<ガンバ大阪・定期便113>キャプテンとして、エースとして。宇佐美貴史が、歴代トップスコアラーに。

■アディショナルタイムにエースが奪った2得点。熱狂の逆転劇。

 90+8分。決勝ゴールがゴールネットに突き刺さった瞬間、パナソニックスタジアム吹田のボルテージは沸点に達した。

 「めちゃめちゃ緊張した」というPKを宇佐美貴史がゴールに沈めたのが、90+4分。その後すぐにレフェリーに残り時間を確認していたという。

「あと何分ある?」

同点ゴールを決めた時点で、当初予定されていた5分のアディショナルタイムは終わりに近づいていたが、VARチェック等で試合が止まっていた時間がどのくらいあるのか気になったのだろう。

「あと2分って返ってきたので、2分あれば絶対にワンチャンスあると信じて絶対にもう一発、決めてやる、と。本当に強い思いを持てたことで、ああいうチャンスを手繰り寄せられたのかなと思います」

 ドラマは途中出場でピッチに立ち、いつもとは逆の左サイドバックを預かった半田陸がダワンとのワンツーで中に仕掛けたところから始まった。ダワンからのリターンパスは、やや右にずれたものの半田が懸命に伸ばした右足は、相手選手よりほんの少し早くボールを触り、前線の山田康太へと渡る。思いはつながった。

「前に3人くらい味方がいるのが見えたので、とにかくその辺にボールが届けばいいな、誰か触ってと、必死に伸ばしました。届いてよかった(半田)」

 それを山田がワンタッチで落とし、宇佐美へ。「頭はめちゃくちゃ落ち着いている、けど、心はすっごい慌てているような状態」だったものの、最後は豪快に右足を振り抜いた。

「股を抜くところまではよかったんですけど、自分の中で股を抜いてから打つか切り返すかのせめぎ合いがあったというか。おそらくあの瞬間、打つか、切り返すか、切り返すか打つか、5〜6回は繰り返したんじゃないかってくらい悩んでいました。ただ最後の最後まで見極めた結果、(相手のDFが)スライディングしてくるのがわかったので、絶対に切り返すしかないって思ったし、切り返した後に後ろから人がきているのも感じていたので、相手にひっかからないところにタッチを戻してって…ところまで、すごく冷静にやれたと思います。昔、ガンバが少し勝ちあぐねていた時にヤットさん(遠藤保仁コーチ)がジュビロ磐田戦で決めたゴール(16年J1リーグ1stステージ第12節)と、秋くん(倉田)が大阪ダービーで決めた決勝ゴール(19年J1リーグ第12節)と今日、自分が決めたゴールが重なって、スタジアムの重い空気が弾ける瞬間っていうのを本当にリアルに感じて、今までで一番感極まった瞬間でした」

 簡単に補足すると、16年はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を含めた公式戦は3戦勝ちなし、しかもそれまでの8つのホームゲームでの白星はわずかに1つという状況下で迎えた磐田戦で、先行された試合を遠藤のシーズン初ゴールで逆転勝利に持ち込んだ試合。そうしたチーム状況もあって、ゴールを決めた瞬間、遠藤が珍しくスタンドを煽るようなパフォーマンスで盛り上げたのが印象に残っている。

 また19年は、J1リーグで7戦勝ちなしという状況下、しかも直近のサガン鳥栖戦で大敗を喫した直後の大阪ダービーで、システムを変え、メンバーを大幅に入れ替えたことで若い選手が数多くJ1リーグのピッチに立った一戦。チームの主軸だった遠藤と今野泰幸(南葛SC)が控えスタートになる中、スコアレスで迎えた55分。倉田が抜群のトラップからニア上を射抜く。いずれも今回、宇佐美が決めたのと同じ側、ホームサポーターの目の前のゴールに突き刺し、パナスタは大きな興奮と歓喜で溢れた。

■キャプテンであり、エースだからこそ、チームを勝たせられていない自分に募らせた葛藤。

 J1リーグ第33節・北海道コンサドーレ札幌戦。大阪ダービーから中2日での連戦ということもあって、宇佐美はこの日、第13節・アビスパ戦以来のベンチスタートになった。

