<ガンバ大阪・定期便131>加入→即フィット。前半戦のキーマンとなった満田誠が睨む、後半戦。
■東京ヴェルディ戦での衝撃デビュー。古巣戦ではJ1リーグ100試合出場を達成。
今シーズンのJ1リーグ前半戦において、キーマンともいうべき存在感を示したのが満田誠だった。
2月27日にサンフレッチェ広島からの期限付き移籍加入が発表されると、その4日後、第4節・東京ヴェルディ戦の後半にガンバデビューを飾る。本人曰く「選手同士の距離間、セカンドボールへの対応、相手が困るようなポジショニングを意識した」というプレーはチームのギアを上げ、85分にイッサム・ジェバリが挙げた決勝点で実を結んだ。
「自分たちがやりたいサッカーは、近い距離間で選手が入れ替わりながらボールを前に進めるのが理想。今日も(選手同士が)近い距離でプレーできたことで、シンプルにボールを叩くところ、相手を食いつかせてから出すところがスムーズにできたというか。味方のサポートのおかげもあって、テンポ良く攻めることに繋がった。今シーズンに入ってから、ガンバもそこまでいい展開ではないのは把握していたし、自分自身も(広島で)なかなか試合に絡めていなかった状況で期限付き移籍を決断した中で、この試合に懸ける思いはすごく強かった。得点やアシストはできなかったですけど、チームの勝利のために少しは貢献できたと思うのでよかったです。ただ、ファン・サポーターの皆さんやチームメイトに認めてもらうためには結果が必要だと思うので、今日の試合をきっかけにまた貪欲にそこを求めていきたいです」
その東京V戦を皮切りに、ここまでのJ1リーグすべての試合に出場してきた。驚かされたのはその適応力だ。シーズン中の加入とは思えないほど、誰と組んでも、どのポジションを預かろうと、求められる役割を的確に把握し、状況によっては柔軟にプレーを変化させながら、チームとしての連動を見出してきた。
「マコはボールを出したり、動いたり、という機動力もあり、常にエネルギッシュにプレーできる選手。話をせずともトレーニングの初日からトップ下で、確実にストライカーを活かしてくれるタイプだと思った」
そう話したのはジェバリだが、満田のプレーはまさに、その機動力と戦術眼に支えられていると言っていい。またチームのために犠牲心を持ってプレーできるのも、持ち味の1つだろう。2-0で勝利した第10節・名古屋グランパス戦後に聞いた言葉が印象に残っている。トップ下を預かった満田は名古屋の稲垣祥にマンツーマン気味のマークをされていた状況を逆手に取り、効果的に味方のスペースを作り出していた。
「稲垣選手がほぼマンツーマン気味に僕をマークしていたので、前半の途中くらいから、そこで無理して自分がボールを触る必要はないなって思っていました。むしろ、あそこまでマンツーマンできてくれるなら、彼を引き連れてポジションを空けて、周りの味方選手を使った方がチャンスになるな、と。もちろん、ポジションごとに役割はあるんですけど、試合の流れによってそればかりでは効果的じゃないと感じたら、少しアドリブでやり方を変えて相手の反応を見るとか、それによって周りがどういう変化を見せるのかを感じて動き方を変えるのも大事なこと。名古屋戦も、そういう前半のジャブみたいな動きが効いたのか、後半は相手が疲れてきて僕のところがフリーになるシーンも結構多かったですしね。それによって、自分がゴール前に入っていくプレーもやりやすくなった。サッカーは90分で決着がつくからこそ、90分でどう試合を動かしていくのか、そのためにどんなプレーが必要なのかを描いて、チームとして合わせていくのかが大事になる。それによって1回しかシュートが打てなかった、みたいなこともあるかもしれないけど、その1回が大きな決定機に繋がって、決め切れたら勝てるスポーツでもあるので。もちろんそこに至るまでの1つ1つのプレーの質にはこだわっていかなくちゃいけないのは大前提ですけど」
また、ボランチのネタ・ラヴィ、美藤倫が相次いでケガで離脱した中で、第13節・京都サンガF.C.戦から17節・ヴィッセル神戸戦までの5試合と、鈴木徳真が累積警告による出場停止になった第19節・鹿島アントラーズ戦は、本職ではないボランチにポジションを下げて存在感を示したのも特筆すべきだろう。京都戦に始まる『3連勝』もその貢献なくして語れなかったと言っていい。
