【元番記者の視点】なぜG大阪・山下諒也のプレーは見ていて楽しいのか?…身長164センチで生き残る術
◆明治安田J1リーグ第16節 FC東京0―1G大阪(26日・味の素スタジアム)
【昨季横浜FC担当・田中孝憲】G大阪の右サイドで「よーい、どん!」をしたら負けだ。そこにはMF山下諒也がいる。身長164センチと小さいが侮るなかれ。「50メートル5秒8」(本人推測)の俊足が武器だが、自慢はトップスピードに入るまでの早さ。昨季1年間、横浜FCでのプレーを見てきた記者が、FC東京戦でのプレーを見て、書いてみたら長文になってしまった、山下の魅力とは…。
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とにかく「応援したくなる」選手である。情熱にあふれ、常に全力でプレーし、感情を体全体で表現する。ちょうど1年前に「『また見に来たい』選手の到来」と題した「番記者の視点」を書いたが、今はより攻撃的なプレーが増え、楽しそうにしている印象を受けた。
26日のFC東京戦では、前半42分、相手シュートからの大きな跳ね返りを拾うと一気に加速。相手2選手を置き去りにして、そのままシュートにまで持ち込んだ。GK野沢の左手1本のセーブに防がれ得点はならなかったが、快足を十二分に生かしたシーン。だが決めきれず、その後もしばらく悔しそうな表情のままだった。
「今日出た課題は次の1週間しっかり向き合って修正して、次の試合は絶対に決められるようにしたいと思います。こういう悔しい思いを忘れずに、しっかり練習に取り組みたいです」
トップスピードでボールをコントロールするのはとても難しい。しかも競っている相手は、ボールを持たずに全速力で追いかけてくるから、本来は分が悪い。それを置き去りにしてシュートまで持って行くから、見ている方は痛快である。
「僕、考えてやれるタイプではないので。練習の時は意識してやってる部分があるので、試合は本能でやっているんですけど。練習の中でちゃんと意識してやってることがいいのかなと思うし、ガンバの練習はボールを扱うことが多い。狭い中でやるポゼッションも多いので。そういうのが広いコートでやれているので楽しいですね」
山下のもう一つの特徴が、ボールを取られないこと、そして奪えること。大柄な選手を相手にうまく体を入れて、いなすように自分のボールにする。大相撲で小兵力士が喝采を浴びる、あの感覚だ。「説明しにくいですね」と苦笑いしながら教えてくれるのは、体に染みついた、相手の力を利用した体の動かし方だ。
「当たられてきているなというのは、上手く逃がしていたりしています。バランスとか。思いっきりぶつからずに相手の力を利用しながらとかもあるんですけど。工夫してやっていますよ。もちろん。そうじゃなきゃ僕の身長じゃ絶対無理だと思うし。かといって、自分が思いっきりあえて相手に行かず、自分の力を利用して、相手の力を自分の力に変えさせてもらえればいいかなと思っているので。でかい相手ならやりやすいですよ」
もどかしそうに、短い取材時間で一生懸命に説明してくれるのもまた魅力だ。
昨夏は札幌から獲得オファーが来たが、その時は横浜FC残留を決断した。横浜FCのJ2降格が決まった後は、リーグ王者・神戸からも誘いがあった中でG大阪を選んだ。昨季は横浜FCと残留争いをしていたが、現在4位につけるチームの良さについて語る。
「もちろん守備の部分で失点が少ないというのは、最終ラインだけでなく前線以下の守備である程度、制限できているところもある。シン君(中谷進之介)を中心に練習の中で『こうしよう、ああしよう』と言っている中でできているのが大きいかなと思います。そうやって苦しい中でも点を決められたというのは、自分たちがボールを持っているからだと思うので。チャンスとかスルーパスをする回数をチームとして意識して増やしているので。それが結果につながっているのかなと思います」
仲間思いの男気も見逃せない。思い出すのは昨年7月2日の成田空港だ。海外移籍先のオランダに旅立つ小川航基を見送るため、山下はナイター明けの早朝に、チームメートと一緒に車に乗ってやってきた。それも小川の到着よりもずっと早く空港に着き、待ち構えていた。お互い横浜FCは離れたが「連絡するし、よく来ますよ」という関係は続いている。
「今回、小川航基も代表入ってますけど、逆にいい刺激もらっているので。彼に負けないように、彼に追いついて早く追い越せるように結果を残して頑張りたいと思います」
そう語る姿はうれしそうではあるが、負けたくないという目の力を感じる。
フィジカルが重視される現代サッカーで、小さくても特徴を生かして生き残る術がある。そんなサッカーの楽しさを教えてくれるのが山下だ。
「1本決めれば全然いいと思うし、僕は乗れると思う。この先はまだ長いシーズン続く。その中で回数を増やしていく。まずはチャンスに顔を出せる回数を増やしていきたい」
なお、G大阪サポーターに伝えておきたいことがある。横浜FCでは昨季、クラブとして初開催したファン感謝祭で、リハビリ中だった山下は企画&MCを見事に務めきった。会場の下見までして、どうやれば楽しんでもらえるか頭を絞っていた。オンもオフも常に全力。今後もどうか、注目して見守って欲しい。