<ガンバ大阪・定期便137>共に乗り越え、共に進む。連敗を止める、横浜FC戦での白星。
■町田戦後に投げかけた、宇佐美の言葉の真意。
前節・FC町田ゼルビア戦に敗れた後、宇佐美貴史はゴール裏に詰めかけたサポーターの前で、珍しく口を開いた。
「サポーターの皆さんには俺たちの味方でいてほしい」
「珍しく」と書いたのは、常々、彼は胸に渦巻く思いを「ピッチで示すしかない」と繰り返してきたからだ。2年前の9月。チームが苦境に立たされている最中、ゴール裏のサポーターとの対話をきっかけに彼が話した言葉を改めてリマインドしてみる。
「サポーターの皆さんにいろんな想いを伝えてもらった中に『ちゃんと俺らと向き合って話をしてくれ』という言葉があった。正直、それにはめっちゃ驚いたし、心外でした。言葉を返すようですけど、僕はずっと彼らと向き合ってきたから。僕にとっての『向き合う』とはプロサッカー選手として、毎日勝つために全力でトレーニングをし、いろんな細部まで気を配りながら日々の自分のコンディションを整えて、人生を懸けて、家族や仲間を背負って目の前の試合に臨むこと。その姿をピッチでのプレーで示すこと。残念ながらそれが常にいい結果を生むとは限らないけど、それでも僕らプロサッカー選手が応援してくれる人たちの思いに応える方法はその姿でしかないと思っています(宇佐美)」
その考えは今も変わっていない。にもかかわらず、町田戦後、なぜ彼は自ら口を開き、言葉を投げかけたのか。その真意は、ホームに戻ってきた8月23日に戦った、第27節・横浜FC戦後に明かされた。
「『俺たちの味方でいてほしい』とは言いましたけど、正直、僕はサポーターの皆さんがずっと味方でいてくれているのはわかっています。この間の町田戦にしても、今日の横浜FC戦もそうですが、彼らがスタジアムまで足を運んでくれている事実が、ある意味、彼らにとっての決意表明で、それだけで心強さはもらっています。ただ、中にはごく少数ながらグサっと深く刺さるようなことを言う人もいて…僕はもう慣れていますけど(苦笑)、選手の誰もがそうじゃないというか。そうでなくても、負けて、悔しさが募る状況でその言葉を受けてしまうと、それが皆さんの愛情表現だとわかっていても、敵か味方かわからない、みたいな気持ちになってしまう選手もいる。もちろん、3試合も続けて負けるようなことはあってはならないし、それに奮起してエネルギーに変えてやれればいいんですけど、正直、そこまでメンタル的にタフな選手がまだまだ多くはないので。これからより、タフな厳しい戦いが続く中で1つになってやっていかなくちゃいけないのに、それがお互いの溝を作ることになったらもったいないな、と。ってことを、ここ数試合で少し感じていたので、伝えさせてもらいました。ただ、繰り返しますけど、僕は皆さんがスタジアムに足を運んでくれている時点で、僕らの味方でいてくれていると信じているので。実際、町田戦後も僕の言葉に対して、すぐにサポーターの皆さんはチームのチャントを歌って後押ししてくれたし、ちゃんと僕の思いは受け取ってくれていたというか。『ガンバ』への想いは同じだと感じたし、今日もスタジアムの雰囲気を見て、足を運んでくれた皆さんの応援を受け取って、やっぱり皆さんは僕らの心強い味方だと確信できた。それは良かったなと思っています(宇佐美)」
理由はもう1つあった。それは、自分自身にプレッシャーをかけること。試合2日前に話を聞いた時も、どこか吹っ切れたような表情で『責任』を口にしていた。
「特に負けた時ほど、周りは理由を見つけたがるというか、あのミスがどうだった、退場者が出た、あのシュートが決まっていれば局面が変わったって、いろいろ想像すると思うけど、でも、1つのミスだけで結果は決まらんから。どの試合も、勝った負けたの理由が、1つとか一言で片付けられるわけがない。全員の力を結集させて準備して、戦略のもとにそれを全部出し切ろうと相手に向かっていったけど、90分を通して上回られなかった、全員が足りんかったってこと。でも、じゃあ出し切ったからOKかと言われたら、全然そうじゃないから。この流れに巻き込まれていいはずもない。だから、何が何でも止めるしかないし、それを止めるのは自分であるべきとも思う。いや、誰か止めてくれ、と思う自分が顔を出すこともあり…だけど、最後は、やっぱり自分よな、と思いながらここ数週間、過ごしてきて、でも町田戦でまた屈辱を喰らって自分に対して『お前や』と。どう見ても苦しい状況なのは自覚しながらも、『お前が、止めるんやろ』ってことを自分にもう一度、突きつけた、と。それで結果が出なかったら『話と違うやん』ってなるのは分かりながらも、自分から逃げ場をなくして向き合うしかないと思っていた(宇佐美)」