「どのポジションで出ても、与えられた役割を全うするのが第一ですが、自分の持ち味としては攻撃が得意だし、チームが勝つためにもゴールが必要になると思うので、ボランチでも攻撃でチームにアクセントを加えることを心がけていました。それによって攻撃でペースを握り、自分たちの良さを出せる形を数多く作りたいと思っていました」
残念ながらその3連勝後に戦った第16節・広島戦は、満田にとってJ1リーグ100試合目出場の節目に古巣戦を迎えるという、メモリアルな一戦だったものの、前半のうちに退場者を出したことも響いて、0-1。勝利では飾れなかったが、特に後半、3バックに変更した中で『数的不利』を感じさせない展開に持ち込めたのは、1つポジションを上げて攻撃をコントロールした満田の存在感もあってこそ。本人は、58分に見出した好位置からの直接FKを「決め切りたかった」と悔やんだものの、広島時代に広げたというプレーの幅をフル稼働させてピッチを走り回る姿は『ガンバ・満田』をアピールするものだった。
「初めての古巣戦で、特別な感覚もありましたけど、ガンバのホームゲームだったのでそこまで意識しすぎることなくプレーできました。前半、退場者を出してからも決して流れは悪くなかったので、あそこで失点しなければベストだったし、もう少しシンプルにプレーしても良かったのかなとは思いました。ただ、シンプルにやりすぎると攻め込まれるのも想像できる展開だったので、そこは難しいところで…いずれにしても耐えることができたらまた結果は違ったのかなとは思います。あとは、押し込む時間も長かったからこそ、最後の攻撃のアイデアはもう少し必要でした。奪った瞬間のショートカウンターやセットプレーの精度や回数もまだまだ上げていきたい。特に、セットプレーは一人少ない状況が関係なくなるだけに、もっと活かしたかったです。58分のFKのシーンも最初、下を狙おうかなとも考えたんですけど、あの距離なら壁は越えられるなって思ったので上を狙いましたが、落としきれませんでした。決めなくちゃいけなかった」
■今の自分に感じている「物足りなさ」を取り戻すことで『成長』を求める。
広島ユース、流通経済大学、そしてプロキャリアをスタートした広島と、それぞれの時代や役割に応じてプレースタイルを少しずつ変化させながら『今』の自分に辿り着いた。中でも22年以降、広島のミヒャエル・スキッペ監督のもと、ボランチやウイングバックなどさまざまなポジションを預かる中で、役割に応じて必要なスキルを身につけながらプレーを磨いた経験は、満田に強度や縦への鋭い仕掛けといった新たな武器を備えさせた。
「広島ユースからトップチームには昇格できなかったことで、大学での4年間は『プロサッカー選手になる』というスタートラインに立つために、より『数字』を意識するようになりました。そのためにシュートやラストパス、クロスボールの精度のところはより意識して取り組んだし、実際それがついてきたからプロという道も拓けたのかな、と。そういう意味では、高校時代と大学時代でもプレースタイルは変わったと思っていますが、今の自分のプレーということではプロになって、ボランチやウイングバックというポジションをやったから身についたことは多いのかなと思っています」
ただし、『プレーの幅』を広げたことについて、満田は「一概に全てが良かったとも言えない」と話す。大学時代により磨きをかけたはずのFWとしての『エゴ』や思い切りの良さの部分で、今の自分に物足りなさを感じているからだ。
「さっきも言ったように大学時代はより数字にこだわっていたからこそ、ゴールに執着する『エゴ』もあったし、常に前を選択したプレーを迷いなく、思い切りよく選択できていた気がします。でも、プロになっていろんなポジションを預かったことで、その選択が横になったり、周りへのパスになったりしているな、とも感じていて。そこは自分の意識次第というか、使い分けでどうにかなるところでもあるんですけど、咄嗟の判断で癖が出るというか、自然と周りを探しちゃうことが増えたようにも思う。もちろんそれも悪いことではないので難しいんですけど」
