【G大阪】タイトルを手繰り寄せた「53分のCK」。“ブロック役”を担った今野泰幸と金正也が「緻密なサインプレー」を解説 SOCCER DIGEST Web 1月1日(金)22時8分配信

「完全にブロックされた。分析はしていたんですが……個人的なミスです」(槙野)

 53分のCK――。タイトルを手繰り寄せた最大のポイントは、この時のワンプレーと言っても過言ではない。

1-1で迎えた53分、G大阪は右CKを獲得。遠藤保仁がボールをセットすると、中央では「パトリック×槙野智章」、「今野泰幸×阿部勇樹」がマッチアップしていた。遠藤がゆっくりキックモーションに入ると、両軍の選手たちが息を合わせたかのように一斉に動き出す。

“おしくらまんじゅう”状態のなか、槙野と競り合っていたパトリックがわずかに距離を取ると、その手前で阿部と競り合っていた今野が槙野の走るコースを潰 してブロック。上手く回り込んだパトリックは、ペナルティマーク付近で完全にフリーとなり、余裕を持って右足を振り抜いた。

槙野の動きを制限した今野のプレーは、バスケットボールで言うところのスクリーンだ。“スクリーナー”(スクリーンをセットした選手)と化した今野のワンプレーでパトリックはフリーとなり、結果的にこの一撃がG大阪を天皇杯連覇へと導いた。

ブロックされた槙野は「しっかり防がないといけなかった。完全にブロックされましたね。分析はしていたんですが……個人的なミスです」と振り返る。

一方、決勝点を決められたGKの西川周作は、「負けた原因は、自分たちはセットプレーで点が取れなくて、ガンバは取れた。その差が大きかった」と語りつつ、2失点目の場面についてはこう続けた。

「上手くブロックされて、パトリックのマークを外された。スカウティングしてミーティングで話していたし、あの動き(のイメージ)は頭にあった。でも、セットプレーは1対1のところだし、一人ひとりが責任を持ってやるしかない」

「本当は今ちゃんと自分の場所が違った」と、G大阪の金がCKの舞台裏を暴露。

 分岐点となった53分のCKは、G大阪にとって「まさに狙いどおりの形。ただ、あそこまで上手くいくとは思わなかった」(今野)というのが実情のようだ。今野はさらに続けた。

「あんまり言い過ぎでもあれだけど、浦和はマンマークで激しく付いてくる一方、ボールをあまり見ないで人に付いてくる。そこを逆手に取って上手くポジショニングを取り、誰かをブロックできれば、ウチのひとりが絶対フリーになると想定していた」

CKの場面で、ブロックの任務を託されていたのは今野と金正也。これまでの試合で何度か見せていたサインプレーであり、何度もトレーニングを重ねていたという。

「僕とジョン(金)がブロックの役割を担っていましたが、あの場面では僕がやる形になった。僕をマークしていた阿部(勇樹)さんを少し押したら、槙野を上手く止める形になった」

一方、金は直接2点目に関与しなかったものの、「本当は今ちゃんと自分の場所が違った」と舞台裏を暴露する。

「ふたりで一緒にブロックするというより、ボールが来た方がその役をこなすという感じ。あの場面では、今ちゃんの方にボールが行って、槙野選手を上手くブ ロックしていた。今ちゃんと自分が少し離れて立つのは予定どおりでしたが、本当は自分が今ちゃんの場所にいるはずでした。ただ、今ちゃんがそっち側に言っ たので、自分はもう一方にズレた」

CKの際、ふたりがしたポジション変更が、結果的に勝利を呼び込むポイントとなったのは間違いない。

「気持ちで負けず、冷静に戦えたし、セットプレーでも点を取れたので完璧だと思う」と、今野が自画自賛。

 CKから生まれたゴールには、ひとつの“嬉しい誤算”があったという。それはパトリックが“足”で決めたこと。金は冗談を交えながらゴールについて触れる。

「あの形自体はトレーニングどおりですけど、大体はヘディングで合わせる感じだった。ちょっとパスが短くなってパト(パトリック)の足もとに行く場合、大 抵はゴール上に外していたけど、今日は足もとにボールが行って、珍しく入りましたね(笑)。パトが足で合わせた時に決めるのは、トレーニングで滅多に見な かったですから」

CKの緻密なサインプレーは、“今野と金のポジション変更”や“パトリックの正確なミート”という要素が重なり、ゴールという形で結実した。

「長谷川(健太)監督は『気持ちで負けるな』『冷静に戦え』『セットプレー』という3点を強調していた。気持ちで負けず、冷静に戦えたし、セットプレーでも点を取れたので完璧だと思う」

ブロック役を完遂した今野は、充実の面持ちで取材エリアを後にした。

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