■試合を大きく動かした前半終了間際の、デニス・ヒュメットの同点ゴール。
前置きが長くなったが、キャプテンのそんな覚悟のもとで臨んだ横浜FC戦も、前半は決して理想的に進んだわけではなかった。
相手の堅守を切り崩すために『背後へのチャレンジ』はテーマの1つであったものの、デニス・ヒュメットや山下諒也、ウェルトンらが繰り返しそれを試みながらも、形になる回数は決して多くはなく、41分には気をつけていたカウンターから先制点を失った。
否が応でも重い空気が漂う状況下、それを払拭したのが、前半アディショナルタイム、45+4分の同点弾だ。満田誠が少しタイミングを変えて右サイドの裏に送り込んだボールを半田陸が折り返し、ヒュメットがダイレクトで右足を振り抜く。ボールは相手GKの手をかすめてゴールネットを突き刺した。
「それまでもあのエリアまではボールを運べていたんですが、その先のところでは相手の守備の枚数が多かったり、固く閉じられていた難しさもあって、なかなか攻略できていなかった。ただ、あの瞬間は、一瞬、相手の足が止まったというか。そのタイミングで陸がうまく抜け出していたし、(マークにつく)相手選手もいなかったので、落ち着いてそのスペースを攻略できた。先制されてしまった流れからもまた難しい展開になる可能性もあったと考えても前半のうちに追いつけたことがこの勝ち点につながったのかなと思います(満田)」
「前半からボールを持つ展開だった中で、チャンスがあれば背後を突きたいと思っていたんですけど、正直、なかなかそのエリアで、落ち着いて前を向けるシーンも多くなかったので、タイミングを伺っていました。その中で、あのシーンでは諒也くん(山下)が中で相手選手を釣ってくれたことで僕が空いて、いい関係性で崩せた。あそこでデニス(ヒュメット)が決めてくれたのはチームとしても大きかったと思います(半田)」
「走って、走って、相手にとって厄介な存在になることを心掛けていて、それを実行できた。チームのために走る、チームのためにスペースを作ることをしながら、ボールが来たらシュートを打つという役割をしっかり果たせた。同点ゴールのシーンは、すごくいいビルドアップから、陸が中にいる自分を見つけてくれた。アイコンタクトをして、ボールがくるんじゃないかと想像していました。結果的に相手選手に当たって僕の元に来た感じになりましたが、それによるボールスピードの変化は気にならなかったです。ボールがくると信じてあそこにいて、来たボールにアジャストするだけでした。ゴール前に人が密集していた状況で判断は難しかったですが、自分が相手GKから隠れるような形で決められたという意味では、うまく相手GKを騙せたゴールだったと思います(ヒュメット)」
各々の狙いと動きが、繋がり、連動してゴールを陥れる。満田の言葉にもある通り、前半のうちに試合を振り出しに戻せたことは、後半の戦いに向かうチームの、大きな勇気に変わった。
■「結局は全部、決めてきたやん」。宇佐美が決めたPKと、連動が光った3点目の『崩し』。
前半からチャレンジを続けていた「背後のスペースを突く」というジャブが、効果的にプレーで表現されるようになったのは後半だ。試合が振り出しに戻った流れから、横浜FCが再び点を奪いに行く意識を強めたことで、堅守に綻びが見えたことも、ガンバには追い風になったのだろう。事実、立ち上がりからガンバの攻撃が加速。52分にPKを獲得したシーンも、絶妙なタイミングと軌道で繰り出された宇佐美のパスに反応したヒュメットが裏のスペースを突いたことで相手選手のハンドを誘って引き寄せた。
56分。獲得したPKのキッカーに立ったのは宇佐美。VAR判定によってPK獲得が決まった時点で一瞬、ゴール前から姿を消していた彼は、その後、ゆっくりと歩いてペナルティエリアに戻り、呼吸を整えてボールをセットした。
