<ガンバ大阪・定期便125>鈴木徳真の現在地。

■フル稼働した昨シーズンの戦いを通して掴んだもの。

 少し時計の針を巻き戻し、昨シーズンの戦いを思い出して欲しい。新たにガンバの一員となった鈴木徳真は試合を重ねるごとにその存在感を増し『ポヤトス・ガンバ』の欠かせない駒として稼働し続けた。

 出場したJ1リーグ戦は37試合。ネタ・ラヴィ、ダワン(2月に北京国安足球倶楽部へ完全移籍)、美藤倫との厳しいボランチ争いを繰り広げながら、J1リーグでの自身キャリアハイの数字を刻んだ経験は、間違いなく彼の自信となり、財産となったと言っていい。

 そのシーズンを終えて、鈴木が『2025年シーズンに持ち越したいもの』に挙げていたのが『再現性のあるプレー』だった。

「サッカーは積み重ね、なので。チームとしても個人としても、試合の中で1回成功して終わり、ではなく2回、3回とできるようになる=再現性が高くなっているってことだし、実際にその感覚が自分にしっかりと刻まれた状態で来シーズンに進めるのはすごくポジティブ。個人のところで言えばキックの精度とか、浮き球の感覚、ポジショニングとか攻守のバランスもそうだし、チームとしてはボールの動かし方とか、チームとしての攻め方を含めた『チームで崩す』感覚というのかな。基盤にあるチームとしてのオーガナイズ力とか、お互いへの理解みたいなところは来シーズンに繋げたいと思っています」

 その上で「チームって生き物だからそうはうまくいかないってことも覚悟しています」と強調していたのも印象に残っている。徳島ヴォルティスに在籍していた時代の経験からも、また昨今のJクラブを見渡しても、近年はチームの主力選手が継続的に揃って在籍するというケースがほぼないからだ。

「近年ならヴィッセル神戸は継続的にある程度メンツを固めて戦って結果も残しているけど、近年は活躍した選手がよりビッグクラブへ移籍するとか、海外へ移籍するというケースも多い。つまり、神戸のようなクラブの方が稀だと考えれば、ガンバも今年のメンバーで2025シーズンをスタートすることはほぼないと思った方がいいのかな、と。でも、だからこそ、さっき話した『個人として持ち越せるもの』は大事になってくると思うんです。自分がどんなプレーを、どのレベルですれば、うまくいったのかという経験値をもとに、そのプレーを来年、より高く引き上げていくことができれば、ある程度はベースとなるチーム力を維持できる。その上で、チームとしても『上積みしていく』という感覚で進んでいければいいなと思っています」

■「逃げずにもがいていれば、いつか必ずカチッとハマる瞬間がくる。今は焦れずにやることが大事」

 実際、ガンバからも、昨シーズンの主軸としてプレーした数名の選手がチームを離れた中で迎えた2025シーズン。加えて、主力選手に相次ぐ故障者が出た中で戦った、セレッソ大阪との開幕戦は2-5で敗れるという苦いスタートになった。

「試合の入り、失点の仕方、時間帯が悪く、試合運びのところですごく難しさを感じながら戦っていました。追いついたシーンや、2点目を決められたことなどポジティブに受け止められることもあって、全ての時間が悪かったとは思ってはいないですけど、常にビハインドを追いかける展開になったことで矢印を前に向けるしかなくなり、自分たちからリズムを作り出せなくなってしまった。悔しいですけど、後々、この敗戦があったからいい方向に進んだ、みんながもう一回ガムシャラに向き合ってチームが勢いに乗れたという状況を作り出せるようにしていきたいです」

 チームとしての戦いを振り返る一方で、鈴木が厳しい目を向けたのが自身のパフォーマンスについて、だ。開幕直後ということもあり、コンディション、パフォーマンスを含めて万全とはいかないことは覚悟していたそうだが、一方でダブルボランチを組んだネタ・ラヴィとのバランスについては「正直、まだ自分が掴みきれていない」と言葉を続けた。

「人も変われば、特徴も変わる中で、これまでと同じ感覚でプレーするとズレが起きることが多くて。それはわかっていたことなんですけど、そこを修正しようとすると自分の中で思い描いているのとは違うプレーが出てきてしまうというか。それによる選択の迷いが(プレーの)決断を遅らせている気がしたし、自分のミスを呼び込んでしまっていたな、と。もちろんこの時期は探り探りやって、何がチームにとってベストなのかを見つけていくしかないし、それはトレーニングから心掛けていることでもあるんですけど、探り探りである以上、今日のように必要以上にミスが起きてしまうし、判断も1つ、2つと遅れてしまう。将棋で言うところの、どこに駒を置けば次の一手につながるのかを見ている時間が、自分の中で長すぎたというか。そこはこの先、誰と組むにあたっても僕がもっと折り合いをつけていくべきだと感じました」

 思えば、昨シーズンは多くの時間をダワンとダブルボランチを組むことが多かった鈴木。特にシーズン終盤にかけては、ダワンとのバランス、自身の役回り、『活かし方、活き方』の最適解に辿り着いていた印象も強かったが、今シーズンはまだラヴィや美藤とのバランスを探っている最中ということもあってだろう。もしかしたらコンディション的なことも影響したのかも知れないが、先に書いたC大阪戦に限らず、彼にとっての先発2試合目、美藤とコンビを組んだ第3節・ファジアーノ岡山戦も、チーム全体のチグハグさが否めないまま試合を終えた印象が強かった。

