<ガンバ大阪・定期便127>宇佐美貴史、デニス・ヒュメット、食野亮太郎。苦しんだ先に。
中3日での連戦となる中で迎えたJ1リーグ第13節・京都サンガF.C.戦。それぞれが置かれている状況は違えど、期する思いでこの試合に臨んでいた3人が起用に応え、3試合ぶりとなる勝利に貢献した。宇佐美貴史、デニス・ヒュメット、食野亮太郎だ。
宇佐美は左内転筋の違和感による離脱から復帰して初めて先発を飾り、デニス・ヒュメットは控えに回る時間が続いていた中で、4試合ぶりの先発出場。復帰が目の前に迫りながら沖縄キャンプで再離脱となっていた食野はシーズン初の先発メンバーに抜擢された。思えば、食野の『先発』は昨年10月23日のJ1リーグ第35節・名古屋グランパス戦以来、実に約6ヶ月半ぶり。愛してやまないパナソニックスタジアム吹田のピッチが「心強かった」と振り返った。
■宇佐美貴史が掴んだ手応え。「体のコンディションが上がっていけばプレーの充実にもつながっていく」。
口火を切ったのは宇佐美貴史だった。
立ち上がりからアグレッシブに入った流れの中で10分、敵陣、深い位置からのカウンター。この日はボランチを預かっていた満田誠が山下諒也に繋ぎ、右サイドのデニス・ヒュメットへ。そのスピードに合わせて両手を挙げてボールを呼び込みながらエリア内に侵入した宇佐美は、ヒュメットからのグラウンダーのパスを受け、ダイレクトで右足を振り抜く。
「デニスからのクロスボールは少し速くて、合わせづらい球ではあったんですけど、スピードが良かったので、足を振らずに、しっかりと面で捉えることを考えていました」
状況としては敵陣ゴール前に、京都が5枚、ガンバが3枚という局面だったが、特に数的不利な状況を把握してダイレクトで狙ったわけではなく、ヒュメットからのパスの球速だけに注力していたという。
「球が速いと、シュートに力が入らないというか。パスの強さがサポートしてくれるし、枠に飛びさえすれば、GKの真ん中に飛んでいくことはない。なので、とにかくふかさないようにっていう、その面の作り方だけを意識して打ちました」
宇佐美にとっては、J1リーグ戦では第7節・アルビレックス新潟戦でPKを決めて以来のシーズン2得点目。すなわち、流れの中からだとシーズン初のゴールだ。今シーズンがスタートしてから、小さなケガによる離脱が続き、コンディションを上げては、落ち、作り直しては、また落ちて、という状況を繰り返していた宇佐美。その都度、いろんな試行錯誤を繰り返していたとはいえ、昨シーズンの戦いを通して「動ける! 走れる!という体ができ、それが公式戦での結果につながることで、メンタル的な充実も図れる」ということを自身のバロメーターにしていたことを考えれば、その『体』が思うように動かない状況に苦しんでいたのは言わずもがなだろう。
とはいえ、京都戦ではその『体』の部分でようやく本来のコンディションが戻ってきたという印象も。目を惹いたのが『守備』の強度だ。例えば、ヒュメットが決めた2点目のシーン。あのカウンターは、自陣ペナルティエリア内中央での、京都のFWラファエル・エリアスに対する宇佐美の『守備』から始まっている。それを福岡将太、ヒュメットと繋いだあと、再びボールを受けた宇佐美のスルーパスに合わせてヒュメットが左サイド抜け出し、ペナルティエリア内までボールを運んで、ゴールネットを揺らした。
そのシュートの瞬間には、スピードを落とすことなくゴール前まで走り込んでいた宇佐美の姿も。その『守備』から始まった一連の動きは、ある意味、彼に本来のコンディションが戻ってきたことを指し示していた。
「エリアス選手へのボールをカットしたところからまた出ていけたのは、自分としては一番良かったプレーかなと。それも含め、今日は戻って潰し切るってところも、要所要所でしっかりできたし、その辺もすごくいい感じの感覚が戻ってきているなと思います。ここからまたケガをしないようにということは注意しなくちゃいけないですけど、今日はやっていてもコンディションというか、前に出ていくパワーのところでもすごくいいものを感じました。体のコンディションが上がっていけばプレーの充実にもつながっていくし、チームの助けにもなれると思います」
また「まだまだ、上げなくちゃいけない」としながらも、「久しぶりに自分自身がスカッとするようなプレーができたし、かつ、自分の結果がチームの結果につながったことで乗っていけそうな気がする」と話したのも、ガンバにとっては、この試合における何よりの収穫だったという見方もできる。宇佐美のゴールがチームに宿す特別な力を考えても、だ。
もっともチームとしての戦いについては、後半の戦い方を課題に挙げ「今日は、勝てたという結果はよかったけど」と前置きして、厳しい言葉を続けた。