そう思えばこそ、ガンバではその『思い切りの良さ』を取り戻すことも、常に意識下に置いているという。
ちなみに、これは、加入直後からポヤトス監督が満田の起用について「ボランチは考えていない」と明言していることにも起因する。結果的に前半戦は、チーム事情からボランチを預かることもあったとはいえ、今もポヤトス監督はその考えを変えていない。
「マコはボランチとしても本当に努力をして、チームに貢献してくれていると思っていますし、広島時代に彼がボランチをやっていたのも知っています。ただ、ガンバでは離脱しているボランチの選手が戻ってきたら、マコをボランチでは使いません。マコに合っているのは前線、特にトップ下のポジション。そこで活きると思っています(ポヤトス監督)」
つい先日、ボランチの安部柊斗が新たに加入したことを踏まえても、その考えに揺らぎはないだろう。
であればこそ、満田もまた、本来のポジションで輝く自分をより明確に描いている。
「今の自分に足りていないのは、広島以前の思い切りの良さだったり、シュートの回数だったり、足を振る場面を増やすこと。ガンバでの役割を考えても、これまで以上に前目にプレーをシフトしていってもいいのかなと思っています。もちろん、周りとの共存、連携は第一に考えながらになりますが、でも、瞬間的な選択の優先順位が『周り』ではなく『自分で行く』意識づけはしていきたい部分。そうやって自分がシュートを打つことで警戒され始めたら、また周りが空いてくると思うので。ただ、これは少し言っていることと相反するように聞こえるかもしれないですけど、チームが勝つために『確実性のあるプレーを選ぶ』ことは大事にしたいと思っています。例えば、自分より明らかにいい状況にある選手がいれば、パスを出すとか、名古屋戦(第10節)のように、周りの選手がよりいい状態になるようにポジションを取るのも忘れてはいけないこと。じゃないと自分も逆の立場の時にボールをもらえないと考えても、そこは続けていきたいです」
また、チームとしても7勝3分9敗と黒星先行で前半戦を折り返した現状を受け「勝ち切れる試合を増やしていかなくちゃいけない」と言葉を続けた。
「ガンバにきて、これまでとは違う監督、スタッフ、選手と一緒にプレーして、新たな戦術に触れたことで、自分のサッカー感が膨らむというか、必然的に増えていくものはありました。またいろんな組み合わせ、選手とプレーする中で、それぞれに違う自分を出せたのも個人的には良かった部分だと思っています。ただ数字は残せていないので。そこがついてきたら、チームにもっと勢いをつけられそうな気もするので、後半戦はそこにもしっかり拘っていきたいです。また、チームとして順位を上げていくためにも勝ち切れる試合を増やすというか、いい試合だったで終わるのではなく、勝点3をしっかり積み上げていくことも大事になると思っています。そのためにも、直近の鹿島戦のように『早い時間帯に失点しないこと』は徹底しなくちゃいけないし、逆に自分たちの時間帯に決め切って得点すること、追加点を奪うことも大事になると思っています」
そういえば、ガンバに加入したばかりの頃、期限付き移籍を決めた理由の1つに『成長』を挙げていた満田。今年で26歳という年齢を踏まえ「自分にはそこまで時間がない」と話していたのも印象的だった。
「プロサッカー選手として最終的には海外でのプレーや、日本代表を目指している中で、大卒でプロになった僕はプロ4年目とはいえ、年齢的には決して若くはなくなってきた。それを踏まえても、自分に残された時間はそんなに多くないと感じていたし、今年に入ってからの(広島で)全くメンバーに絡めていない状況に甘んじている場合ではないという思いも強かった。繰り返しになりますが、サッカー人生は決して長くないということを自分にしっかり突きつけながら、今回の決断を自分なりに正解だったと思えるようにしていかなくちゃいけないと思っています」
その決意もしっかりと胸に刻んで臨むであろうJ1リーグ後半戦。満田の更なる輝きは、ここからの巻き返しを狙うガンバの旗印になる。



