宮本新会長は律儀で“持っている”男 G大阪時代に見せていたゴールポストに感謝の秘話【コラム】
JFAの新会長に宮本恒靖氏が就任
日本サッカー協会(JFA)の新会長が誕生した。3月23日、都内で評議委員会が行われ、専務理事を務めていた宮本恒靖氏が第15代会長に就任することが正式に決まった。日本代表として2度のワールドカップを経験、さらに元JリーガーとしてのJFA会長は史上初となった。
【動画】宮本恒靖が新会長に就任 神戸時代に決めた「超絶オーバーヘッド弾」
47歳の宮本新会長は現役時代にガンバ大阪やザルツブルク(オーストリア)、ヴィッセル神戸でプレー。日本代表として国際Aマッチ71試合3得点をマークし、W杯には2002年の日韓大会、06年のドイツ大会に出場し、キャプテンも務めた。
2018年夏にはG大阪の監督に就任。当時、G大阪U-23を率いていたが、レヴィー・クルピ監督の解任を受けての内部昇格だった。就任に至るまでも社長から5時間以上の説得を受け、覚悟を持って決めた。そして、シーズン当初から苦境に立たされていたチームを残留させるために奮闘した。
18年は一時最下位に落ち込むなど残留争いに巻き込まれた。だが、最終的には8連勝で残留が決定。とにもかくにも、残留のためあらゆる手を尽くしたのが当時の宮本監督だった。
このシーズン、キーワードとなったのが「運」だった。
まだまだ油断できなかった9月21日清水エスパルス戦、この試合で2度ゴールポストに助けられて2-1の勝利を収めた。3連勝を飾った瞬間だった。
試合後、選手への取材中に宮本監督が1人ピッチに戻っていった。通常ならバスに乗り込んで宿舎へ向かうはずが、なぜピッチに戻ったのか。後日、そのことを聞くと「お礼をね」と明かしてくれた。
そしてその後、G大阪がJリーグ初優勝を飾った2005年の話をしてくれた。
当時、勝てば優勝の可能性があった最終節のアウェー川崎フロンターレ戦、同点の後半11分に当時主将だった宮本監督のヘディングシュートがゴールポストに当たって得点となった。一時の勝ち越し点。結果4-2で勝利して2位から逆転でJ1初制覇を果たした。
この日、ゴールポストへ“御礼”ができなかったため、わざわざ後日に等々力競技場まで足を運んで感謝の思いを伝えに行ったという。その姿勢こそが「運」が味方をする理由だと感じた。
「運も実力のうち」…何もかもを味方に付ける不思議な力
そしてこの年、残留争いに巻き込まれていたチームの流れを変えるために行っていたのがコイントスで勝利した場合にエンドを変えること。通常、前半はアウェーサポーターのいるゴール側に攻め、後半は自分たちのサポーターのいるゴール側に攻めることが多いが、G大阪は逆で前半にサポーターがいるゴール側に攻めていた。
これは就任当初、後半に失点することが多く、勝ち点を逃してきたことが理由だった。エンドを変えることで後半は自分たちがサポーターのあと押しを受けて攻めるだけでなく、相手に攻められた時、サポーターの声で跳ね返すという思いがあった。
ルール上、主将がコイントスに勝利したらエンドを変えるか、変えないかを選択することができる。言い換えれば、コイントスに勝たないとエンドは選択できない。これを始めたのは、8月19日アウェーベガルタ仙台戦からだった。その前節、北海道コンサドーレ札幌戦でリードしながらも後半アディショナルタイムに追い付かれていた。当時のゲーム主将DF三浦弦太は残留を決めた湘南ベルマーレ戦までなんとコイントス10連勝を飾っていた。
当時、あまりにもコイントスに強いので直接三浦に「本当に勝っているの?」と聞いた。もちろん答えは「本当に勝っている」だった。コイントスで10連勝する確率は2の10乗分の1。要するに1024分の1で、約0.0977%。宮本監督の「運」を味方にする力が残留に一役買ったと言っても過言じゃなかった。
「運も実力のうち」と言うが、宮本監督は何もかもを味方に付ける不思議な力があると思う。もちろん、それだけではないが、新会長がどのような決断を下して、日本サッカー界を波に乗らせてくれるのか。これからの未来が本当に楽しみだ。