Jリーグ優勝争いは混沌として後半戦へ 町田、鹿島、G大阪、神戸、広島……いずれも不安要素あり
J1は後半戦がスタート。J2からの昇格組のFC町田ゼルビアが首位ターンを決め、鹿島アントラーズが追う展開だが、優勝争いは混沌とした様子だ。熾烈な残留争いも含め、各クラブの状況を追った。
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【首位ターンの町田は主力離脱を乗りきれるか】
J1リーグも前半戦を折り返し、後半戦がスタートした。昇格組でJ1初挑戦のFC町田ゼルビアが首位ターンをしたことはサプライズであり、快挙だ。それに続いて2位に鹿島アントラーズ、3位にガンバ大阪、4位にヴィッセル神戸、5位にサンフレッチェ広島と、守備に安定感のあるこの5クラブが優勝争いをリードしている。
首位の町田は、よく統制されたタイトな守備から前線の高さ、スピードを生かしたショートカウンターを武器に12勝4分4敗で勝ち点40。昨季の神戸が同じ試合数を消化した時の勝ち点が43だったことを考えると、十分に優勝ラインだ。
ただ、順調に勝ち点を積み上げてきた町田だが、夏場を迎えるにあたって厳しい台所事情に直面している。天皇杯の筑波大戦で、DFチャン・ミンギュ、MF安井拓也、FWナ・サンホ、FWミッチェル・デュークと4人が負傷離脱。さらに同時期に行なわれた韓国代表戦でFWオ・セフンが負傷して帰ってきた。
とくにオ・セフン、デュークの高さは町田にとって重要な戦術の柱で、ナ・サンホの突破力、積極性は大事な攻撃カードだ。直後の横浜F・マリノス戦は3-1と勝利したものの、その後のアビスパ福岡戦、ヴィッセル神戸戦で0-0のスコアレスが続いた。彼らを欠いて攻撃で迫力を失ったことは否めない。
また、パリ五輪代表候補で攻撃の要であるFW藤尾翔太、FW平河悠を7月中旬から長ければ8月上旬まで失う可能性もある。後半戦では相手からの対策云々の前に、主力が戻るまでの7月から8月にかけて、移籍期間の補強も含めてどのように乗りきるかが、町田が優勝争いに踏みとどまるための正念場だろう。
【鹿島は”らしさ”が戻った戦い方】
2位の鹿島は今季からランコ・ポポヴィッチ新監督を招聘して戦い方が定まり、ようやく鹿島らしいチームが戻ってきたと言える。守備ではDF植田直通、DF関川郁万、MF知念慶、MF佐野海舟の中央は強固で、とくに知念、佐野のカバー範囲は凄まじいものがある。
攻撃ではFW鈴木優磨のキープ力を起点に、MF名古新太郎、MF仲間隼斗、FW 師岡柊生らの流動的でダイナミックなカウンターは大きな脅威。さらに相手を押し込んだところへ、DF濃野公人、DF安西幸輝の両サイドバックが攻撃に厚みを加えるのは、実に鹿島らしい。
懸念があるとすれば選手層の薄さだ。とくにセンターバック(CB)は植田、関川のどちらかが欠けると、その穴を埋めるのは簡単ではない。また、鈴木の決定力やキープ力、ポジショニングセンス、チームに与える影響力などは、唯一無二の存在感で代わりはいない。この3人はここまでほぼ出ずっぱりだが、夏場もこのペースでコンディションをキープできるか。
さらに佐野の海外移籍の話もある。正直、近年はあまり補強がうまいとは言えない鹿島だが、夏の移籍期間で的確な補強ができるかは、8年ぶりのリーグ優勝には必須だろう。
【堅い守備を誇るG大阪】
3位のG大阪も鹿島同様に、チームの戦い方が整理されたことで調子を取り戻してきた。とくに、昨季は壊滅的だった守備の改善は目覚ましい。なによりも大きかったのは、DF中谷進之介というDFリーダーの加入だ。
高い守備能力と統率力で守備ラインをまとめあげ、リーグ最少の14失点という強固な守備を形成。DF三浦弦太を長期離脱で失ってもDF福岡将太が穴を埋め、その強度は保たれている。
チーム全体での堅実な守備からFWウェルトン、FW山下諒也のスピードと突破力を生かした鋭いカウンターというのが、今のG大阪の大きな強みだ。ただ、やはり最大の武器は、キャプテンFW宇佐美貴史の突破力と決定力だろう。
