<ガンバ大阪・定期便119>準優勝に終わった天皇杯。悔しさを活かす未来は、始まっている。

 天皇杯決勝を終えた取材エリアで選手たちがそれぞれに見せた表情、言葉を何度も思い返しながら丸1日が過ぎた。悔しさにまみれ、まだ頭の中の整理が追いつかないであろう状況下で絞り出してくれた言葉たちを、だ。

 同時に試合内容を頭の中で再生し、0-1というスコアに見た差について、考えを巡らせる。ポヤトス監督の言葉を借りれば「疑いもなく、魂を込めて全ての熱量を出し尽くした」ことを前提にして。

 例えば、それを倉田秋は「勝負強さの差」だと言い、中谷進之介は「あの一本」に悔しさを滲ませた。

「ファイナルなので、形がどうこうというよりは最後は向こうが気持ちでねじ込んだゴールを僕らが止められなかったし、僕らはねじ込むことができなかったということ。前半は自分たちにいい時間帯が多かった中で、そこを仕留められず、相手は前半からほぼチャンスがなかった中で後半あの一発を決めてきた。もちろん戦術だとかいろんな要素もありますけど、ファイナルではそれ以上のものが働くと覚悟していた中で、そこで相手に上回られたと思っています(倉田)」

「チャンスがあったシーンで点を取れていたら勝てていたのかもしれないし、守備のところも本当にあの1シーンだけだったと思うので。相手のエースである大迫勇也選手や武藤嘉紀選手にそこまで仕事をさせたわけではなく、実際にスタッツを見返してもそこまでシュートを打たれてはいなかった。ただ、あの一本をゴールに沈めてくるのが神戸で、僕らはいい流れの前半に仕留めきれなかったのは事実なので。相手はあの一本を狙っていたと考えてもそこは1つ結果を分けたのかなと思います(中谷)」

 鈴木徳真や黒川圭介は「全員が集中して試合を進められていた」と手応えを口にしながらも、それで結果が出なかったことが差だと言わざるを得ないと受け止めた。

「まだ映像を見返していないので、今の時点で感じていることとしては、チームとして準備してきた戦術、メンタルというものがあって、それはある程度、徹底できたとは思います。だからこそスコアの差が神戸との差というか。相手は1点を取って、僕らは取れなかったという勝負強さの違いは真摯に受け止めたい。特に相手の得点シーンは、自分たちとしては十分に警戒していた形だったにもかかわらず、してやられてしまった。もちろん、決められた、イコール、みんなのケアとか、いろんなことが足りなかったということになるんですが、集中してプレーしていたのも事実なので…そこは言葉にしづらいところでもあります(鈴木)」

「試合全体の流れを見ても、チームとして準備してきた相手の攻撃のストロングポイントに対するケア、カウンターへのリスク対策も徹底できていたし、熱量というところでも決して相手に負けていたとは思っていません。でも、だからこそ1点の重みを感じたというか。相手は綻びを見せず、自分たちはあの一本でやられてしまったことについて、点差以上にまだまだ突き詰めなくちゃいけないところはあると感じました(黒川)」

 彼らの言葉にある通り、56824人を集めた国立競技場での決勝戦は、序盤、明らかにガンバが攻勢に試合を進めた。特に左サイドでは倉田が数多くボールに触りながらスペースを作り出し、そこに黒川が飛び出してゴールに迫るなど、いいリズムを見出しながら相手陣地でボールを保持する時間が続いたのも印象的だ。10分にはその左サイドで崩した流れから山田康太の浮き球にダワンが頭で合わせ、25分にはダワンが中央を突破して右サイドにパスを送り、カットインをしてきた半田陸が左足を振り抜くなどの見せ場も作った。

 ただし、そのあたりから神戸が前線からの守備の圧力を強め、徐々にペースを握り返しつつあったのも事実だろう。しかも押し込んだ展開で得点を奪えなかったガンバと、押し込まれた展開を0-0で耐えた神戸という図式は、メンタルにのしかかる重さの比重を変えていったようにも映った。

 それでも仕切り直した後半の入りは悪くなかったと言っていい。5分にウェルトンを投入してからしばらくは、彼の突破力を活かして縦への圧力を強めゴールに迫るシーンも作り出し、その流れからコーナーキックのチャンスも掴んでいる。だが、そこで決めきれない流れは、ある意味前半と同じ構図で、しかも64分にはゴールキックからのロングボールを前線で収められ、枚数を掛けられて神戸にゴールを許してしまう。神戸が『最も強みにしている形』で、だ。

 それに対してガンバも人を入れ替えながら、最後までゴールを目指したものの、リードを奪ってより固く築かれた神戸の守備の前では「宇佐美貴史」という大きな武器を欠いて臨んでいる事実を払拭できるほどの攻撃力を示せないまま、試合終了のホイッスルを聞くことになった。

 取るべきチャンスを、取り切れるか。

 守り切るべきシーンを、守り抜けるか。

 試合の流れを振り返っても、選手の言葉を聞いても、サッカーでは当たり前とされる肝の部分が明暗を分けたのは明らかだが、実はそのもっと奥深いところで、チームとしての『強み』の差が明るみに出たのではないか、と感じている。

 『勝つ』ことを前提にした上で、苦しい時間帯に、全員がこれをすれば得点を取れる、守り切れるというよりどころになるようなチームとしての圧倒的な軸と言おうか。思うように試合が運ばなくても、主軸選手を欠いたとしても、決して揺らぐことのないチームの強み――。この試合で、最も記憶に残る感動的なシーンを演出し、観客を熱狂と興奮に導き、輝く表情を生み出した選手に贈られる『SCO GROUP Award』を受賞した神戸・酒井高徳の言葉に、そのヒントが見え隠れする。