「ちょっと、リラックスするために歩こうと、散歩していました。ゴール裏の方向にいくと相手GKや相手選手のプレッシャーを受けることもあるので、リラックスするためにあの輪から外れよう、と。いやぁ、緊張しました。蹴りたくなかったし、逃げ出したかったです。町田戦後に自らプレッシャーがかかるような状況を作っていたのもあったし、ここで外したら、自分も終わるなと思いながらボールをセットしました。蹴るまでは、生きた心地がしなかった(宇佐美)」
昨シーズンは5本のPKを全てゴールおさめた宇佐美だが、今シーズンは天皇杯3回戦・モンテディオ山形戦でPK合戦で最初のキッカーに立ち、失敗に終わっている。そのことも頭を過ったそうだが、最後は「いやいや、こんな局面は全部、俺、決めてきたやん」とリマインドした。
「山形戦と同じ方に蹴るのか、逆を狙うのかというところで、同じ方向に蹴るイメージは持てなかったし、試合前に分析スタッフから提示されていたことも加味して、最終的にあそこに蹴りました。だいたいの狙いを定めて右上に蹴ったんですが、あそこまで角を狙っていたわけでもなかったし、あそこまでいいコースに飛んでくれるとも思っていなかったです(宇佐美)」
キャプテンの一撃を勢いに、チーム全体がより迫力ある攻守を展開する中で、試合を決定づける3点目が生まれたのが81分だ。途中出場の美藤倫が縦に鋭く通した縦パスを、ファン・アラーノがフリックで更に前に送り込む。それに反応したのが、ヒュメット。飛び出したGKをうまく交わしながらゴールライン際で粘って折り返し、中央から詰めた宇佐美がダイレクトで左足を振り抜く。個が前に矢印を向けることで、流れるような連動を見せたシーンから、宇佐美の2得点目が生まれた。
「アラーノ(ファン)がフリーだったし、デニスも動き出していたのでうまく通ればいいなと思って出しました。なかなか試合に出られない時間が続いている悔しさもあって、なんとしてでも結果をという気持ちだったので、勝てて良かったです(美藤)」
「練習でもやっていた形をしっかり出せた。ボールを持ってGKを交わすところも含めて冷静にプレーできた。自分の質を出せたのはポジティブでした(ヒュメット)」
「倫(美藤)がいいボールを差し込んでくれたことから始まったシーン。アラーノも、町田戦を含めてすごくいい動きをしていたし、今日もいいリズムを作ってくれた。あの時間からピッチに出てきて攻撃を加速してくれたのは本当にありがたかったです。ここ最近は、縦に入れてからのスピードアップとか、縦に入れてからのコンビネーションがもっと増えていかないと、攻撃のバリエーションも広がらないと感じていた中で、あのシーンは全体としていい崩しができたし、あそこまでしっかり走れたのも良かったです。ああいうゴールをチームとしてもっと増やしていきたいです(宇佐美)」
第24節・川崎フロンターレ戦に次ぐ、シーズン2度目の逆転劇。後半アディショナルタイムに許した失点は余計だったが、チームが置かれている状況からも、何がなんでも白星が必要だったと考えれば、この勝利がここからまたチームを加速させる勢いに変わると信じたい。
「この勝利を次の試合に繋げることで初めて、横浜FC戦で、ホームで勝てた意味が生まれると思うので。次のアウェイ・湘南ベルマーレ戦に向けて、またしっかり1週間準備して、そこに勝つことでこの試合がきっかけになったと言えるようにしたいです(満田)」
「すごく未熟ですが、今のガンバは良くも悪くも勝たないと乗っていけないチーム。1つ、勝てたことをきっかけに、これを大きな波に変えていけるようにしたいし、まだまだよくしていけるところがたくさんあるということにもしっかり目を向けて、続けていきたい(宇佐美)」
■7年ぶりに青黒のユニフォームでピッチに立った初瀬亮が吹かせた、新たな風。
最後に、横浜FC戦がガンバでの『復帰戦』になった初瀬亮の話を。ジュニアユースからガンバで育った『生え抜き』は、この日、7年ぶりに青黒のユニフォームに袖を通し、パナスタのピッチに立った。
