【“大混戦”から徐々に開きつつある差……J1序盤戦の勢力図(2)】浦和と広島は上位争いの射程圏内。ここからの神戸、川崎、名古屋の巻き返しはあるか
まだシーズンの折り返しにもなっていない時点で、優勝争いというワードを使うには気が早いが、現時点で”トップグループ”と呼べるのは首位の鹿島アントラーズ、2位の柏レイソルに加えて、3位の京都サンガ、4位の浦和レッズ、3連勝で5位に浮上してきたサンフレッチェ広島か。首位の鹿島と5位の広島は勝ち点8の差があるが、広島は1試合少ない。
■【画像】鹿島、柏、京都がトップ3……5月13日時点での「J1リーグの順位表」■
4位の浦和は安定した守備をベースに、いかに得点力を伸ばすかが、キャンプからのテーマとなっていた。序盤戦は攻撃の中心である渡邊凌磨が第2節の京都戦で負傷するアクシデントもあった中で、しばらく得点力不足に苦み、なかなか勝ち点を伸ばすことができなかった。
しかし、4月13日の町田戦から5連勝の間は攻守のバランスがよく、デザインされたセットプレーも効果を発揮して、この間に10得点を記録した。
1トップに定着した松尾佑介が3得点をあげるなど、前からの守備と鋭い裏抜けを武器にチームを引っ張ったが、右サイドバックの石原広教と左の長沼洋一が守備を安定させたこと、そして中盤のセカンドボールで相手を上回れたことも5連勝の大きな要因となった。
■カギを握るグスタフソンの復帰
ホーム5連戦のラストゲームとなった5月6日のガンバ大阪戦ではGK西川周作が前半9分に交代するアクシデントに見舞われた中で、ガンバのミドルゾーンにブロックをしく守備に苦しみ、逆にサイドを揺さぶられる形から、山下諒也のヘッドで先に失点。そのまま中谷進之介が統率する固い守備を崩し切ることができず、0−1で敗れた。さらにアウェーの新潟戦で連敗となっていれば、かなり難しいサイクルに突入してしまった可能性もある。
その新潟戦も後半に失点し、1点ビハインドを負ってしまう。危機的な状況からチームを救ったのは昨シーズンまで新潟に所属していた、FW長倉幹樹の同点弾だった。チャンスの起点になった大久保智明も含めて、交代選手の奮起で掴んだ勝ち点1が、ここからどういう意味を持ってくるかはFC東京戦からの戦いぶりにかかっている。
得点力を引き上げる意味では、5連勝のうち4試合でスタメン起用されて、組み立てで大きな役割を果たしていたサミュエル・グスタフソンの復帰というのが、一つカギを握りそうだ。
■広島は悪くない位置付け
ミヒャエル・スキッベ監督が4年目を迎え、ジャーメイン良、田中聡、菅大輝などの大型補強で、リーグ優勝の有力候補にあがっていた広島は開幕戦で、昨年3位の町田にアウェーで勝利。順調な滑り出しで勝ち点を積み重ねていた。
暗雲が垂れ込めたのはACL2の準々決勝での敗退と、セーラーズを相手に6ー1で大勝したファーストレグが、不正の発覚により没収試合(0ー3の敗戦扱い)になったことに伴う強化部長の交代というのが、チームを難しい状況に追い込んだことは間違いないだろう。
この間に若手のホープである中島洋太朗など、多くの怪我人が出たことも痛手となった。”中国ダービー”とも銘打たれたホームの岡山戦に敗れるなど、4連敗を喫する厳しい時期を経験しながら、福岡、湘南、ガンバを相手に3連勝。「この連戦は良いサッカーができなかった」と指揮官が認めるように、チームが好転したわけではないが、いかなる時でも大崩れしない3バックの守備と日本代表GK大迫敬介の存在を頼りに、相手側の退場などにも助けられる形で、勝ち点3を積み上げている。広島に関してはこれだけ難しい流れが続いた中でも、1試合少ない状況で、首位の鹿島と勝ち点8差の5位に付けていることはリーグ優勝に向けても、悪くない位置付けと言える。
■神戸に求められる突き上げ
ようやく序盤戦を終えたという段階で、どのチームにも数字上の可能性が残されている前提で考えても、シーズン折り返しで首位との勝ち点差が10以上あると、かなりの奇跡的なことが起こらない限り逆転優勝は難しくなる。
2連覇中のヴィッセル神戸は現在9位。鹿島より2試合少ないながら、現在の勝ち点が21で、鹿島と13の差があるのはシビアな状況だ。しかも後半戦にはACLエリートの新シーズンもあり、終盤戦になるほど過密日程を戦っていかなければいけない。大迫勇也と武藤嘉紀の復調が必要であることは間違いないが、彼らにも代わりうる存在がどんどん突き上げてこないと急浮上は難しい。もちろん6月の特別登録期間を利用した補強も鍵を握りそうだ。
チームのポテンシャルを考えれば、ACLエリートのファイナリストでもある16位の川崎フロンターレ、17位の名古屋グランパスといったチームの奮起に期待したいところだ。川崎はサウジアラビアでタフな3試合を戦って、中7日あったと言っても、いきなり鹿島との大一番を戦うというのはタフであり、しかも、第18節のガンバ戦まで5連戦という厳しい日程だ。
いきなり鹿島に敗れたことで、首位との勝ち点差は16に広がってしまった。3試合少ないので、まままだ巻き返しは可能だが、ここからのホーム4連戦で負けが混むと残留争いに巻き込まれかねない。まさしく正念場と言えるだろう。前半戦のラストとなる第19節のアウェー広島戦までに、どれだけ勝ち点を積み上げていけるか。
■名古屋はユンカーの復帰で
名古屋は勝ち点16で、首位の鹿島から勝ち点18の差がある。川崎と違い、すでに16試合を消化しているという意味で、より状況は苦しい。その中で、33歳のMF稲垣祥が6得点と孤軍奮闘しているが、攻守のバランスは徐々に改善されてきていることもあり、マテウス・カストロなど攻撃のタレント力を考えても、まままだ巻き返しは可能だ。
キーマンは怪我から復帰してきたキャスパー・ユンカーだろう。練習試合ではゴールも決めており、早い公式戦の復帰が期待される。ユンカーを前線に再び組み込めれば、マテウスをシャドーに回したり、あるいは強力2トップというオプションも可能になるだろう。ただ、現時点で上を見過ぎても仕方がないので、アウェー福岡という”鬼門”を乗り切って、躍進に繋げていきたい。
(取材・文/河治良幸)



