CS決勝第2戦で下剋上は起きるのか? 広島の「42%」とG大阪の「9%」に見る逆転の条件 Soccer Magazine ZONE web 12月4日(金)20時42分配信

シーズン平均から上昇したパス数と成功率

 2日に万博記念競技場で行われたJリーグチャンピオンシップ(CS)決勝第1戦は、サンフレッチェ広島がガンバ大阪に敵地で3-2と勝利した。これで広島は、圧倒的に有利な状況で5日にホームで行われる第2戦に挑む。

今季から復活した2ステージ制を盛り上げるために、「下剋上」という言葉が頻繁に使われるが、ファーストステージ3位、セカンドステージ優勝、そして年間 を通して最も勝ち点を稼いだ広島からすれば、この興行色の強いシステムで「真の王者」ではない状況が生まれたとしたら、たまったものではない。「夢を見た い」と願うG大阪には気の毒だが、第1戦は接戦の末に強い者はやはり強いという結果になった。それでも、この日の試合は「Jリーグは面白い」と思わせるに 十分な内容だった。

この日の試合、どちらがいつも通りのサッカーを演じ、どちらがよそ行きの顔で戦ったのだろうか。

広島、G大阪ともパス数が非常に多いイメージのあるチームだが、広島の1シーズンの総パス数は川崎F、柏、浦和、横浜FMに次いで5位、その次がG大阪だ。成功率は広島が2位、G大阪が4位と両チームとも質の高いサッカーを展開する。

[DATA-1]のとおり、CS決勝第1戦のデータを見ると、広島はパス数がシーズン平均より14%増え、G大阪は9%減ったが、成功率はそれぞれ4% 弱上がっていた。お互いの「勝ちたい」という気持ちに加え、同じプレー時間内でのパス精度の向上が、試合を「面白いなあ」と思わせた要因の一つだったのか もしれない。さらに両チームとも枠内シュートが増えていたことも、ワクワクした理由だろう。

両者の間に生まれたクロス成功率の差

 チーム全体のシュート数や、ボックス内からのシュート数にも変化は見られなかったものの、クロスのところで両チームの間に決定的な差が生まれた。広島、 G大阪の両チーム共に、クロスのシーズン平均数は14本、成功率は広島が32%、ガンバが20%だった。だが、この試合では広島が成功率42%とシーズン 平均より10%も上昇したのに対し、G大阪は成功率9%と半分以下になってしまった。

この要因を探るために、両チームの攻撃の起点を見てみよう。[DATA-2]を見ると、G大阪はサイドよりもむしろ中央からの攻撃が多い。一方の広島は両翼、特に右サイドからの攻撃が圧倒的に多かった。

このことは2つのことを意味する。1つ目は、広島の右サイド攻撃が多いということはG大阪の左サイドからの攻撃を牽制することになる。G大阪のストロン グポイントは、日本代表にも選ばれている藤春と宇佐美の左サイドからの攻撃だ。その裏を再三突かれることは、G大阪としては決して好ましいことではない。 そうしてサイドに目が行った後の中央へのクロスは、やはり相手を見失うケースが多くなってしまう。

一方、G大阪は中央の攻撃が多かった。この日の広島の空中戦の勝率は高くなかったが、シーズンを通して見るとむしろG大阪より高いくらいだ。リーグ最少 失点を誇る3バックはそれぞれ空中戦、地上戦ともに強い。宇佐美、長沢、パトリックが中央を狙えば狙うほど、中央の守りは当然堅くなる。その状況からサイ ドに展開し、その後クロスを入れても跳ね返されてしまうだけだ。それが11本のクロスで僅か1本しか味方が触れなかった原因だろう。

2失点目と相手の退場が覚醒を呼ぶ

 [DATA-3]の図は、シュート、ポゼッション、攻撃回数、パス数、チャレンジ数をグラフ化したものだ。広島を表す青の線がチャレンジ以外すべて後半 に伸びているのが分かると思う。言うまでもなく、後半36分の今野の勝ち越しの得点、そしてそれ以降、活発になった広島の攻撃が同41分のオ・ジェソクの 退場でさらにギアを上げたことを示している。

広島はスコア上でこそ先制を許し、同35分にようやく追いつくという苦しい展開だったが、データが示すとおり、G大阪は徐々に広島の執拗なジャブによって弱っていた。そこに、2失点目と相手の退場という2つの事象が起き、覚醒したようだ。

自陣深くでボールを失わなかったのは…

 また、広島のすごさは両チームのボールロストの位置を示したデータにも表れている。もし、指導者が広島のデータを見たら、思わずカッとなってしまうような場所で、G大阪にボールを奪われているのだ。

[DATA-4]が示すとおり、G大阪は自陣深い位置でボールを奪われていないが、[DATA-5]のとおり、広島は前半にボックス内で奪われ、後半のボールロストは失点につながってしまった。

決定的ミスがあっても貫いたスタイル

 次の[DATA-6]の図は、広島の選手間のパスで頻度の高いもの(10本以上パスを出したもの)を矢印で結んだものだ。このボールロストとパスの頻度 を示す2つの図から分かるのは、広島は決定的なミスがあっても、得点を奪われても、試合を通して自分たちのサッカーを貫き通したことを示している。

中央ありきの攻撃は再考すべきか

 敵地での初戦を3-2の勝利で終えた広島は、ホームでの第2戦も自分たちのやり方を変えることはないだろう。G大阪が年間王者になるためには、第2戦で2点差以上の勝利か、3得点以上を奪っての1点差勝利(3-2の場合は延長戦)が必要という、厳しい条件になった。

もしも、初戦のデータが少しでも参考になるとしたら、前線からボールを奪いに行く姿勢は変えるべきではない。そこで広島に起きるミスは、必ずG大阪の チャンスになる。それに対して広島が、少しでも恐れを感じて自分たちのやり方を変えることがあれば、それがチャンスになるかもしれない。

一方、中央ありきの攻撃スタイルは、あまり効果的とは言えない。広島の中央3枚のディフェンスを、いかに外につり出すかが重要になってくるはずだ。さら に、後半終わり間際の広島の勝負強さも念頭に入れておく必要がある。泣いても笑っても、2015年のJ1リーグ最後の一戦。熱戦の末のチャンピオン誕生に 期待したい。

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