38歳の東口順昭が10代のチームメイトに熱視線「彼らのプレーを盗むことで、まだまだ成長できる」
ベテランプレーヤーの矜持~彼らが「現役」にこだわるワケ(2025年版)第1回:東口順昭(ガンバ大阪)/後編
前編◆東口順昭「『引退』という言葉が勝手に浮かんできた」>>
繰り返す右膝の違和感、これまで無傷だった左膝の負傷もあって「引退も考えた」という東口順昭だが、そこを乗り越えるチャレンジをしようと決めてからは、あらためて自身の体と向き合いながら、このオフシーズンを過ごしてきた。特に、12月14日に出場した槙野智章の引退試合を境に、左膝の痛みがふっと抜ける瞬間を感じることが増えた事実は、彼の背中を押したという。
「年末年始もほぼ休みなく体は動かしていたんですけど、左膝のことを気にせずに動けるようになって、めっちゃ体がラクになった」
明確に「本来の自分が戻ってきた」という感覚を得たのは、年を明けてすぐの頃。それは、1月7日のチームの始動日を迎えるうえでも励みになった。
「当たり前ですけど、やっぱり体が動くのが基本なので。そのベースがあれば、思いきってプレーもできるし、それがまた自分の体を動かすという、いい循環にもつながる。もちろん、そうは言っても昨年1年を考えれば、今シーズンが自分にとって簡単なチャレンジでないことはわかっています。
だから今も、これまで以上の覚悟を持って日々やらなアカンって思っているし、体のケアも徹底しているし、自分のプレーもこれまで以上に分析しているし、仲間のプレーもより知ろうとしている。そんなふうにチャレンジャーの気持ちでいることがどこか懐かしくもあり、刺激にもなっています」
驚くべきは、そのあとに続いた言葉だ。
「今年のGK陣には20代がいなくて、30代の僕と(一森)純と、19歳の(張)奥林、17歳の(荒木)琉偉という構成ですが、3人とも僕にとっては大きな刺激なっています。ちょうど昨日も純と話していたんですけど、10代のふたりは、僕らにはないポテンシャルを備えていて……彼らのプレーをいろいろと盗むことで、まだまだ成長できるかなって思っています」
前編の冒頭でも記したとおり、東口は今年でプロ17年目を迎えた百戦錬磨のGKだ。GKのJ1リーグ通算出場試合数は、楢崎正剛、西川周作(浦和レッズ)、曽ヶ端隼、川口能活、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)次ぐ歴代6位の出場数(396試合)を数える。しかも、一昨年までは残留争いに巻き込まれるシーズンが続いていたなかで、記憶に残る「チームを救うセービング」も数知れず、それがガンバ大阪の”守護神”としての存在感をより際立たせてきたといっていい。
その彼が、まだプロデビューすら果たしていない10代のチームメイトのプレーを見て、多くのものを盗みたいと目を輝かせる。そこに、彼のプロサッカー選手としての矜持を見る。
「単に、僕は人のプレーを盗むのが好きなんやと思います。実際、10代のふたりは190cm超えの恵まれた体と能力を備えていることからも、この先、次世代のGKとして間違いなく注目を集めるはず。特に、今年入ってきたU-20日本代表にも名を連ねる琉偉はまだ高校生ですけど、なんかもう、説明できひんポテンシャルを備えてますから(笑)。
たとえば、GKって構え方ひとつとっても、高く構えたり、低く構えたり、前のめりやったり、後ろ重心やったり、いろんなタイプがいるんですけど、琉偉はどちらかというと立っている感じで構えるんです。でも194㎝も身長があるので、それだと下のボールへの反応が遅くなると思うじゃないですか? でも、琉偉はその構えから下のボールへの反応もめちゃめちゃ速い。それは、なぜなんや? と。しかも、その時々にとるべきプレーの選択を間違わないのもすごいなって思います。
そういう選択ができるようになるのって20代後半くらいな気がしていたけど……マジで末恐ろしい。その理由を探るためにも観察して、研究してます。それが、めっちゃ面白い」
年齢、キャリアに関係なく、いいと思うプレーは素直に受け入れ、自分に還元することを考える。そういえば、昨年、右膝のケガから復帰した際は、彼が尊敬してやまない憧れのGK、リバプールのアリソン・ラムセス・ベッカーのプレー映像やフットサルのGKを参考に「シューターとの距離間」の詰め方を学んでいると話していたことも。その途絶えることのない、プレーへの探究心、うまくなりたいという向上心が今も、彼をピッチに立たせ続けている。
「キャリアを重ねるなかで積み上げられてきたことも絶対にあって、若い頃より見えること、できることが増えているのは間違いないと思います。でも、この先どれだけやっても、『もっともっと』と思うやろうし、完璧だと思える日は、一生来ない。それをわかっていながらも、僕は自分にできないことができるようになっていく過程がやっぱり楽しい。
