<ガンバ大阪・定期便130>半田陸の今。「キツいなってところからもう1段階ギアを上げられている」。

 J1リーグ第19節・鹿島アントラーズ戦も90分間、走り抜いた。まさに、縦横無尽。疲れ知らずの運動量と戦術眼、そして「勝ちたい」という欲は、ピッチの至るところで半田陸を輝かせた。押し込む展開になった中で、後半アディショナルタイム5分に見出したビッグチャンスでも、ゴールににじり寄ったのは半田。左サイドバックの中野伸哉からのクロスボールにファーサイドで頭で合わせたが、シュートは右ポストに跳ね返された。

「飛ぶタイミングも良かったですし、伸哉(中野)のボールもすごくいい弾道だったので、決めきれなくて申し訳ないです。あそこは決めなくちゃいけなかったと思っています」

■押し込む展開になった鹿島戦。積極的に攻撃に絡みながらゴールに迫る。

 9分という早い時間に、気をつけていたはずの裏のスペースを鹿島のFWレオ・セアラに狙われ、先制点を奪われた。ラインアップをして相手の前線をゴールから遠ざけようとしていた中でそのDFラインが揃わず、一瞬にして隙を突かれたシーンだった。

「僕らがボールを持ちながらゲームをコントロールしていた中で、あの早い時間帯での失点はすごく痛かったし、あの一本を取り切るのが鹿島だと考えても、許しちゃいけない失点だった」

 それでも、以降の時間帯はほとんどを敵陣でプレーしていたといっても過言ではないほど、攻めに攻めた。もちろん試合前から警戒していた相手の3トップに対する警戒は徹底しながら、だ。半田の右サイドで言えば、鹿島のキーマンの一人、鈴木優磨に仕事をさせないことも大きなミッションだった中で、チームとして押し込む展開になったことにも助けられ、局面での対峙でも完璧に近いほど鈴木を上回った。後半途中から対峙する相手がチャヴリッチに変わってもそれは変わらず、結果的にフル出場した彼らのシュート数がいずれも0に終わったことも、半田の仕事ぶりを示すものだった。

「今日は鹿島の選手が総じて、あまり動きが良くなかったというか。鈴木(優磨)選手も本来の姿ではないのかなと思っていました。特に後半の鹿島はチーム全体が疲弊しているのが明らかで、チャヴリッチ選手を含めて守備で1対1になるような場面は少なかったので。自分自身は評価に値するほどのプレーではなかったと思っていますけど、チームとして彼らに仕事をさせなかったこと自体は良かったのかなと思っています」

 ただ押し込む展開になったからこそ、攻撃のところは課題が残った、とも。半田も再三にわたって、インナーラップでゴール前まで切れ込んだり、味方とのポジションを見ながら外に張って味方との連携を見出したりと、ポジションを巧みに変化させながら攻撃に厚みをもたらしたものの、怒涛の攻撃はことごとく鹿島の守備に跳ね返されてしまう。

「ああいう展開になると相手も真ん中は強いし、しっかり守れるチームだと考えても、単純なクロスボールばかりではなくもう少し敵陣でのボールの動かし方、動き方の工夫や迫力は必要だったのかなと思いました。ニアサイドに走っていく人も、回数ももっと増えないとマイナス(のスペース)も空いてこない。そう考えても、押し込んだ中でのクロスボールに対する中の人数の掛け方、入り方はチームとしてもっと練習しないといけないなと感じましたし、自分のサイドでも、もっと諒也くんやウェルトンといいコンビネーションを作って攻略できないと、今日みたいにしっかり守られてしまうと点は奪えないのかなと感じました」

 84分には攻撃に変化をつけようと、右サイドのウェルトンからボールを受けて珍しくアーリークロスでデニス・ヒュメットに合わせたシーンも。

「デニスには毎試合、アーリークロスもイメージしておいて欲しいと言われていながらこれまではなかなか上げられていなかったんですけど、あのシーンではボール受けた時にパッと前が空いていて、デニスもいい準備をしてくれていたので入れてみました」

 だが、ヒュメットが伸ばした右足にはわずかに届かず「まだまだ精度を高めなければいけない」と半田。その後は、先に書いた彼自身のシュートチャンスを含めて、9分間のアディショナルも鹿島ゴールをこじ開けることはできず、悔しい敗戦となった。

■脅威の運動量を支えるもの。より重点的に取り組んでいるのは『コア』。

 ここまで戦ったすべてのJ1リーグ戦に先発出場を続けてきた。もともと「試合を重ねていくほどコンディションが上がっていくタイプ」と自認しているとはいえ、ここ数試合のパフォーマンスはまさに圧巻の一言だ。中でも際立つ存在感を示したのは、16節・サンフレッチェ広島戦だろう。前半のうちに退場者を出し、10人での戦いを強いられた中で、半田は後半、3バックの一角を担ってからも、脅威の運動量でピッチのあちこちに顔を出し、数的不利の状況をかき消した。

「ハーフタイムに後ろの3枚で『点を取るためにも三人のうち誰か一人は自由に攻撃に参加しよう』と話をしていて、それがうまくいった。チームとして前線からちゃんとプレスに行けば、相手も下がらざるを得なくなり、そこからの苦し紛れのロングボールしかなくなると思っていて、そこはチームとしても共有できていた。だから後半は0に抑えられたんだと思います。ただボールを持ってからの展開では、クロスボールを含めて中にボールを入れた時にゴール前にもう少し人数をかけないといけなかったな、と。数的不利になって、後ろの人数を増やしてボールを動かす展開になっていたので難しいのはわかるんですが、最終局面ではもっともっと勢いを持ってゴール前に入っていかなければいけなかった。そうすれば『あと一歩』がゴールにつながったのかなと思っています」

