サッカーコラム 「50分の1」の大阪ダービーに宿るスタイルと感慨「日本で一番熱量がある」「一番気持ちが入ったダービー」
【No Ball、No Life】7月5日のC大阪―G大阪はリーグ戦で50度目の「大阪ダービー」だった。試合は1―0でアウェーのG大阪の勝利(G大阪25勝7分け18敗)。単なる一戦を超えた火花が散るダービーマッチで、チームのスタイルと歴史ある舞台への感慨を示す選手たちがいた。
試合序盤から対照的な両GKの振る舞いが印象に残った。攻め込んだ相手の穴をなるべく早くスキャンし、急いでボールをフィールドに送るC大阪のGK福井光輝。たっぷりと時間をかけてラインを押し上げ、長いボールを届けるG大阪のGK一森純。パパス監督が早くから一森に不満のジェスチャーを示していたのは、この試合に持ち込んだ両チームのスタイルの違いを表現していた。
福井は「分析で相手が時間をかけてくるとある程度分かっていたし、僕自身(素早いリスタートを)意識していた。僕たちの志向するサッカーはリスタートでクイックをGKから意識させるようにというのもある」と振り返る。ただ、特に序盤は守備ブロックの意識を強めるガンバを引き出して崩すには至らず。「ブロックを組んでいる分タイミングが合わず、相手が出て来ず焦ってシュート、となってしまった。難しかったですね」。善しあしはなく、勝利への最善がにじんだ一戦。わずかに上回ったのがガンバだった。
2万2365人がヨドコウ桜スタジアムのスタンドに集まった大阪ダービー。リーグ戦では50度目だが、福井にとってはこれが初めてピッチに立つダービーだった。「試合を終えて思ったことは…日本で一番、のダービーだな、魂のところで…熱いなと思いました」。肌で感じた熱を噛み締めるように、逃さないように言葉を探す様子が印象的だった。G大阪のMF安部も今季途中の加入後初めての大阪ダービーを振り返り「今までやってきたダービーの中でも一番、気持ちが入ったダービーだった」とただの一戦ではない迫力を感じ取った。
その中で2人が言及を欠かさなかったのは、サポーターの雰囲気作りだった。「サポーターの熱量がすごく雰囲気を作ってくれていた」(福井)、「セレッソに負けられないことはバスを降りた瞬間から感じていた。サポーターがそういう思いにさせてくれた」(安部)。毎年選手が入れ替わるチームで「50分の1」を経験した2人が、大阪をめぐって積み上がった競争の歴史に触れたことを表していた。
この試合を巡ってもSNSなどを通じて度を超えた(と受け取れる)いくつかの行為や、クラブとサポーターの変わりゆく関係を目にした。50度も続く「競争の歴史」には、振り返りたくない、繰り返されるべきではない暴力的な表現の発露があっただろう。
それでもいつものダービーと同様、両クラブのユニホームを着た人同士が試合前を過ごす光景が見られたし、バックスタンドのアウェー側にはバリケードなしでも複雑に入り組む両サポーターの姿があった。サッカーに必要な煽り煽られを経験しながら日々変わりゆく境界を暴力で踏み越えることなく乗りこなし、このダービーの熱狂が続けばと思う。(邨田直人)



