堂安がシリア戦で体現した「モダンなスタイル」とは何だ?
2026年のW杯北中米大会出場をかけたアジア2次予選の最終節が11日に一斉に行われ、すでに最終予選進出を決めているグループBの日本代表は、エディオンピースウイング広島でシリア代表に5-0で圧勝。無傷の6連勝に史上初の全試合無失点を添えて首位通過した。6日のミャンマー代表戦に続いて3バックをテストした日本は1-0で迎えた前半19分に、右ウイングバックで初めて起用された堂安律(25、フライブルク)が代表通算10ゴール目をマーク。今後も3バックで臨む場合の先発へ名乗りをあげた。
シナリオ通りのゴールだった。
日本が1点をリードして迎えた前半18分。ゴールキックから自陣の左サイドで日本が短いパスを6本つなぎ、シリアの選手たちをおびき寄せた直後だった。
左タッチライン際でボールを受けた左ウイングバックの中村敬斗(23、スタッド・ランス)が、満を持して相手が手薄になった自陣の中央へパスを通す。ボールを要求していたMF久保建英(23、レアル・ソシエダ)がすかさずカウンターを発動させた。
右ウイングバックで先発していた堂安も、久保に合わせて前へ攻め上がっていく。相手ゴールに迫る背番号10の脳裏には、練習で繰り返した形が浮かびあがっていた。
「ビルドアップのところで敬斗にいいボールが入れば、確実に建英のところが空く、という形は練習からやっていた。左右のウイングバックに逆足の選手がいるのはああいう場面でメリットがあるし、ハマったときには逆サイドの選手を引き出せるので」
中村は自軍のゴールを向いた体勢だったが、右利きゆえに久保へスムーズにパスを出せた。そして久保はドリブルで駆けあがり、首を左右に振りながら、右サイドでフリーになっていた堂安へパス。この瞬間から左利きの堂安はシューターに変わった。
ペナルティーエリアの外でボールをもち、右側から中央へ、細かいステップを踏みながらシフトしていく。シリアの選手2人に前方をふさがれた状況から、さらに左へボールを持ちだした直後に堂安は左足を鋭く振り抜いた。 「シュートシーンに関しては自分が外(左)に開くと、キーパーは確実にファーにくると警戒する。そこでニアに速いシュートを打てば入る、という感覚があったので」
体を強く捻った一撃が相手キーパーの逆をつき、ゴール右隅へ鮮やかに突き刺さった。このとき、堂安は目の前の選手2人も手玉に取ろうとしていた。
「まあ股じゃなかったですけど、入ってよかったです」
マークにきた選手たちを意図的に左側へ動かし、その際に開く股間を実は狙っていた。日本が自陣のゴール前でプレーを再開させてわずか23秒後。時計の針は前半19分をさしていたなかで、堂安は両拳を小さく握りしめて喜びを表現した。
節目の国際Aマッチ出場50試合目で、初めて体験する2試合連続ゴール。通算得点を2桁の「10」に到達させた堂安は、6日のミャンマー戦でプレーしたシャドーではなく、森保ジャパンでは初めてとなる右ウイングバックで先発していた。
アジアカップで離脱した4試合を除いた30試合すべてで出場し、7ゴールをマークした2023-24シーズンのフライブルクでも、シャドーだけでなく右ウイングバックでもプレーした。未知だったポジションでつかんだ手応えは、もちろん森保ジャパンにも向けられる。3バックで臨むときには、新境地にトライしたいと堂安は公言していた。
「フライブルクではウイングバックが点を取る役割を託されていた。もしこのチームでも同じポジションを託されるのならば、守備的な要員ではないと思っている」
シリア戦の前半は板倉滉(27、ボルシアMG)を中央に、左に町田浩樹(26、ユニオン・サンジロワーズ)、右に冨安健洋(25、アーセナル)が3バックを組んだ。それぞれの守備範囲が広く、しかも個の力で相手の攻撃に対応できる。だからこそ、左右に攻撃的なウイングバックを配置する上でのまたとない機会にもなった。