 驚いたのはそれだけの運動量を示しながらも試合後は、涼しい顔で「まだまだ走れそうな気がしました」と話したこと。事実、その試合以降も『120分』の戦いを強いられた5月21日のルヴァンカップ・ジュビロ磐田戦を含めてほぼフル出場してきたが、どの試合も「まだまだ走れそうな」雰囲気を残して戦いを終えているのも印象的だ。

 何か、理由はあるのだろうか。

「試合をやればやるほど、コンディションが上がっていくのを感じるし、プラス、その過程でも筋トレなどで刺激を入れる回数を増やしたり、体のコア(中心)系のトレーニングを多く取り入れていることでうまく状態を保てている気もします。どうしても疲れてくると姿勢が反り腰になったり、体の軸が安定しないというか。僕としてはそうなるとあまり良くない気がしているので、体の軸のところ…腹筋というよりは、お腹周り、腰回りを含めた体の中心あたりに定期的に刺激を入れています。本当にそれが効果的なのかは正直、人によって感じ方は違うと思いますけど、僕にはなんとなくあっている気がしています。実際、今は90分の中で、キツいなっていうところからもう1段階ギアを上げられている感覚があるから」

 これはチームのフィジオセラピストを務める中村有希氏や、通っているピラティスのインストラクターにアドバイスを受けて続けていること。常に「誰かにいいと言われたことはとりあえずやってみる」ことを意識している中で継続しているという。もっとも「自分には合わない」と思ったら1回のチャレンジで止めてしまうこともあるそうだ。

「大事なのは自分の感覚。世の中にはいろんなトレーニング、体にいいとされることが溢れている中で、とりあえず週頭から試合が終わるまでの1週間、試してみて次の日の体の状態を見て決めることもあるし、やった瞬間に違うな、自分には向いてないなと思ったらすぐにやめることもあります。ただ一貫しているのは、同じことをずっとやっているだけでは体の変化もあまり見出せない気がするので継続してやることの中にも、新しい刺激というか、これは合うんじゃないか、ってものを探して取り組んでいること。最近だとシンくん(中谷進之介)からグルテンフリーの話を聞いて、毎日は無理だけど、試合の二日前からとか、前日だけとか、体に無理のない程度で取り組んでいるんですけど、それだけでも意外とお腹がスッキリして、試合の時も重く感じない気がするのでいいなと。続くかはわからないですけど(笑)、体と相談しながら、でももっとプレーを良くするために、ということを考えてやっていこうと思っています」

 加えて、ガンバに加入してからの過去2シーズンは、いずれも好調をきたしている最中に左腓骨骨折を繰り返し、その度に長期離脱を余儀なくされた中で、今シーズンはケガをすることなくシーズンを進められていることも、間違いなく彼を走らせている理由だろう。ガンバ加入から3シーズン目、ピッチに立ち続けているからこその『責任』も常に自身に問いかけながら。

「今年に入って、シンくんや宇佐美(貴史)くんがケガでいない試合もあった中で、圭介くん(黒川)や徳真くん(鈴木)の世代というか、僕は少し彼らよりは若いんですけど、チームの中堅の立場にある自分たちがやらなくちゃいけいないという意識はより強くなった。それに、もっと自分たちの世代が、下の世代を引き上げていくくらいにならないと、この先のACL2の戦いを含めてチームとして勝ち抜いていけない。そのためにも先発で出ている僕たちがもっともっと躍動して、湘南ベルマーレ戦(第14節)くらいたくさん点を取って、若い選手たちが試合に出やすくなる状況を作らなければいけないんですけど、そこはまだまだ力不足を感じています。それを踏まえても、チームとしての課題や改善が必要なところはしっかり取り組んで、それを結果に繋げていかなければいけないと思っています」

 冒頭に書いた鹿島戦をもってJ1リーグの前半戦の戦いを終え、6月15日に再開するJ1リーグ第20節・清水エスパルス戦からは後半戦の戦いが始まる。鹿島戦では首位のチームを上回る内容を示し、苦しめながらも勝ち点を拾えなかった現実が残った中で、半田は何を改善し、後半戦の戦いに繋げていこうと考えているのか。

「鹿島戦はおそらく、相手選手にしてみたらきっとすごく難しさを感じながらゲームを進めていたと思うんです。でも、そういう中でも取るべき選手が点を取って、しっかり守って、やるべきことをハッキリさせて、結果的に90分を終わってみれば勝ち点を積み上げているのが鹿島だな、と。そんなふうに試合内容としては劣勢でも試合巧者に立てるから今の首位という結果があるんだなということは対戦して改めて感じました。そういう勝負強さというか、粘り強さみたいなところは自分たちも見習わなければいけないところ。ウェルトンをはじめケガ人も少しずつ戻ってきたり、安部柊斗くんが加わってくれたりという状況もある中で、この中断期間でもう一度、みんなでやることを明確にしつつ、きちんと守備をした上で、自分たちの時間帯には着実に得点を積み上げていけるようなチームになっていかなければいけないと思っています」

 そのためには、シーズンを通して自身に求め続けている「アシストやゴールなどの数字にもこだわっていきたい」とも目を光らせた。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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