「今日のサッカーは全然うまくいっていなかった。ただそれがネガティブな方向に走ることなく、やることはしっかりやる。失点はしない。切り替えを早くする。前にしっかり進む、といったベースを徹底するという姿勢をチームが一瞬たりとも崩さず、貫き通せたことが勝利につながった(酒井)」

 と同時に、一森純が失点について振り返った言葉が、そこにリンクして蘇る。

「あの失点について、僕はシーズンを通して、とか、天皇杯を通して課題にしてきたいろんなことの皺寄せが来たと捉えていて。もちろん、局面、局面を振り返ればこうしておけばよかった、というものもあるとは思うんですけど、もっと大きなところでの物足りなさが、肝心なところで出たし、それがサッカーの厳しさだと感じました。正直、前半の神戸を見ても、相手の方がうまくいっていなかったとは思っていますけど、タイトルの獲り方を知っている分、その事実を前にしても閉塞的なメンタリティにはなっていなかったし、このまま0-0でいけば、というのはヒシヒシと感じていた。そこがうちとの差だったと思っています(一森)」

 もっともこれはチームとしての形がガンバにはなかったと言っているわけでは決してない。ポヤトス監督のもと、2年の歳月をかけて作り上げてきたスタイルは確かにあって、先にも書いた通り、神戸戦もそれを時間帯によっては表現できていた。キャプテン・宇佐美が「今年のチームはそんな柔じゃない」と胸を張ったように、大舞台を前にしても腰が引けることなく熱量を持って立ち向かえる集団になったとも言えるだろう。もちろん、チームとしてシーズンを通して積み上げてきた力があればこそ、決勝という舞台を手繰り寄せたのも紛れもない事実だ。

 だが、チームを『木』に例えるならば、その幹はまだまだ細く、どんな雨風をも耐え抜けるほど、どっしりと地面に根を張ってはいない。豊かに実をつけているわけでも、花を咲かせているわけでもない。つまりは、大一番でも揺らがないほどの確固たる『強み』を備えるチームになったわけでは決してない。

「タイトルを獲るということから逆算して考えた時に、このくらいでいいや、ではないですけど、悪くはないけど、めちゃくちゃいいわけでもない、という感じでシーズンが進んできて、でもそれじゃあダメだということが今日の試合で明らかになったのかなと。そういう意味では、ある意味、この試合は僕らが変わるチャンスだと思っているし、ここで変われなければ一生、変われないと思うので。それを一人ひとりがどれだけ真剣に考えられるか。厳しい言い方ですけど、ピッチで甘さが出てしまう選手はこのピッチには立てない、というくらいのチーム内での競争力がまだまだ必要だと感じました(一森)」

 でも、それはすなわち、細いながらもグングンと空に向かって伸びている幹を、まだまだ太く、強くしていけるということでもある。タイトルを争った、痺れる大舞台での経験を、成長や変化を促す力に変えて。

「今の自分たちならタイトルを獲れると大きな自信を持って迎えた試合だったし、何がなんでも最後の1つを掴むことしかイメージしていませんでした。だからこそ、この結果を受け入れるのは簡単じゃないですが、この舞台を戦ってタイトルを獲りたいという気持ちは、間違いなく今日の日を迎えるまでの自分よりも何倍も強くなったし、この気持ちを忘れずにチャレンジし続けたいと思っています(黒川)」

「まずはしっかりこの試合を振り返ることが大事だと思っていますし、自分たちが準備してきた戦い方、メンタルはもちろん、試合を迎えるまでの流れだったり、も含めてこの結果になったことを、まずは受け止めることも必要だと思います。そこからどこを改善して、どの部分で成長しなきゃいけないのか。そこはチームで話し合って、揃えいけばいいのかな、と。負けました、悔しいです、で終わらせるのではなく、これをいかに残りのリーグ戦や来年に繋げていくのかが大事だし、僕個人も、この結果を必ず成長の肥やしにしたいと思っています(鈴木)

 さらに言えば『宇佐美貴史とタイトルを獲りにいく』という約束を果たせなかった悔しさも、すでに選手たちの新たな決意に変わっている。

「勝って貴史くん(宇佐美)にカップを掲げてもらいたかったというのは僕だけじゃなくて、ガンバの思いでもあったと思います。貴史くんがキャプテンになってからのこの2年、特に、去年は苦しいシーズンで貴史くんがサポーターの皆さんの前で涙している姿も見てきただけに、どうしても貴史くんにメダルをかけてあげたかったし、カップを掲げて欲しかった。でもそのためには僕を含めてもっともっと全員が違いを出せる選手にならなくちゃいけないということもわかったので。そこをこの先、自分自身もまだまだ求めていかなくちゃいけないと思っています(福岡将太)」

「2日前に貴史くんが出られないという状況になって、そうなるとチームを引っ張るのは僕の役目だと思っていたし、貴史くんだけじゃなくて試合に出られない選手のために、ってことを、僕も、みんなも心に据えて臨んだ試合でした。でも、それが結果として表れなかったということは足りなかったということなので。そこにはいろんな理由があると思いますけど、それをこの先、しっかり突き詰めてやっていくしかないと思っています(中谷)」

 一人一人が、熱量を激らせ、宇佐美の言葉を借りれば「心で戦った」天皇杯は、準優勝で幕を閉じた。

 悔しくて、悔しくて、悔しい。

 それ以上でも以下でもない感情を胸に刻みつけて、チームとしての幹をより太く、逞しく育てるための未来はもう、始まっている。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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