町田、名古屋が敗れる波乱も「ジャイキリ」激減 川崎&横浜FM「消えた」サプライズと下部リーグとの差【天皇杯2回戦で分かった日本サッカーの現在地と問題点】(3)
6月12日、各地で天皇杯2回戦が行われた。プロもアマも混在しての日本一のチームを決める大会だが、このラウンドではさまざまな「事件」が起こった。2回戦を通して見えた日本サッカーの「現在地」と未来への「改善点」を、サッカージャーナリスト後藤健生が考える。
■名古屋が「5部リーグに敗れる」波乱も…
さて、天皇杯のもう一つの(最大の)魅力は下部リーグのチームがJリーグ勢に挑戦し、そして、それを倒す「ジャイアントキリング」にあることは言うまでもない。
そして、今年の大会でもJ1リーグ勢が初めて登場した2回戦で、筑波大学がFC町田ゼルビアを倒したことが大きな注目を浴びた。
また、2回戦では名古屋グランパスも新潟県のJAPANサッカーカレッジに0対1で敗れた。所属リーグはJFLより1つ下の地域リーグ、北信越リーグ。5部相当のリーグということになる。
しかし、今シーズンの天皇杯のジャイアントキリングはこの2試合のみ。JFLの強豪であり、「アマチュアシード」枠のHonda FCはJ2リーグのヴァンフォーレ甲府に0対2で敗れたし、J1リーグで最下位に低迷する北海道コンサドーレ札幌も、今シーズンJFLに昇格して、将来のJリーグ入りを狙っている栃木シティ相手に3対1でしっかりと勝利した。
例年に比べて、番狂わせは少なかったが、とくにJFL勢が1クラブも3回戦に進むことができなかったのはちょっと意外だった。
というのは、昨シーズン頃からJFLの競技力がかなり上がっているように感じていたからだ。
■川崎Fと横浜FMの「革新的サッカー」が波及
2017年に川崎フロンターレがJ1リーグで初優勝。以降、2022年までの間は川崎と横浜F・マリノスの2チームがJ1リーグのタイトルを独占していた。徹底してパスをつないで相手を崩す川崎と、サイドバックも攻撃に参加してアップテンポなサッカーを展開するする横浜FM。どちらも、ポゼッションを重視した、非常にアグレッシブで革新的なサッカーだった。
この2つのチームの躍進で、J1リーグのレベルは大きく上がった。そして、ここ2年ほどは、川崎、横浜FMに対抗するようにカウンタープレス型のチームが台頭してきた。
J1のレベルアップを追うように、J2リーグのレベルも上がり、2022年にはパスをつなぐサッカーでアルビレックス新潟が優勝。昨シーズンは、守備強度が高いFC町田ゼルビアが圧倒的な強さを見せた。さまざまなスタイルが混在するJ2の上位同士の戦いは、J1にも劣らない迫力と魅力がある。
そして、競技力向上の波はさらにJ3リーグにも波及していく。
Jリーグのクラブ数が60に達し、J3リーグにも降格(JFLとの入れ替え)制度が導入され、勝負の厳しさも加わってきた。そして、昨シーズンにはさらに下のカテゴリーであるJFLのレベルも上がって、激しい星のつぶし合いが展開された。
下部リーグの選手たちの個人能力も上がったし、また、どのチームも高度な戦術を取り入れている。今では、どのカテゴリーのリーグでもGKがパス回しに参加したり、サイドバックが攻撃的MFの役割を果たしたりすることは、当たり前のようになっている。
もちろん、ゴール前での決定力や運動量ではJ1リーグに及ばないにしても、同一カテゴリー同士の試合では、かなりハイレベルな攻防を見ることができる。
■天皇杯2回戦の結果「差は縮まっていない」
一方、J1リーグでは川崎と横浜FMの独占状態に終止符が打たれ、現在は相手のパス回しに対してハイプレスをかけて、ボールを奪ってショートカウンターを狙うカウンタープレス型のチームが上位に名を連ねている。今シーズン、旋風を巻き起こしている町田などはその最たるものだし、町田を追う鹿島アントラーズやガンバ大阪もきわめてオーソドックスなサッカーで勝負している。
そうしたスタイルのサッカーは世界の潮流にも合致したものだったのかもしれないが、川崎や横浜FMの時代のようなサプライズがなくなってしまったのも事実だ。
従って、J1リーグと下部リーグとの差が縮まったのかと思っていたが、今回の天皇杯2回戦の結果を見ると、どうやらそれは錯覚だったようだ。
J1リーグでは組織的にプレスをかけるスタイルのチームがプレー強度を上げてきたが、そういうスタイルのほうがパフォーマンスにムラがなく、勝負強いのだろうか。そうだとすれば、むしろ、ジャイアントキリングは起こりにくくなっているのかもしれない……。
天皇杯2回戦の結果を見ながら、そんなことを感じたのである。