<ガンバ大阪・定期便140>満田誠の『1』。ファン・アラーノの激走。衝撃の宇佐美貴史。
J1リーグ第31節、横浜F・マリノス戦。ガンバは前半の立ち上がりから攻守にいい入り方を見せた。ハイプレス、ハイラインによってミドルゾーンでブロックを形成しながら、効果的にゴールに迫るシーンを再三にわたって作り出す。だが、それに対して相手の横浜F・マリノスにいい守備で対応されていたのも事実だ。特に時間の経過とともにガンバの戦い方に順応を見せ始めるにつれ、マリノスの堅守はより際立った。
そんな前半の流れについて宇佐美貴史は「これは手強い」と感じていたという。
「前半はマリノスもすごくコンパクトでソリッドな陣形を築いていて、なかなか難しいなというか、手強いなと思いながらプレーしていました(宇佐美)」
だが、後半はマリノスが置かれている『残留争い』というチーム状況もあってだろう。点を取ることへの意識がより強く働いたのか、前への矢印を強めたことがガンバには追い風となり、よりスペースを見出せる時間が増えていく。いや、厳密には立ち上がりはそのマリノスの勢いに押し込まれる時間が続き、60分には先制点も許したが、以降の時間帯は、マリノスの戦い方の変化を感じ取りながら、途中出場の満田誠、ウェルトンの『個性』も勢いに流れを引き寄せる。
その中で、あっという間に逆転まで持ち込めた流れを自信に、以降の時間帯はゲームを支配。最後は宇佐美がFKをゴールに沈めて加点し、3-1と勝利に繋げた。
■満田誠のガンバでの初ゴールが口火に。「ホッとしています」。
その後半の流れを作り出すキーマンになったのが、58分からピッチに立った満田だった。
「前半、立ち上がりは理想的に攻められていたので、その流れでゴールを見出せれば良かったんですけど、そうはならず…。逆に途中からは相手陣地に入ることが難しくなっているなと思いながら試合を見ていました。なので、自分が入るにあたってはしっかりと攻撃を前に進めて、厚みを増すために特にセカンドボールの回収を意識していました(満田)」
とはいえ、途中出場からわずか2分後に失点してしまったこともあり「より試合が難しくなるとも思っていた」という。だが、65分。満田はその意識していた「セカンドボールの回収」からの二次攻撃で好機を見出す。最後は半田陸とのワンツーからペナルティエリアに侵入し、右足を振り抜いた。
「(右サイドの深いところから)ウェルトンからボールをもらったタイミングでクロスボールを上げようか迷ったんですけど、相手DFが飛び込んできたので中に交わし、その後の相手の寄せも甘かったので陸(半田)にあててもう一回、中に入っていくプレーを選択しました。最初は陸にターンしてもらおうと思ってパスを出したんですけど、思ったより足元に入っちゃって。でも相手のボランチが食いついてくれたので、その瞬間に落としてくれれば決めれるかなと思っていました。陸からのボールが思ったよりも少しマイナス気味にきて、体勢的にファーサイドに打つのはちょっと難しかったので、ニアに、枠に、できるだけ相手が止めにくい高さに、という3つを意識してその通りにシュートを打てた。今回のようにセカンドボールを拾ったところから中に切れ込んで、味方を使ってゴール前に侵入していくプレーは、ボランチとしてゴールを決めるには理想の形だと思っていたので、それが出せて良かったです(満田)」
そうしたプレーは、ボランチでの出場が増えていた中で、遠藤保仁コーチや明神智和コーチからも再三に渡ってチャレンジを求められていたという。
「ボランチを預かる機会が増えて、どうしても後ろで受けてプレーする回数が増えていたこともあり、もっとゴールを意識した方がいいというか『ゴール前に入っていくプレーを増やして欲しい』ということを、ヤットさん(遠藤コーチ)やミョウさん(明神コーチ)にも言われていました。また僕自身も、あのエリアに入っていくことができれば攻撃に厚みもできて、ゴールにつながるということも、ボランチでの試合を重ねていく中で実感できていたし、回数も増やせていたので。それが今日のゴールに繋がったのかなと思います(満田)」
2月末に期限付き移籍での加入が発表されて約7ヶ月。ガンバで決めた『初ゴール』ということにも胸を撫で下ろした。