「前半は、しっかり守って前に出ていって、という戦いができたけど、後半に関しては奪ってからの1本目のパスとか、シュートまでいけそうなところでのクオリティやプレーの質は低くて、受けっぱなしの展開になってしまった。もちろん、体の疲れとかも含めてメンタル的に受けてしまったということだと思いますけど、そのメンタリティを含めて改善していかないといけない。京都のサッカースタイル的に、日程がタイトになるほど苦しいはずで、今日はその部分でうちがうまく立ち回れて結果は出たけど、本当に力で上回れたという感覚は個人的にはあまりない。もっともっと内容と結果がリンクしていけるようにやっていかなくちゃいけないと思っています」
■母国で病と戦っている父や兄弟のためにも。デニス・ヒュメットの1ゴール1アシスト。
その宇佐美の先制点をお膳立てし、かつ、宇佐美からのスルーパス受けてJ初ゴールを決めたのがデニス・ヒュメットだ。
試合後のヒーローインタビューでは母国で病と戦っている父への思いも明かし、「メッセージを届けられたと思う」と話した。
「もちろん、僕はガンバの選手。ガンバのためにここにいるし、ガンバのためにプレーすることに嘘はないですが、その反面、家族の健康上の問題が日本から遠く離れた場所で起きると、当然、悲しみは感じます。ただ、そうした状況は乗り越えなければいけないし、その悲しみや、暗い気持ちをモチベーションに変えていかなければいけないと思っていました」
ゴール後、両手でメガネを作って喜びをあらわにしたパフォーマンスは、ヒュメットが幼少期に憧れ、ヒーローだと親しみを寄せる『バッドマン』に由来するもの。それもあって、母国・スウェーデンでは『バッドマン』の愛称で呼ばれている彼はここ数年、ゴールのたびにそのパフォーマンスを行ってきたが、京都戦ではそれをスウェーデンにいる父と兄妹にも届けたかったと思いを明かした。
「僕の兄妹と父親は、僕が5歳の時からずっと僕のサポートをしてくれていました。その彼らに僕が日本で活躍する姿を通してメッセージを送りたかった。ゴール後、TVカメラに向かって叫んだのも、彼らに向けてです。父がそうした状況にある今だからこそ、自分がポジティブなメッセージを送らなければいけないと思っていました」
来日から約1ヶ月半。加入直後からメンバー入りを続けていたものの、第8節・FC町田ゼルビア戦、第9節・柏レイソル戦以降は、先発から遠ざかった。だからこそ、4試合ぶり3度目の先発出場には、期する思いで臨んでいた。
「Jリーグはとてもハイテンポなリーグ。そこにどう順応できるかを含めて、毎日、僕なりにいろんな分析を重ねてきました。試合が終わるたびにおさらいをして、自分がどういうふうに動けば、自分のエリアに持っていけるのかを練習でも試してきました。その中で5つ、6つと試合が進んできたことで、徐々にその働きかけが功を奏してきたという感触はあります。今日は3試合目のスタメンでしたが、それがしっかりと出せたのかな、と。このリーグを知るための1番の方法は、しっかりとピッチでプレーをして、自分の学びに繋げていくこと。そのために、今日、このようにチャンスをもらえて、結果を出せたのは個人的にとてもよかったと思っています」
ガンバへの加入以降、いろんな選手とのコミュニケーションを図ってきたと話すヒュメットだが、特にイッサム・ジェバリとはピッチ内外で話す姿をよく見かけた。加えて、前節・FC東京戦の前には、そのジェバリと二人、最後までピッチに居残り、シュート練習を行っていた姿も。その存在を心強く感じることも多いという。
「ジェバリとはこれまでも一緒にプレーするチャンスもあったし、僕が出たり、彼が出たり、という状況でしたが、彼ももともとはスウェーデンリーグでプレーしていたこともあり、いろんな事情というか、僕の状況もわかってくれている。僕にとっては兄のような存在です。お互いをサポートし合える仲間がいる、兄弟のような存在がいることを非常に嬉しく思っています」
ちなみに、肝心のゴールシーンについては「いいゴールだった」と胸を張った。
「いいカウンターから貴史(宇佐美)にボールをつけてもらい、自分で運んで、ゴールの端の、(相手GKにとって)一番難しいところに決められた。いいゴールだったと思います。練習からチームメイトとの連携も良くなってきたという感触もありますし、今日の試合ではそれが見せられたと思います。続けていきたいです」
■約半年ぶりにピッチ戻ってきた、食野亮太郎。その胸に宿していた『生え抜き』としてのプライドとは。
苦しみ抜いた昨シーズンを乗り越え、ピッチに戻ってきた食野亮太郎は、復帰に際し、ここから先の戦いを『逆襲』だと定めていた。