「もちろん、それは僕たちダブルボランチだけのバランスではなく、チーム全体に関わることなんですけど、試合の中で、いろんなことズレが起きていたのは見ての通りかな、と。縦パスを入れたいけどコースがなくて横パスに逃げてしまったり、守備のところが気になって思い切って前への選択を出来なかったり。そうやって僕らのところが横回し、後ろ回しになってくると、チームとしてもどうしても後ろに重くなってしまいますしね。ただ、前にも話した通り、そこは僕自身がどうにかすべきというか。相方になる選手がどうしたいか、何が強みかを踏まえて、自分が相方に合わすことを考えながら、でも僕自身の良さを消さずにプレーできるようになればチームとしてもうまくいく気がしているので。ある意味、そこを考えられるのが僕の強みだし、試合に出るためには必要なところだと考えても、今はもがきながら模索しています。そこがスムーズにいくようになれば、お互いが気を遣わずにプレーできて、尚且つ、チームとしての最大値を出せるようになると思うから」

 これは彼が、再び控えに回った、第4節・東京ヴェルディ戦後に聞いた言葉だ。もっとも、今のもがいている自分も、悩んでいる自分も「決して無駄とは思わない」とも続けていた。

「しっかり、逃げずにもがいていれば、いつか必ずカチッとハマる瞬間がくると思うので、今は焦れずにやることが大事かな、と。過去の経験からも『もがく』ことって、必ず後の自分につながっていると思っているので。今はとにかく、もがきゃいいんだ、答えが出るよと自分に言い聞かせています。毎日、みんなでボールを蹴っているわけだから、なんだかんだ言って結局、時間が解決してくれる気もしますしね(笑)。もちろん、チームのためにも、もがく時間は短い方がいいに決まっているので、今を全力でもがこうとは思っていますけど」

■自問自答を繰り返しながら、清水エスパルス戦で見出した、手応え。

 直近のJ1リーグ第5節・清水エスパルス戦は、その『答え』に近づけた試合になったと言ってもいいだろう。この日、2試合ぶりに先発のピッチを預かり、ラヴィとダブルボランチを組んだ鈴木は、ラヴィの持ち味である攻撃力を存分に出させながら、中盤でうまくバランスを図り、チームの攻撃を前に進める黒子として立ち回った。

「彼を活かすことで自分を活かすための形を見つけている最中ということもあり、今日も試合をしながら、1つ1つのプレーを自分の中で確認しながらプレーしていたというか。攻撃している間はほぼずっと、ここであっているかな、ここにいた方がいいかな、って探りながら、ネタ(ラヴィ)の立ち位置を見て、自分の立ち位置を決めるってことを1つ1つ丁寧にやっていました。そうしたプレーが、時間が経つにつれて、頭で考えなくてもできるようになっていけばより関係性は良くなっていのかな、と。例えば、ネタや倫(美藤)がその場の展開に応じた判断でフラっと前に出て行ったとしても、スムーズに僕がそのスペースをケアする、リスク管理をしておく、みたいなことができれば問題ないし、その逆も然りで、攻撃でも守備でもその息があってくればより、チームにプラスの影響を及ぼせるんじゃないかと思っています。今日は僕がどうこうというより、ネタのパフォーマンスが純粋に良かったことに助けられた部分も大いにありましたけど、前半は特にチーム全体としてボールを動かせたシーンも多くて『ああ、これこれ』という形が見えたと考えれば…まだまだ詰められるところはあるけど、これをベースにしていけば、みたいな手応えは僕なりに少し掴めた気がします」

 また、個人的には自身が先発した試合は2連敗していた現状を踏まえ、実は危機感も大きかったとも明かした。

「もがくしかない、やるしかない、と思う反面、そうそう何度もチャンスがもらえるとは思っていないので。ここまで、自分が先発した試合は2連敗していただけに、今日の試合は自分の今後のキャリアとか、シーズンの流れを変える試合になると思っていました。そういう意味では勝ちという結果が出たのはすごく嬉しい。あと今日は、しっかりボールを持ちながら、守備から攻撃が形になった時間も多かったことが『完封』の理由だと思うので。そこも自分としては手応えに繋がるところでした。試合後、ダニにも言われた通り、前半のうちに試合を決められるような点差にして、後半も自分たちのサッカーをしたかったとは思うし、そこはチームとしての伸び代だと思っています。でも、90分の中では苦しい時間もあって当然だと思うので。一番大事な『勝つこと』から逆算する戦い方にみんなで共通理解を持って、セフティにプレーするところはセフティにやるという選択ができたのは、ポジティブに受け止めたい。これは去年からの積み上げのおかげだと思っています」

 本人の言葉にもある通り、今はシーズンの序盤で、突き詰めていくべきところはたくさんある。冒頭に書いた『再現性のあるプレー』を数多く表現していくのも、これからの話だろう。ただ、個々がもがきながら、諦めずに見出そうとする、チームが勝つための『最適解』はきっと、この先もガンバを前に進めてくれる。鈴木のパフォーマンスを通してその価値を知った清水戦でもあった。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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