「自分自身としてもそうだし、ファン・サポーターの皆さんが期待して待ってくれているのを感じていた中で、なかなか取れず、焦る気持ちもありました。このタイミングになってしまったんですけど、ホームでようやく決められてホッとしているし、何より勝利に貢献できて良かったです。1点取れたことでより自信を持ってプレーできるようになるんじゃないかと思うし、残りシーズンの中でも積極的にゴールに絡んでいくプレーをもっと増やしていきたいと思っています(満田)」
ここ最近、チームがリーグ戦4連勝、公式戦5連勝という流れを作り出す上では、ボランチから早いタイミングで、前に、縦にボールを差し込む回数が増えていることが攻撃の流れをスムーズに加速させる要因の1つに。これはトップ下に位置する宇佐美貴史も含めて見出した関係性だという。
「自分が後ろに引けば、マコ(満田)や柊斗(安部)が入っていけばいいし、自分が前にいるなら、マコや柊斗が後ろにいればいい。そこは僕がトップ下に入った時はあまり決めずに、でも誰かがアンカーのところをぽっかり空けてしまうことはないように、という意識でやっています。それによってアンバランスな状態になることもあると思いますけど、逆にアンバランスというかイレギュラーな状態を作らないと、相手のイレギュラーも見出せない。しっかりリスク管理ができている状態なら、ローテーションしながらプレーする、くらいの気持ちでもいいのかなと思っています(宇佐美)」
満田も、手応えを口にした。
「戦術的にもチームとしてショートパスだったりコンビネーションで崩すシーンは数多く作ろうという狙いもある中で、最初の立ち位置というのは当然あるんですが、試合の流れに応じて、うまく入れ替わったり、誰かが下がってきたら、誰かが上がる、ということを練習からコミュニケーションを取ってやれている。そういう流動的な流れができれば相手も捕まえにくくなるんじゃないかと思っています。ただ、少しショートパスが多くなりすぎていてロングパスが逆に少なくなっているな、とも思うので。今日も途中から入って(失点後すぐに)ウェルトンで深みを取るようなパスを出しましたけど、スペースがあるのならそこを使うことで相手に怖さを与えられることもできるはずなので。僕は縦パスだけではなく、ロングパスも特徴だと考えても、状況を見て、空いていたらしっかり狙うということは意識してやり続けようと思っています(満田)」
■失点からわずか10分間での逆転劇と、宇佐美のリーグ『7』点目。
また、この試合を語る上でもう1つ忘れてはならないのが、ファン・アラーノだろう。ここ最近のアラーノが示す存在感について「攻撃と守備をコネクティングするような役割をアラーノがやってくれることで、チームがすごく循環する」と、話したのは最終ラインからチームを見渡すセンターバックの中谷進之介だが、この日も、持ち前の運動量をフル稼働させながら、攻守に躍動感を持ってプレー。再三にわたるスプリントで、チームの攻撃を前に進め、フィニッシュまでの流れを生み出した。
中でも特筆すべきは、70分にデニス・ヒュメットが決めたゴールシーンでの『守備』とスプリント、そしてアシストだ。自陣、深い位置で満田が相手のボールを奪ったところから始まったシーン。満田から左サイドのウェルトンを目掛けて縦に通したボールは、一旦、マリノスに奪い返されるものの、パスを繋ぐタイミングでアラーノが猛烈にプレスをかけてボールを奪い切り、全速力でゴール前へと攻め上がる。
「ウェルトンのところでボールを奪った選手がディフェンスの選手だったので、前を向かないんじゃないかって予測していたら、その通りに相手がバックパスをしてくれた。僕からウェルトンに出したボールはもう少しいいパスを繋げられれば良かったという反省はありますけど、ボールを失った瞬間も1人だけではなく、2人、3人とプレスをかけられたことがあの得点につながったのかなと思います(満田)」
「サイドにボールが出た時に、相手選手がパスを出すとしたら、中か後ろかなと思ったので、それを意識しながらポジションを取って狙っていた中でボールカットができた。ドリブルで前線に前進している時に、デニス(ヒュメット)が右から上がってきているのは見えていたので、運べるところまでは運んだ上でデニスに出そうと決めていました(アラーノ)」