攻撃的なウイングバックを通して思い描くのは、堂安をして「モダンなスタイル」と言わしめるサッカーだ。アタッカーを本職とするウイングバックが、縦へのスピードやタッチライン際を上下する動き以外で相手を押し込む。堂安が声を弾ませる。
「それほどスピードがなく、サイドバックでもない選手がウイングバックでプレーして、ポジショニングやコンビネーションなどでサイドを制圧する。間違いなく現代サッカーを象徴するような形ですし、実際にやっていてすごく楽しかった。フライブルクで培ったものを、日本代表にも少なからず落とし込めたかな、という手応えはあります」
森保一監督(55)も、ドイツの地で進化を遂げる堂安に注目していた。シリア戦を翌日にひかえた10日の公式会見。指揮官は「チームとして戦術の幅を広げられるように試したい」と、堂安の右ウイングバック起用に言及しながらこう語っていた。
「彼がフライブルクのウイングバックとして攻守両面で献身的に走り、相手ゴール前で得点に絡むだけでなく、守備でも自軍のゴール前に戻って相手の攻撃を防いでいる。彼のように攻撃に特長があり、得点に絡めるうまい選手がハードワークして、攻守でチームに貢献する姿を期待したいし、将来プロや日本代表を目指す少年少女に見てほしい」
ガンバ大阪からヨーロッパへ挑戦の場を求めて7年もの月日がたつ。カタールW杯ではドイツ、スペイン両代表戦で同点ゴールを叩き込み、世界を驚かせる逆転勝利への狼煙をあげた男は、ハードワークするのは当たり前と言い切る。
「それ(ハードワーク)は最低限というか、自分的には現代サッカーのベースだと思っているので。監督がそのように評価してくれるのはもちろんうれしいですけど、オレからするとハードワークしないやつがダメと思うし、それをやらなければ試合には出られない。なので、プラスアルファでスペシャルなものを出す、と自分に言い聞かせています」
相手との実力差がある6月シリーズでも、ミャンマー戦でシャドーとして、シリア戦では右ウイングバックで連続ゴールを決めた。シリア戦の後半からは[4-2-3-1]にスイッチしたなかで、代表で主戦場としてきた右サイドハーフに移ってフル出場した。
ミャンマー戦ではサイドバックの菅原由勢(23、AZ)が右ウイングバックとして先発したが、2ゴールをあげた中村がいる左と比べてどうしても左右非対称となった。その意味でも前半の堂安は、森保監督に特別なインパクトを与えたはずだ。
2シーズン目を終えたフライブルクで、堂安は「守備の選手よりも守備がうまい、と言われます」と屈託なく笑う。新境地への挑戦が自信を膨らませている証だ。
「攻撃の選手なので、ボール保持者が何をされたら嫌がるのかがだいたいわかるし、そこから逆算してディフェンスをしている。ロングボールとかになると自分の弱さが出ちゃうところがあるけど、それでも臨機応変にプレーできればこれから生きていく上で、キャリアを積み重ねていく上で、ここがベストポジションになるかもしれない」
6月シリーズが消化試合となったなかで、日本は今後に待つ強敵との対戦を想定した、攻撃的な3バックをテストする絶好のチャンスを得た。本来ならば伊東純也(31、スタッド・ランス)が適任となる右ウイングバック探しで、攻守両面で一発回答を弾き出した堂安はオプションではなく、主軸の本命に躍り出る可能性を示した。
ちょうど2年後の2026年6月11日に開幕する、北中米W杯への第一歩となるアジア2次予選を6戦全勝、総得点24に対して日本代表史上で初めてとなる無失点で終えた。グループBを首位で通過した日本の視線は、すでに9月に開幕するアジア最終予選へ向けられている。18チームを3グループに分ける組み合わせ抽選会は27日に行われる。
(文責・藤江直人/スポーツライター)