファミリア・ポヤトス(ポヤトス一家)」の物語は、ガンバ大阪側からピリオドを打った格好だ。
サポーターが思い出した攻撃サッカーを見る喜び
2025年のガンバ大阪は、年間入場者数が570135人で、クラブの最多年間入場者数を更新。一試合あたりの平均入場者数も30007人でクラブ史上初めて3万人を突破した。
もちろん、クラブの営業努力が大前提の数字だが、「支配するサッカー」を口癖にする指揮官のもとで、サポーターは近年のガンバ大阪になかった攻撃的なサッカーを見る喜びを取り戻したからこそ、パナソニックスタジアム吹田はしばしば沸き、ポヤトス前監督との別れを惜しんだのだ。
対策がハマったり、近年苦手とした川崎フロンターレや横浜F.マリノスと言ったボール保持を重視する相手には、分析通りの好サッカーで真っ向勝負を展開。ポヤトス前監督の就任前には「天敵」と化していた川崎フロンターレにはリーグ戦の3年間で4勝2分。6試合で14点を奪い、その相性の良さは際立っていたが決して、偶然の産物ではない。スカウティング班の綿密な仕事もその一因だ。
もちろん、スペイン人指揮官も万能ではなかった。2025年もホームで0対5で惨敗した柏レイソル戦やアウェイで1対3で敗れた京都サンガ戦のように、用意してきた布陣が機能せず、修正力を見せきれない試合も時折、見られたのは事実である。
そして2024年の天皇杯こそ決勝に進出したものの、1年目からの悪癖だったカップ戦での勝負弱さもクラブが契約延長を望まなかった一因だろう。ただ、就任当初、多くの主力から「結果が出なくても、とにかくブレないで欲しい」とリクエストされたという指揮官は試行錯誤しながら、スタイルを構築し、そしてサポーターだけでなく多くの選手の心も掴んでいた。
中谷進之介がスペイン人指揮官への思いを口に
非公開練習が主体で、戦術的な練習を見る機会が皆無に近い今、氷山の一角さえ見きれていない取材者が思い込みで、ポヤトス体制の3年間を論じるのは無理がある。契約満了やむなし、と思っていた筆者ではあるが、最終節の前日に聞いた中谷進之介の言葉が、ストンと胸に落ちた。
東京ヴェルディ戦を前に、中谷は悔しげな思いを口調に滲ませながら言った。「今年に関しては去年よりも(僕への)信頼を感じていたし、何とかね、(ポヤトス前監督が)ガンバで続けられるようにと思っていたんですけど……。それが叶わずだったので、いいキャリアを築いて欲しいなと思います」
副キャプテンも託された中谷だが、決して監督に媚びたり、社交辞令を口にしたりする男ではない。そして、あるチーム関係者は「ダニ(ポヤトス前監督の愛称)はベテランの扱いが上手かったです」と語る。リーグ戦では過去2シーズン、サブGKの立場が続いた東口順昭も「比較的、サッカー(の内容)も面白くなったし、本当に感謝しかないですね。もちろん、悔しかったけど勝負の世界だし、ダニも僕を気にかけてくれていた。コミュニケーションもあったのでね」と話す。
集大成となるはずだった2025年に待っていた想定外の連続
そんなスペイン人指揮官にとって、不運だったのは2025年は想定外の連続が続いたことである。天皇杯で準優勝に輝き、J1リーグでは4位でフィニッシュ。結果的にポヤトス体制で最高のシーズンだった2024年は、チームの完成形を見た一年だった。
「貴史が輝けるオーガナイズをしないといけないと、ダニは常々言っていました」(チーム関係者)。チームの顔でもあり、絶対的な上手さを持つ宇佐美貴史を最大限に活かす布陣を模索。その理想型を見出したはずのガンバ大阪だったが2025年1月には坂本一彩がウェステルロー(ベルギー)に移籍し、替えが効かなかったダワンも北京国安(中国)に電撃移籍。さらに開幕前に志向したハイプレスに欠かせなかった山田康太はありえない不適切行為による離脱の後、横浜FCへと去った。
チームの背骨を抜かれるという異常事態でシーズン序盤を戦う現状に「フルメンバーを組んだら一年目に戻ってしまった」とポヤトス前監督はスタッフに語っていたという。
対戦相手や戦況に応じて臨機応変に対応するのがポヤトス前監督が理想とした「水のようなサッカー」。しかし、2025年のガンバ大阪はハイプレスが機能しなかったJ1リーグ戦の開幕戦を経て、ネタ・ラヴィ(現町田ゼルビア)を主体としたボールを握るサッカーに活路を見出したかと思うと、ラヴィの離脱後はフィットし始めたデニス・ヒュメットの速さを活かすカウンタースタイルも志向。そして、7月に獲得した安部柊斗が機能し始め、イッサム・ジェバリに安部や満田誠、美藤倫が流動的に絡む強度の高いサッカーでシーズンをフィニッシュする。
本来望まない形で、水のように戦い方を変えざるを得ない2025年ではあったが、安部が移籍後初ゴールを決めた9月の浦和レッズ戦以降、リーグ戦では5勝2分1敗で、ACL2は6連勝(相手の力量を考えれば、もう少し若手を起用する余地はあったはずだ)。
尻上がりに調子を上げたシーズンではあったが、中谷は「色々な選手が活躍するのはいいですけど、やっぱり核となる選手が出てこなかったったのは、今年はあるのかなと思います」と本音を口にした。
「ガンバをあるべき場所に戻す」という言葉は実現しきれなかったポヤトス体制だったが、残された遺産は確かにある。
就任当初、指揮官は良い選手には3つのタイプがあると話した。
1.良い選手だが、何も考えていない選手
2.良い選手だが「監督、これはどうしたらいいの」と質問してくる選手
3.頭の中で起こったことを解決する能力がある選手、監督に聞かなくても、「今はこういう状況だ」と周りに伝えて影響を広げていく選手
今のガンバ大阪のレギュラークラスには3つ目のタイプの選手が数多く揃っている。
クラブのサポートなしには望めない真の「ハッピーエンド」
新たにドイツ人のイェンス・ウィッシング監督を招いたガンバ大阪だが、一定の計算は立ったポヤトス体制から脱却した以上、目指すのはタイトル奪還以外にあり得ない。そして、その鍵はポヤトス前監督にとってのラストマッチとなったラーチャブリー戦後の記者会見で口にした言葉に隠されている。
「次の監督が来ても、野心を持ってクラブがしっかりと助けて欲しいと思っている」
オフの短い変則的なスケジュールに加えてACL2も戦う過密日程だけに、予期せぬ離脱者があるかもしれない。また、坂本やダワンがそうだったように主力の電撃移籍もサッカーの世界では常である。
欠けたり、抜けたりするパーツをいかにすみやかに補えるかーー。監督デビューとなる38歳の若きドイツ人指揮官の手腕は、まだ未知数だが、クラブのサポートなしに真の「ハッピーエンド」は望めない。
復権か現状維持か、それとも低迷かーー。
2026年1月7日、ガンバ大阪はウィッシング監督とともに新たな道への分岐点に立つ。
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/shimozonomasaki/articles?page=1