つまりは、チームとして描いていた絵が合致する中で、ボールを奪い、ゴール前まで持ち込んだシーン。最後、アラーノからヒュメットに渡った横パスは、思ったよりも少し弱くなったようにも見えたが「結果的にあれがベストだった」と振り返った。
「気持ち、パスが弱くなってしまったところもあったので、完璧ではなかったのかもしれないですが、もしあのパスをもう少し早いタイミングで出していたり、もう少し強いボールをデニスに渡していたら、もしかしたら相手GKがもう少し距離を詰めてきたかもしれない。また、デニスがシュートを打つタイミングで中に切り替えした際、GKが体に当てたり、滑り込んできていた相手DFに引っかかってしまった可能性もあったと考えれば、結果的には、あのタイミングで、あのスピードで転がして良かったのかなと思っています(アラーノ)」
またその得点を含め、失点後、10分間で逆転に成功し、かつ追加点を奪って逆転勝ちに持ち込めた流れについても言葉を続けた。
「後半は特に、なかなかうまく試合に入りきれていなかった中で、結果的に失点によって目を覚ましたという流れになってしまったのは否めないとは思います。もちろん、そういう時間帯があることも、サッカーでは起きうることだとは思いますが、そんなふうに失点を喫してからチームが目を覚まして、自分たちのサッカーを取り戻すという流れは絶対に良くない。ただ、結果的に逆転に持ち込めて勝利を掴めたのは良かった(アラーノ)」
今シーズンは、昨年に比べてやや稼働率が減っているアラーノだが、気持ちに揺れはない。それは任された時間の中で、必ずと言っていいほど攻撃に変化を与え、アシストやゴールといった爪痕を残していることからも明らかだろう。副キャプテンとしての自覚もあるという。
「僕は外国籍選手で『言葉』での働きかけが瞬時にできないことも多いだけに、常にピッチでは温度、熱量で、自分はこういう気持ちでトレーニングや試合に臨んでいるんだという姿を見せたいと思っています。それをしっかり表現できれば、仲間もまたそれを感じ取ってくれるはずだから」
そんなアラーノの想いの込められたパスがつながって逆転に成功したガンバが再び、得点を見出したのは79分だ。
宇佐美が左サイド、敵陣深くで相手DFに囲まれながら粘りに粘って掴んだフリーキックのシーン。キッカーに立った宇佐美はグラウンダーのキックでニアサイドを射抜く。
「雨が少しちらついてきていて、ピッチも見ての通り少しボコボコしていたのもあって、ゴロで転がしてゴールに向かうボールを蹴れば、誰かが押し込むなり、相手GKの手前で変化したボールのこぼれ球を狙うなり、何かが起きるかなと思って、あそこに蹴りました。もちろん、自分が直接というか、枠内に、ということは狙っていました。正直、直接入るとは思っていなかったんですけど、直接ゴールに向かっていくボールをゴロで蹴られるのが一番嫌かなと思って選択した感じです。ニアが空いていて、そこに蹴ることは中の選手たちにも伝えていたので、雪崩れ込んできてくれたらなと思っていました(宇佐美)」
宇佐美自身も少し驚くような表情を見せたゴラッソは、勝利を決定づける貴重な追加点になった。
「全員がスタートで出たい気持ちを持っているとは思いますけど、今は、それぞれに与えられた役割をみんながしっかり全うできている。個人的な理想を言えば、最後、タケ(岸本武流)が決めてくれたら一番良かったんですけど、マコに一発が出たのは良かったです。彼自身もおそらく『やっとか!』と思っているはずですが、そもそも点を取る能力は高いと考えても遅すぎるくらいじゃないかと思います(宇佐美)」
その「遅すぎる」ことへの愛情表現として、試合終了後のガンバクラップでは、先頭に立つことを促された満田がヒュメットを誘って音頭をとうとしたところで、宇佐美がヒュメットに目配せして満田一人を先頭に立たせる一幕も。
「ガンバクラップの先頭に立つのは久しぶりで…加入して最初のホームゲームではやらせてもらったんですけど、久しぶりに…しかも一人になっていたのでちょっと緊張しました(満田)」
「オフィシャルでイジめてみました(笑)。愛情を感じ取ってもらえたらと思います(宇佐美)」
いずれにせよ、リーグ戦4連勝の喜びを分かち合うクラップはこの日も大きな音を響かせ、秋の気配を感じる夜空に歓喜が溢れた。
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1