「今年は中2日の試合はセーブするというか、回避させられていることが多かったので、途中からって展開になるだろうなと思っていました」

 自身が置かれた状況を冷静に受け止めてはいたものの、チームがJ1リーグで9戦勝ちなしと苦しんでいる状況を思えば、また、2日に戦った大阪ダービーで味わった屈辱を想像しても、ベンチに座る自分に思うところはあったはずだ。それは、先発を外れた悔しさや不満では決してなく、キャプテンとして、エースとして、ピッチでチームの力になれない自分へのもどかしさのようなものーー。昨年からキャプテン、エースに加え『7』を背負う中で、常々「チームを勝たせる」ことを自身のタスクに課してきたからこそ、だ。

 そして、それを払拭するチャンスは65分に巡ってくる。スコアは0-1。あとは感情を爆発させるだけだった。

「先制点を取られてしまった中で、1-1くらいの状況で出られればな、ってなんとなくのイメージはあったんですけど、僕は攻撃の選手なので。クローザーとして、とかゼロで締めくくるために、という役割でピッチに立つよりは、点を取るために、という状況で送り込まれる方が一番燃える。もちろん、チームが勝っていれば一番いいですけど」

 もっとも「入ってすぐはタッチが足についていなかった」と振り返ったように、すぐにギアが上がったわけではない。チームとしても、ほぼ全員が自陣に戻って守備陣形を作った札幌の壁を破るのは簡単ではなく、ましてや、相手の執着を感じるマンツーマンでの対応に、先発メンバーの足は重くなり、疲労の色も濃くなっていた。終盤は特に相手の陣地でボールを支配し続ける展開にはなったとはいえ、個々が描くアイデアとプレーがイコールにならないシーンも多く、もどかしい時間が続いた。

 その流れを一気に引き寄せたのが、後半アディショナルタイムに差し掛かろうとしていた時間帯に得たPKのチャンスだ。VARとオンフィールドレビューによって相手選手のハンドが確認され、宇佐美がキッカーに立ったのは90+4分。この時、どれほどプレッシャーがのしかかっていたのかは彼の「めちゃめちゃ緊張した」という言葉からも明らかだろう。

 だが、あらかじめ決めていた通りに、ゴール左下に強く、速いシュートをぶち込んで同点に追いつくと、あとは冒頭に書いた『宇佐美劇場』だ。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間はピッチに崩れ落ち、両手で顔を覆った。

「はい、泣いていました。僕だけじゃなく、全員が本当に苦しかったと思いますけど、その度に逃げずに立ち向かい続けようという話をして、何度負けても、どんな罵詈雑言を浴びせられても、心苦しいことを言われたとしても、やり続けようと言い続けていました。でも、そうやって言いながら正直、自分も苦しかったというか。結果で示さないとな、という思いと、チームに今、言葉をかけるとしたら何がいいだろうとか、色々と考えながら過ごしてきた中で、今日は一番はっきりした姿をチームに示すことができたと思います」

 その言葉に、キャプテンとしてだけではなく、エースとして背負ってきた重責を見る。ゴールを取れずに終わった試合はもちろんのこと、アディショナルタイムに追いつかれ引き分けに終わった東京ヴェルディ戦直後も、悔しさにまみれた大阪ダービー後も、決まって仲間に向けて「俺が決めていたら勝てた!」と、責任を一手に引き受ける言葉を繰り返したのも、紛れもなくエースとして「チームを勝たせる」責任を感じていたからだ。

「チームを勝たせるという仕事は、自分のタスクとして一番真ん中にある、一番高いハードル。そこにトライし続けるからこその苦しさは、おそらくチームで一番自分が抱えていると自負していますが、その苦しさを自分が払拭する姿を今日見せられて、チームにいい刺激を入れられたのかなと思っています」

■ガンバでの総得点は99。遠藤保仁が持っていた記録を上回り、トップスコアラーに。

 そうした全ての葛藤を吹き飛ばして掴み取った2ゴール。遡ること約3年前の7月、今回と同じように白星が遠い状況下、大分トリニータ戦のアディショナルタイムに決勝ゴールを決めた時は、試合終了のホイッスルが鳴った瞬間に涙しながらも「ロート製薬さんの目薬」だと独特の言い回しで強がった宇佐美。それ対し今回、いともあっさり涙を認めたのは、ともに苦しみを共有してくれる仲間に心強さを感じていたからかもしれない。フィールド最年長選手の倉田が明かす。

「去年もこういう経験をしましたが、この状況にハマり出したら、そんな一気にチームが良くなるとか、勝ちにつながるとは思っていなかったので。ただ、ロッカールームなら雰囲気とかならすぐに変えられると思っていたし、とにかく今日も試合に入る前の声掛けは意識してやっていました。勝てない時間が続くと、若い選手はどうしても言葉数が減っていくものですが、だからこそ貴史(宇佐美)やシン(中谷進之介)、純(一森)や僕といった上の選手がしっかり発言していくのは大事だと思っていたし、それはみんなで続けてきた。若い選手がそこに乗っかってくれたらいいなっていう思いだった(倉田)」