「いろんな状況はありますけど、綺麗事ではなく、とにかくガンバのために戦って、勝つこと。僕自身、3ヶ月くらい試合から離れていますけど、ピッチに立ったらそんなん、全く関係ないので。与えられたポジションで最初からぶっ飛ばしてパワフルに、一瞬一瞬を全力で、最初からぶっ飛ばして戦うだけだと思っています。90分で決着がつくのがサッカーなので、ミスをしたって取り返せばいいし、怖いものは何もない。みんなで貪欲にゴールを狙いにいって、シュートをうちにいって、剥がされたら全員で戻ってブロックを組めばいいだけのこと。それができる選手は揃っていると考えてもとにかく、笛が鳴った瞬間からガツガツと、思い切ってプレーしたいと思います(初瀬)」
所属元のシェフィールド・ウェンズデイFCから選手登録に関する書類が届くのが遅れたため、加入からデビューまでやや時間を要したが、その間により募らせていたサッカーへの欲を確かに感じる63分間だった。
「久しぶりの公式戦でしたけど、今の状況を変えられるのは俺らだけや、という思いと、個人的には成長した姿を見せなきゃいけないという覚悟でピッチに立ちました。チーム状況もあったし、なんだかんだ言って、少し背負うものもあったので、勝利という結果が出せてホッとしています。今日は眠れないんじゃないかな。(出場時間については)コンディションづくりは結構頑張ってやっていたので、もうちょっといけたかも、って感じはありました。ただ、まだまだ上げていかないとな、ってことも感じたので、そこはまたしっかりやっていきたいです。少し前までは『ブーイング』という愛情をガンバサポーターの皆さんから受け取っていましたけど(笑)、今日は皆さんに大歓迎していただいて、本当に嬉しかったです。『家』に帰ってきたような気持ちでプレーできました。これまで所属したすべてのチームに感謝しているし、そこで成長できた自分がいたからこうして今がある。この先も、その感謝をもっともっとプレーで示していこうと思っています。(初瀬)」
合流後、初めての公式戦とは思えないほど周りとの連携もスムーズで、特に宇佐美とは『阿吽の呼吸』を感じるシーンも。聞けば「プレー中は宇佐美くんのことを一番見るようにしていた」という。その中で示した『前への矢印』も含め、随所に光らせた初瀬らしい持ち味は、チームの攻撃を加速する未来がより楽しみになるパフォーマンスだった。宇佐美も、初瀬の攻撃への意欲は大歓迎だという。
「トレーニングでも明るさを出してくれたり、締めるところを閉めたり、声を出したり、チームに活気をもたらしてくれているし、1つ1つのプレーにすごく責任感も感じます。特に簡単に下げないというか、DFの選手ながら、サイドバックのポジションから攻撃を作ってやろう、ゴールを作ってやろうとうする姿勢は他の選手たちも絶対に見習うべき部分。まだまだコンディションも、ボールフィーリングも良くなっていくと思いますが、そういう亮の姿勢の部分は、チームの刺激にしていかなければいけないと思っています(宇佐美)」
初瀬も「まだまだよくしていける」と気を引き締めた。
「今日は相手が5バックだった難しさもありましたが、後ろの選手がチーム全体を前に押し出していくというか、より相手陣地でサッカーができるようにということはまだまだやっていきたいし、今日であれば両ウイングのウェルトンや諒也(山下)が下がりすぎずに、持ち味のスピードで勝負できるシーンをより増えせれば理想だな、と。あとはロングスローもしばらく投げていなかったので、もうちょっと練習します(苦笑)。ただ、そういった細かい修正、改善は必要とはいえ、とにかく今日はみんなが戦えていたので。マコ(満田)が交代になる直前に足を攣りながらも体を投げ出して相手のシュートを防いでくれたり、デニスや諒也が裏に走り続けてくれたり。そういう積み重ねがあってこその勝利だったことがすごく大事だと思うので。勝って修正して、勝って修正して、ってできるのが強いチームだと考えても、この勝ちからまた学んで、修正して、次の試合に繋げたいです(初瀬)」
試合後にはこの日のゴールスコアラーになった、宇佐美やヒュメットとガンバクラップの先頭に立つ姿も。
「気持ちよかったです。また先頭に立つには、点を取るしかないと思うので、また次も、元気に、明るく頑張ります(笑)」
近年、不動とされてきた黒川圭介や半田陸ら、サイドバック陣との競争の激化を予感させる、初瀬亮の復帰戦だった。