いや……自分にできひんことをやろうとするのって、根気もいるし、正直、めっちゃ嫌なんですよ(笑)。『うわぁ〜できひんー』ってことに向き合うのもしんどい。でも、そこにちゃんと向き合って、ひとつずつ積み上げていけば、いつかは自分のものになるとわかってるので。そのプロセスを楽しいと思えているうちは、現役でいるんでしょうね」
もっとも、先に名前の挙がった張や荒木のように、次から次へと若い選手が台頭してくるこの世界だ。40歳に近い選手がピッチに立ち続ける難しさは百も承知でいる。でも、だからチャレンジのしがいもある。
「一昨年に396試合まで(出場試合を)重ねた時は、400試合を意識したし、30代後半に差しかかかってからは『40歳まで』みたいなことも考えていたけど、気がついたらあっという間に30代最後の年やから。遠くに思えていた数字が目前に迫って、逆にそこは気にしなくなった。
それよりも今は、できるだけ長くプレーできるように、というのが一番。同世代の周ちゃん(西川/浦和レッズ)や大樹(飯倉/横浜F・マリノス)らも頑張っていますしね。一時期、控えに回りながらもまたポジションを奪い返してJ1のピッチに立ち続けている彼らの姿はマジで刺激にも、励みにもなる。だから、心から頑張れって応援しています。もちろん、自分のことも(笑)」
ガンバで積み上げた11年ものキャリアで、数々の”タイトル”を含め、酸いも甘いも経験してきた東口だからこそ、簡単にポジションを明け渡してたまるか、というプライドもその胸に携えて。
「ガンバの先発というポジションはそんな簡単につかめるポジションじゃない、ということを僕自身もいろんな選手の姿から学んできたように、僕もその姿を示し続けたい。それが、ガンバがこの先”タイトル”という歴史を取り戻すために絶対に残していかなアカンDNAやと思っていますしね。僕が言わずともみんなわかっているとは思うけど、そういった本物の競争をこのチームに植えつけるためにも、まずは最年長の自分が、しっかりギラギラしておこうと思っています」
その考えは昨年、自身のキャリアで初めてに近いほど、試合に出場しないシーズンを経験して、あらためて自分にリマインドしたことでもあるという。
「コンスタントに試合に出場している時なら、目の前の試合に向けて準備をし、試合を戦い、体を回復させて、また次の試合に向かうというリズムを自身に見出せていたけど、去年はそうじゃなかったから。自分ではいい準備ができたと思っても、試合に出られるかどうかはわからないというなかで、それでも、チャンスが来た時に自分のすべてを出しきるために、ということを意識し続けて、その時を待たなければいけなかった。
しかも、そういう立場のGKにはそう何度もチャンスを与えられないからこそ、出た試合で最大限のアピールをせなアカンというプレッシャーも感じましたしね。そこにしっかりと向き合っていくためにも、ギラギラした自分は絶対に必要やと思う。
そういう意味では今、自分が感じている独特の緊張感というのも悪くないと思っているというか。若い時に、試合に絡めていなかった時期に感じていたような緊張感を、この歳になって再び味わうことで、もしかしたらこれまでとは違ったフレッシュさを自分に呼び起こせるかもしれないと期待しています(笑)」
実際、取材を行なった2日前には、沖縄の地で水戸ホーリーホックと今シーズン初の練習試合を戦ったが、その際も試合前から驚くほど胸が高鳴るのを感じたそうだ。
「試合そのものが久しぶりやったのもあって、『練習試合やのに、こんな緊張していて大丈夫!?』ってくらい緊張してた(笑)。でも、それでいいと思う。試合って、絶対に慣れたらアカンし、こなすようになった時点でいいパフォーマンスはできなくなると思うから。なのでフレッシュに、ギラギラ、38歳、頑張りますよ」
そんな彼について、19歳の張は「お父さんみたい」と親しみを寄せ、17歳の荒木は「全然歳の差は感じない。めちゃ歳上ですけど」と笑う。彼らにその言葉を許させているのも、東口の懐の深さゆえだろう。
そんな若い彼らにも負けない”ギラギラ”を携えて、東口順昭の逆襲のシーズンが始まる。
(おわり)
東口順昭(ひがしぐち・まさあき)1986年5月12日生まれ。大阪府出身。大学卒業後、2009年にアルビレックス新潟入り。2年目から出場機会を得る。2011年、日本代表に選出され、2014年にはジュニアユース時代に在籍していたガンバ大阪に移籍。以来、ケガに泣かされるシーズンもあったが、不動の守護神として活躍してきた。2018年ロシアW杯出場。国際Aマッチ出場8試合。