 実際、この日も途中出場でチームのギアを上げた倉田に限らず、90分を通して、繰り返し前線にも顔を出し、終盤は足を攣りながらも、際どいシーンで足を伸ばしてマイボールにし続けた中谷や、練習はもちろん試合でも絶えず声を張り上げ続けてきた一森の姿は、間違いなく宇佐美の勇気に変わっていたはずだ。

 宇佐美自身も、今年は直面する息苦しさと共存できていると振り返った。

「去年を踏まえて、今年はずっと苦しむことは当たり前という感覚があるので。上に行こうと思ったり、成長しようと思ったり、ピッチ内外で僕が背負うタスクを全てこなそうと思ったら苦しさが出てきて当然だし、チーム、個人として結果を出せない時に一番矢面に立つべきなのも自分。そういった多くのものを背負っているからこその苦しさがあるのは覚悟していたし、その苦しさと共存するというか、苦しい時にどれだけ頑張れるかでこういった今日みたいな日が、くるってことを自分に言い聞かせ続けてやってきました。と言っても次からまた苦しむことになるかもしれないし、ヒーローになれるかもしれないですけど、どうなろうがやり続けるってことだけはやめないようにしようと思っています」

 このゴールで宇佐美は15年以来となる、J1リーグでの『二桁』を実現。今シーズンのゴール数を11に。これにより、ガンバでの総得点数を99とし、遠藤保仁が持っていたクラブ最多得点数98を1上回る、トップスコアラーに名乗り出た。キャプテンであり、エースでもある宇佐美にふさわしい称号だ。

「ここ数ヶ月本当に苦しい思いをしてきたし、それは応援してくれている皆さんも同じだったと思います。今日の勝ちで全てがチャラになるわけじゃないし、大阪ダービーの悔しさもまだ残っていますが、今日勝てたことは流れを引き戻すきっかけにはなるはず。僕たちにはまだ天皇杯というタイトルも残っていますし、これで日程も少し落ち着くので、もう一度リラックスして、でも気は抜かず、タイトルを目指したい。リーグ戦は少し1、2位との差が開いていますが、ACL出場も描きながらしっかり食らいついていきたいし、1つでも上の順位を目指したい。また個人的には、二桁には乗せたとはいえ、強いチームのFWはもっと獲っているので。そういう数字からも逃げずにやっていきたいです」

 ミックスゾーンで話し終えた後は、宇佐美が可愛がっている後輩の一人、先制点を決められた札幌の白井陽斗の元へ。J1リーグ初ゴールの際に贈られる記念ボールを抱えた白井にせがまれてサインをしたため、揃って写真に収まった。せっかくなので互いについて話した言葉も残しておく。

「ゴールを決めた直後のことはあまり覚えていないんですけど、(直近の)大阪ダービーを映像で観て、前からプレッシャーにいけばチャンスを見出せるかも、ということは想像していました。ただ正直、シュートコースは全く見えていなかったです。ただただ、シュートを打たなアカンってだけでした。決まった瞬間は、ガンバサポーターの目の前で決めたゴールだったので喜ばないように抑えたというか…抑えたつもりでしたが、後で映像を見返してもし喜んでいたら反省しておきます(笑)(白井)」

「前半、陽斗が先制した姿をベンチから見ていて、本物を見せてやろうと思っていました(宇佐美)」

「ガンバは僕にとって今も大事なクラブ。ここがあって、今の自分がいる。だからこそ、パナスタでJ1初ゴールを決められたのも嬉しかったです。勝てなかったことと、ずっと対戦したいと思っていた宇佐美くんと同じピッチで戦えなかったのが残念。にしても、さすが、宇佐美くん。せっかく1つ決めたのに、2つ決められて…優しくない。うん、優しくないなー!(白井)」

「まだまだ、陽斗をヒーローにはさせません。でも陽斗もFC琉球でのガンバ戦で1点、札幌で1点、しかも今日は初スタメンで初ゴールなので。彼も持っているんじゃないかと。ただ、それ以上に僕が持ちすぎていました(宇佐美)

 最後は笑いに変えたが単に「持っていた」わけでは決してない。仲間と共に乗り越え、キャプテンとして、エースとしてのプライドをたぎらせて奪い取った2ゴールだった。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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