丹羽大輝が語る、スペインでの挑戦と生き様…逆境を“あえて経験しに行く”男の今に迫る

スペイン・バスク州ビルバオ。かつて日本代表として日の丸を背負い、ガンバ大阪やFC東京など、Jリーグの舞台で躍動した一人の男が、この地で5年目のシーズンを戦っている。丹羽大輝、今季はスペイン5部リーグ所属のSDデウストでプレーする。ビルバオ郊外ゲチョのピッチで、彼の挑戦の真意に迫った。

取材・文=小澤一郎

写真=Kazuki Okamoto/Fergus

コロナ禍が変えたサッカーと人生への向き合い方

逆境をあえて経験しに行く

スペインでの挑戦は、言葉や文化の違いだけではなかった。昨季所属したクラブでは、プレシーズン開始直後に監督からいきなり戦力外通告を受けたという。しかし、丹羽は腐ることなく、与えられた練習の中で圧倒的なパフォーマンスを見せ続けた。戦力外扱いのため紅白戦にも入れてもらえず、ユースの選手とペアを組まされる日々。それでも彼は、練習に対する姿勢やピッチ外での振る舞いを決して崩さなかった。

「戦力外を経験することで、試合に出られない選手の気持ちが本当の意味でわかったんです。指導者になった時のために、あえて戦力外を経験しに行く、辛い場所に身を置くという感覚でした。どんなに厳しい状況でも、ピッチの上で監督に証明するしかないと思っていました」

その結果、シーズン後半戦でチームが連敗した際に突然メンバーに招集され、終盤には主力としてプレー。チームのリーグ優勝に貢献した。この経験を通じて、「半年以上プレーしなくても、自分でトレーニングをすれば試合勘は失わないことを僕は自分で証明しました」と語る。

スペインと日本の教育の決定的な違い

丹羽がスペインで最も深く考えさせられたことの一つが、子どもの教育だ。現在4人の子を持つ丹羽は、子どもの宿題を手伝う中で、日本との教育方針の明確な違いに気づいたという。

「例えば歴史の授業で、日本では『こういうことがありました、覚えてください』というのが一般的ですよね。でも、スペインの宿題はそれに加えて、『その出来事に対して、あなたはどのように考えますか?』という質問が必ず付くんです。例えば、ペリーの黒船が日本に来た時に、あなたはどう思いましたか?という意見を求められるんです」

これは、単に知識を暗記させるだけでなく、それに対して自分の意見を持ち、表現する力を養うことに重点を置いていることを意味する。さらに、その意見を人前で発表する「プレゼンテーション」の機会も学校では多い。

「日本でおとなしい性格だった娘が、スペインに来てどんどん人前で話せるようになりました。自分が出ていかないと、存在感がなくなってしまうと感じたんだと思います。やはり、環境や教育は子どもの可能性を無限に大きく広げるんだと実感しました」

この「自分の意見を主張する」という教育は、そのままサッカーのピッチにも現れる。「監督と選手が激しく言い合ったり、喧嘩のように見えるディスカッションをしたりする。それは、幼少期から自分の考えを伝えることを教えられているからだと思います」

もう一つの大きな違いは、「選択肢の多さ」だ。「昼食一つとっても、日本の給食のように『全員がこれを食べる』という決まりはありません 。給食でも、家に帰って家で食べても、バルで食べても、お菓子屋さんに行ってもOK。ただ一つ、『午後からの14時の授業には間に合わせてください』という目的があるだけ。目的は同じだけど、そこにどうやってたどり着くかは自分で決めなさい、ということを教育から言われているんだと思います」

この「自分で選択する」という経験は、サッカーにも直結している。「サッカーでも、『勝ちたい』という目的は一緒。でも、どうやって勝つかという道筋は一つではない。彼らは日頃の生活の中で、その道筋を自分で作り出すという作業を自然と行っているんです」。こうした教育が、選手たちに「アドリブ力」や「自分で状況を打開する力」を育んでいると丹羽は分析する。

4部・5部リーグに根付くサッカー文化

選手として、その先の活動と未来

スペインでの経験は、丹羽のサッカー観にも大きな影響を与えている 。今季は39歳にしてセンターバックではなく、徳島や福岡時代にもプレーしたボランチのポジションに新たに挑戦している。「年齢やキャリアは周りが勝手に決めること。その常識を外れていきたい。もう一度、このカテゴリーから這い上がっていく姿を皆さんに見せたい」と、飽くなき向上心を燃やしている。

その挑戦の根底にあるのは、「日本にサッカー文化を根付かせたい」という強い思いだ。「僕の孫やひ孫が『おじいちゃん、こんなことしてたんだ』と思うくらい、長い目で挑戦を続けたい」。苦難を避けるどころか自ら望んで経験しに行き、楽しみ、一つひとつ乗り越えて行く丹羽のスペインでの生き様は、サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として、多くの人々に勇気と希望を与えている。

「39歳で、日本人で、スペインで選手として挑戦できるのは僕だけ」と胸を張る丹羽大輝の選手としての飽くなき挑戦はまだ続く。そしてその後に続いていくであろう、スペインと日本のサッカーや文化をつないでいく架け橋の活動も見守っていきたい。

【プロフィール】

丹羽 大輝(にわ だいき)

1986年1月16日生まれ。大阪府堺市出身。ポジションはディフェンダー。ガンバ大阪ユースを経て2004年にトップチーム昇格。徳島ヴォルティス、大宮アルディージャ、アビスパ福岡への期限付き移籍を経験後、ガンバ大阪の中心選手として活躍し、2014年には国内三冠達成に貢献。2015年には日本代表にも選出された。サンフレッチェ広島、FC東京を経て、スペインに渡り、現在はスペイン5部リーグのSDデウストに所属。30代後半での異例の挑戦で、新たなサッカー人生を歩んでいる。

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