世界基準への改革進む…大阪でしのぎを削るJ1・G大阪とC大阪のトップに戦略を聞く
サッカーのJリーグは2026~27年シーズンから、開幕を夏頃に移行するなど欧州に合わせた「世界基準」への改革が進む。国内外で競争が激しさを増す中、いかにクラブの魅力を発信し、その価値を高めていくか。大阪でしのぎを削るJ1リーグのガンバ大阪(G大阪)、セレッソ大阪(C大阪)のトップに今後の戦略を聞いた。(藤井竜太郎)
育成力 ブランド生む
成長のカギは、海外クラブとの連携の深化と、強みとしてきた育成の強化だ。
昨春にオランダの名門アヤックスと提携した。若い選手が練習に参加し、育成組織のコーチが現地で戦術ミーティングを学ぶなどしている。目に見える成果はまだ出ていないが、マインドがちょっと変わるだけで、取り組み方は変わる。今後は選手データの共有などでも、さらに関係を深めたい。
クラブのブランド力向上に直結するのが、世界に羽ばたく選手を育てることだ。私が湘南ベルマーレの社長だった時、初対面の海外関係者に(クラブのOBである)中田英寿氏の名前を出すと「おおっ」と食いついてくれた。宇佐美貴史や堂安律らを輩出してきた「育成のガンバ」の価値を、クラブ全体で再認識する必要がある。育成組織の試合を見に行ったり、結果を気にしたり、フロント陣の意識改革から始めたい。
来季はアジア・チャンピオンズリーグ2(ACL2)に出場する。ガンバは2008年にACLを制し、同年のクラブワールドカップで3位に入って、その名が世界に知られた。世界で活躍する姿を見せることで、サポーターが誇りを持てるし、若年層のトップ選手たちに「ガンバでやりたい」と思ってもらえる。
昨季ホーム戦の入場者数は過去最多(49万5832人)となったが、究極は全試合満員だ。大阪・関西万博を機に訪日した海外クラブ幹部との交流の場も増えている。日本一のブランド力を持つクラブを目指す。
欧州市場へ進出視野
今の日本サッカー界は、開国を迫られた幕末期のような状況といえる。国際化のうねりを乗り越えるには、前身のヤンマー時代から約70年の歴史を持つクラブの魅力を磨き直す必要がある。社内の有志に外部の専門家を加えたブランディングのチームを作り、今後100年のクラブ像を模索したい。
2012年、他のJクラブに先駆けてタイのクラブと提携した。選手の受け入れや現地でのイベント開催などで関係を深め、協賛企業の現地での認知度向上、事業展開にもつながった。今後もアジアでの取り組みを発展させていく。一方、これまで手薄だったのが欧州で、まず英国に情報収集拠点を置く準備をしている。
昨年、国際的な飲料メーカー「レッドブル」がJ3リーグの大宮アルディージャ(現在はJ2・RB大宮アルディージャ)を買収した。海外資本によるJクラブの買収は初めてで、私のもとにも「日本で買えるところはないか」という話が来ている。外資の経営参画は今後も進むだろうし、日本サッカー界の刺激になる。
ただ、受け身ではなく、こちらからも打って出たい。今後、協賛企業などの協力を得ながら、欧州サッカー市場への進出を考えている。現地に提携先があれば、日本選手がビッグクラブに飛躍する足がかりになる。うちで育った選手が、見合う対価を得て世界へ羽ばたき、いずれその経験をC大阪に還元してもらう――。そんな好循環を作り出したい。
海外への移籍金 買いたたき課題
2026年からのシーズン移行で選手の海外移籍がより活発になると予想され、クラブには世界と伍(ご)していく力が求められる。
Jリーグが5月に発表した計58クラブ(3月決算の柏レイソル、湘南ベルマーレを除く)の24年度の売上高は前期比14%増の計1649億円で過去最高となった。一方、有力な若手が早くに海外へ渡る事例が増え、選手が海外移籍する際に移籍金が安く抑えられる「買いたたき」も課題だ。競技力に加え、資金力や交渉力を高めることも必要だろう。約20年来の知人という両社長はともに外部からの招請だ。日置社長は「水谷さんと新しい風を吹かせないといけないと思っている」と語った。世界のビッグクラブと渡り合えるようなかじ取りを期待したい。
20か国・地域で放映・外資参入
人口減少や高齢化が進む中、Jリーグは持続可能な運営を目指し、市場開拓を進めてきた。2012年にアジア戦略室(当時)を設立し、昨季はアジアを中心に約20か国・地域でリーグ戦が放映されるなど露出も増やしている。
20年には規約を変更し、外資系企業がJクラブを買収できる環境を整えた。大宮の経営権を取得した「レッドブル」はドイツやオーストリアの強豪クラブも傘下に持つ。Jリーグは24年末、欧州の企業、投資家とのネットワーク構築や強化などを目的に、ロンドンに拠点を開設すると発表した。
クラブ単位の海外進出も盛んで、昨季J1を連覇したヴィッセル神戸は23年秋にイングランドの古豪アストンビラと提携。同クラブは、ポルトガルなどのクラブを含むグループ「VSports」の一員であり、神戸もともに国際化を進める。サンフレッチェ広島はドイツの1.FCケルンと育成業務提携を結んでいる。