「22年夏にガンバに復帰してから、昨年は一番苦しいシーズンを過ごしました。本音を言えば落ち込んだ時期もあったし完全に自信を失って、思うようにプレーができなくなった時期もありました。でも、その現実から逃げずに『今は自分が変わるチャンスや』と思えたから、また0から這い上がっていけばいいと切り替えられた。だから、リハビリにもポジティブに向き合えたし、戦列に戻った今も真っ直ぐにサッカーを楽しめているんやと思う。ただ、それでよかった、とは全然思っていない。半年くらいサッカーから遠ざかっていた中で、このままで終われないと思っているし、支えてくれた家族にも、息子にも、父親として誇れるような背中を見せなアカンとも思う。だからこそ、ここからが食野亮太郎の見せどころ、逆襲やと思っているし、その思いをピッチでのプレーで表現したいです」
その思いのままに、京都戦は立ち上がりから躍動した。半年ものブランクを感じさせないほどに、だ。試合後には「めっちゃ緊張していました」と笑ったが、見た目には硬さは感じられなかった。
「だいぶ緊張していたけど、あまり考えないようにしていました(笑)。なので、とりあえず、自分に悔いを残さないように、とにかく走って、とにかく体を相手にぶつけて、ボールに食らいついていこうと。点が取れたらよかったですけど、それはチームのために必死に走っていれば後からついてくると思っていました」
その言葉通り、左サイドMFを預かった食野は、立ち上がりから攻撃を加速。スペースの使い方、周りの選手との距離間、ボールを動かすテンポもよく、受けて、出して、走って、カットインと、連続したプレーで相手に揺さぶりをかけた。
「チームのために走ることが一番だと思っていたし、それが僕に求められるところ。京都のような相手には特に、どれだけ球際を戦って、チームメイトのために走れるかだと思っていました」
と同時に、その胸にあったのは、昨シーズン、ピッチで躍動する仲間の姿をスタンドから見続けていた中で、リマインドした『生え抜き』としてのプライドだ。チームメイトには絶対的支柱として活躍するアカデミーの先輩もいる中で、彼らが示す存在感と自身を照らし合わせ、自分がガンバのためにやるべきこと、できることを繰り返し考えた末に辿り着いた、彼なりの答えだった。
「僕は宇佐美(貴史)くんのような天才ではないし、チームの圧倒的な顔にもきっと、なれない。でも、どんな時も牙を剥いて相手に向かっていくとか、どんな状況でもガムシャラに戦って、チームのためにプレーする秋くん(倉田)の姿になら、近づけるかもしれないなって思うんです。その秋くんを外から見ていて『なんであんなに頑張れるんやろう?』って考えた時に、秋くんはほんまにガンバが好きなんやと思ったというか。だからこのエンブレムのために、試合に出ても出ていなくても変わらずに戦い続けられる。僕もそういう存在に…というか、サポーターの皆さんに『食野は燻ったり苦しんだりしているけど、結局はガンバが好きなんやな』『ガンバのためにすごい必死こいて戦っているんやな』ってことがプレーで伝わる、皆さんの心に届くような選手になりたい。もちろん、宇佐美くんは宇佐美くんにしか、秋くんは秋くんにしか背負えない、大きなものを背負っているとは思います。でも、僕もそこに続けるように…というか、ガンバを背負える選手になるために、とにかくガンバのために汗をかきまくって戦います。そこに結果がついてきたら一番理想ですけど、まずは自分がその姿勢を見せること。アカデミー育ちとして、ガンバのプライドを持っている一人として、ピッチに戻っていく自分はそうありたいと思っています」
事実、ここ最近は、チームとしても苦しい戦いが続いていた中で練習でもやや重い空気が立ち込めていたが、その雰囲気を変えようと誰よりも声を張り上げ、盛り上げていたのは食野だったと聞く。その思いのままに、京都戦のピッチにも立ったということだろう。
「僕はピッチ外でもよく喋るタイプ。周りとのコミュニケーションも普段から多くとっていますし、明るさというか、僕自身のキャラクターというか、そういうエネルギーをチームに注入することで、どんよりしている雰囲気を少しでも晴らせたらいいなということは、練習でも今日の試合でも意識していました。そういう部分では少しいい風を吹かせられたかなとも思いますけど、これを続けていかないと意味がない。まだまだここからです」
食野をはじめ、宇佐美やヒュメットの言葉にもあるように、大事なのは『続けること』。個人としても、チームとしても、だ。この世界で最も難しいとされるその継続を、彼らがこの先、どのように見出していくのか。少なからず、それが楽しみになるような、京都戦だった。