ここまで7得点はチーム内最多。それはもちろん、シュート数51、ゴール期待値4.7、チャンスクリエイト数42と攻撃のスタッツで軒並みチームトップだ。宇佐美の高いクオリティによって勝ち点をもたらした試合も多く、鹿島の鈴木同様に代えの利かない存在だ。
その宇佐美の得点数がチーム総得点の1/3を占める。多くの試合で1点差ゲームを勝ちきっている事実はすばらしい反面、チームで21得点というのは、この順位のチームとしてはやはり少ない。宇佐美の7得点も得点ランキングでは8位タイと特筆して多いわけではない。失点はしなくとも得点が取れずに引き分ける危うさは常に孕んでいる。
優勝争いをする上で引き分けは勝ち点2の取りこぼしである。相手の対策が進む後半戦は、宇佐美以外の得点源や得点パターンをチームとして増やしていきたいところだ。
【神戸、広島は取りこぼす試合が目立つ】
現在4位の昨年王者・神戸は、ここに来て取りこぼすことが増えてきた。その大きな原因は得点力の低下。第14節から複数得点が取れた試合が一つもなく、3試合で無得点。エースのFW大迫勇也がここまで4得点と、昨季までの活躍にやや陰りが見え始めていることは大きい。
神戸は前線の大迫、武藤嘉紀をはじめ、タレントの能力を生かして攻め込む、あるいは両サイドバックからのクロス、CKなどのセットプレーなど、とにかくシュートチャンスを数多く作り出し、前のクオリティによって決めきるチームだ。
ただ、形というよりクオリティに頼る場面が多いだけに下振れることもあり、それによって勝ちきれない、つば迫り合いで負ける試合が続いている。先述したように大迫が直近7試合で無得点なのは、その要因の最たる例だろう。
とはいえ、堅守は相変わらずで、DFマテウス・トゥーレル、DF山川哲史のCBコンビはとにかく堅い。得点力を取り戻せば、優勝争いに踏みとどまれるはずだ。
神戸以上にシュートチャンスの数に対して、得点数が割に合っていないのが5位の広島だ。堅守によって3敗と負けの少なさはリーグトップだが、引き分けの数も9つでトップというのは、今の広島をよく表している。
負傷からFWピエロス・ソティリウが復帰し、ジュビロ磐田戦、東京ヴェルディ戦と2試合連続の2ゴールは見事だったが、その後の3試合で1勝1分1敗と乗りきれない。DF荒木隼人がケガで長期離脱の可能性があり、MF川村拓夢も移籍と明確な補強ポイントがある。これに加え大事なところでの得点部分をなんとかしなければ、トップ3との勝ち点差を埋めるのは難しいだろう。
【降格圏クラブの共通点は守備の脆さ】
一方、残留争いでは降格圏に20位北海道コンサドーレ札幌、19位京都サンガF.C.、18位湘南ベルマーレの3クラブ。共通するのは守備の脆さである。
とくに札幌は20試合で40失点。昨季もリーグ最多失点だったが、それとほぼ同ペースだ。昨季はそれと同等の得点数が取れていただけによかったが、今季は16得点で得点力が激減している。
ただ、それは単に攻撃力の低下というよりも、戦術の肝であるマンツーマンが全く機能していないことが原因だろう。昨季は前から激しいマンツーマンの守備によって、いい形でボールを奪って攻撃に繋げるのが札幌のストロングポイントだった。
しかし、そのマンツーマンが曖昧で機能せず、相手に大きなスペースを与えて押し込まれる、あるいは裏を簡単に取られることで、いい攻撃に繋げることが難しくなっている。夏の補強が重要であるのは間違いないが、守備の強度が上がらない限り、この状況は続きそうだ。
京都も札幌と同じく、得点力の低さが致命的だが、湘南に関しては得点が奪えていて、戦い方も整理されている。それだけに町田戦以外すべての試合で失点している守備の不安定さを解決できれば、降格圏脱出は見えてくるはずだ。
優勝争いにしても残留争いにしても、これから迎えるハードな夏場をどう乗りきるか。毎年、この時期の補強によって大きくチーム状況が変わることは珍しくなく、各クラブが移籍期間にどう動くのか、目が離せない。