JFA審判委がJ1序盤戦の警告&退場データ公開…東京ダービーなどの“カード軽減”事案にフォーカス
日本サッカー協会(JFA)審判委員会は9日、東京都内のJFAハウスでメディア向けのレフェリーブリーフィングを開いた。佐藤隆治JFA審判マネジャーがJ1第10節時点の判定データを紹介。今年の警告・退場に関するデータの特徴として、PKを与える反則でのカード軽減ルールが背景にあると分析し、規定を詳細に説明した。
今季のJ1は昨季から2チーム増えて20チーム制となったため、第10節時点で合計99試合(ACLの関係で横浜FM対柏が未開催)を開催。反則数は2756回で、18チーム制だった昨季の2578回(20チーム制換算で2862回)とほとんど変わらなかった。その一方、警告数は243回(同換算270回)から291回、退場数も14回(同換算16回)から19回とそれぞれやや増加していた。
もっとも扇谷健司審判委員長が「昨年よりもフェアなんじゃないかという印象がある」と述べたように荒れ模様の試合や目立った誤審があったわけではなく、決定的な得点機会の阻止(DOGSO)による退場が昨季の3倍以上にあたる10回起きていることが要因の一つに挙げられる。
DOGSOの判定ではファールの程度は考慮されず、攻撃側の決定的な得点機会を防いだ場合には、軽微なファウルでもレッドーカードが出される規則となっている。佐藤マネジャーはDOGSOの判定基準に変化はないとしながらも、GKが積極的に飛び出すような「攻撃的な守備」を敷くチームが多くなっていることを要因に挙げた。実際、第10節終了時点のDOGSOのうち半数の5回はGKによるものとなっている。
なお、現在の競技規則ではDOGSOの状況でPKを与えた場合、当該競技者が「ボールをプレーしようと試みて、または、ボールに向かうことで(相手競技者に)チャレンジ」したことでの反則ならば、レッドカードの懲戒罰が軽減されて警告(イエローカード)となる。またイエローカードにあたる大きなチャンスを阻止(SPA)し、PKを与えたならば、そこでも懲戒罰が軽減されてノーカードとなる。
このルールに関しては、昨季までは「ボールをプレーしようと試みた」場合にのみ、軽減ルールが設けられていたが、今季からは「ボールに向かうことで(相手競技者に)チャレンジ」した場合にも軽減にあたることが明記され、適用例が一部拡大していた。そのため佐藤マネジャーはこのルールが警告数の増加につながっているという見解を示し、あわせてDOGSOでPKを与えたことによる警告が昨季の1回から5回に増加していることを紹介した。
ただ懲戒罰の軽減ルールはPKかどうかを見極めると同時に、ボールをプレーしようと試みるかを判断する必要があるため、ピッチ上で適切な判定を下すことに難しさがあるとされる。そうした主審の主観的ジャッジの難しさについて、佐藤マネジャーは「映像を見ながら詰めていくしかない作業」と、判定精度の向上を目指していることを明かした。そのなかでルールを説明する事象として、第8節から以下の2シーンを紹介していた。
▽東京ヴェルディvsFC東京
前半26分、東京VのMF見木友哉がペナルティーエリア内に侵入して切り返したところ、前を横切る形になったFW安斎颯馬に足を引っ掛けられ、倒れ込んだ。小屋幸栄主審はPKと判定するとともに安斎を警告。FC東京はこのPKで失点すると、安斎は同43分に2枚目の警告を受け、退場となっていた。
佐藤マネジャーによると、小屋主審はSPAかつボールに向かっていない反則として、安斎にイエローカードを出していたという。
佐藤マネジャーはその上で主審のポジショニングを称えつつ、PKの判定自体は正しいと見解を説明。安斎が見木のボールタッチ方向とは反対に走りつつ、遅れて足を払ったため、主審が「ボールにはプレーしていない」と感じたことには一定の理解を示した。もっとも「映像で見直したときに、ここの部分はボールをプレーしようとした結果」だと審判委員会としての基準と見解を説明。ファールの有無だけでなく、PAの中か外かも同時に判断する場面で「簡単なジャッジではない」としながらも、ノーカードが妥当だったとした。
▽ガンバ大阪vsサガン鳥栖
後半11分、G大阪のFWウェルトンが最終ライン裏に抜け出してドリブルでペナルティエリア内に侵入しようとしたところ、鳥栖のDF堺屋佳介からスライディングタックルを受けて倒れた。池内明彦主審はDOGSOとしてレッドカードを堺屋に提示。その後VARの介入があり、反則はペナルティエリア外だという情報が主審に伝わった結果、堺屋の退場は変わらないものの再開は直接FKに変更となった。
佐藤マネジャーによると、池内主審はPKかつボールに向かっていない反則だとして、レッドカードを提示。懲戒罰の軽減にあたらないと判断した理由について、堺屋がボールに近くない中で後方からスライディングをしたためだという。
しかし、このシーンについても「映像を見ると(堺屋の)左足の先には(触れられなかったが)ボールがある」として、「ボールに向かうことで(相手競技者に)チャレンジ」した形だと判断。もしPKならば、レッドカードを軽減してイエローカードにすることが妥当だったとした。もっともその場合も一発退場かどうかに該当するため、VARが介入する可能性はあったとし、また実際はFKだったため最終的な判定は正しかった。
ちなみに無謀な「ラフプレー」など、ファールの強度が判断基準となって提示されるカードに関しては、PKを与えた場合でも軽減されないことも改めて強調していた。