なぜ名脇役・橋本英郎の引退試合にあれだけ超豪華なメンバーが集結したのか。観衆を大満足させたユニークな“演出とコンセプト”【コラム】
本人が全員に直電で打診! 伝説のブラジル人トリオも駆けつけた
パナソニックスタジアム吹田に足を運んだ1万2000強の観衆は、感動と笑いに包まれた90分間を存分に堪能したことだろう。
【G大阪公式】橋本英郎 引退試合フルタイム映像&J1を初制覇したガンバ2005、栄光の足跡と全ゴール集
12月16日、今年1月にスパイクを脱いだ元日本代表MF、橋本英郎の引退試合が開催された。対戦したのは「ガンバ大阪05」と「日本代表フレンズ」の2チームだ。前者はガンバが2005年シーズンに初めてJ1を制覇した当時のメンバーが集い、後者には橋本が日本代表で共にプレーした面々が名を連ねた。
その顔ぶれが凄まじい。ガンバファンでなくとも溜め息が出るような、豪華絢爛なメンバーがピッチに並んだ。
ガンバ05は、宮本恒靖、シジクレイ、山口智のお馴染み3バックに、遠藤保仁、二川孝広、橋本が中盤を彩り、前線は大黒将志、フェルナンジーニョ、そしてアラウージョの強烈3トップが復活。西野朗監督が指揮を執り、松波正信、實好礼忠、松代直樹、森岡茂ら古参だったベテラン勢も元気なところを見せ、いまだ現役で鳴らす家長昭博が切れまくり、当時を彷彿とさせる攻撃的なスタイルを完遂した。
一方、岡田武史監督が率いる日本代表フレンズは、オシムジャパンと岡田ジャパンが駆け抜けた2000年代後半を象徴するスターたちが躍動した。本田圭佑、楢﨑正剛、中田浩二、中澤佑二、松井大輔、大久保嘉人、内田篤人、中村憲剛などなど、枚挙に暇がないとはこのことだ。さらには稲本潤一、播戸竜二、加地亮、今野泰幸、安田理大と橋本がガンバで共闘した人気者たちも加わり、妙技を連発した。
橋本は前後半で45分ずつふたつのチームでプレーし、見事4得点をマーク。試合は現役かと見まがうほどの決定力を誇示した大黒の4発などでガンバ05が7対5で勝利した。1万2164の観衆は見せ場満載のエンターテインメントを満喫できたはずだ。
パナスタで開催された初の引退試合は、いったいどのような経緯で実現したのか。橋本本人に訊いてみる。
「去年の11月にオシムさんの追悼試合に参加させてもらったんです。そこで久しぶりにみんなとプレーさせてもらって、僕としては格別なものがあった。もし自分発信でやれるならばああいうものにしたいな、参加してくれる選手が楽しめる場にもしたいなと。ちょうど引退を決意したタイミングでしたしね。協力に応じてくれたガンバさんや(引退試合開催や運営の)ノウハウを持ってる方々と、少しずつ話を進めていきました。それで今年の5月くらいから具体的に動き出した感じです」
超豪華なメンバーは、一人ひとり橋本本人がコンタクトを取って勧誘したという。 「夏ごろから始めました。連絡先の知らないひとの電話番号も教えてもらって、ぜひ参加してほしいとお願いして回りました。さすがにブラジル人トリオは元ガンバの通訳さんに頼んで調整してもらいましたが、断られたケースはほとんどなくてありがたかったです。
僕はスターではなく脇役。それが大きかったと思います。実際に自分が目立つというより、参加してくれる選手たちに楽しんでほしい、彼らにお客さんが喜ぶプレーを見せてほしい。もっとプロモーションとかやれることはあったとは思いますけど、自分としては成功やったと感じてます。5000人くらいは来てくれるやろうと思って、1万人を目標にしてましたが、結果的に1万2000を超えるファンが来てくれた。嬉しかったですね」
試合は有料試合であり、ひとつの興行イベントだった。とはいえ大人で一番高いチケットが4000円で、小中高は1500円でも観られる価格設定だ。
出場したゲストたちには、橋本の新たな門出を祝いたいという想いと、懐かしいメンバーとまたボールを蹴りたいという願いが先んじていたに違いない。そして彼らがすんなり参加を了承した理由のひとつに、橋本が設定した明確な線引きもあった。「ガンバ05」と「日本代表フレンズ」の2チームの人選を厳格化することで、参加者たちが舞台をイメージしやすくなり、さながら同窓会の様相を呈したのだ。橋本は「本当はもっと呼びたい、来てほしいひとはたくさんいました。でもそこはこだわって良かったと思ってます」と話す。
「まさに同窓会ですよ。綺麗に言えば結婚披露宴でもあったんかな」
演出も飽きさせないものだった。
選手たちは入れ代わり立ち代わり目まぐるしくピッチに登場し、さらにその場を盛り上げたのが、スタジアムに流されたライブ実況だ。テレビ中継がなかったからこそ実現した企画である。播戸や楢﨑、吉原宏太など話術が巧みな強者たちが出場選手を大いにイジっては爆笑を誘い、昔なじみの面々はピッチ内外での「橋本英郎の素顔」を語りつくした。
ガンバユースで同級生の稲本が「僕はジュニアユースからハシとやってましたからね。10年間やから、一緒にやったのは僕が一番長いんじゃないかな。どんな時も真面目なことしか言ってなかった」と冗談めかせば、ひとつ年下の後輩・大黒は「ハシくん、最初はフォワードやってましたからね。ようツートップ組んでましたよ」などレアな情報を提供。笑いと拍手の絶えない90分間となった。
橋本は「まさに同窓会ですよ。綺麗に言えば結婚披露宴でもあったんかなと思います」としみじみ語る。
「プロサッカー選手としての橋本英郎は今日で終わり。だから最後にみんなに立ち会ってほしい。参列してくれた人たちが、ああでもないこうでもないと和気あいあいと語ってくれる、そんな場になればいいなと思い描いていたんです。『呼んでくれてありがとう』『本当に来て良かったよ』『マジで楽しかった!』とか、逆にみんなにお礼を言ってもらったり。次の日にシュンさん(中村俊輔)の引退試合が横浜であって、出場メンバーがけっこう被ってたのに前日に大阪まで来てくれた。本当にありがたいです」
現在、指導者A級ライセンスを持ち、S級取得に向けて準備を進めている。履正社高校と大阪大谷大学で外部コーチを務め、神奈川県リーグ1部の鎌倉インターナショナルではアドバイザーの要職に就く。さらに関西大学の非常勤講師として、教職課程の学生たちにもサッカーを教えているという。多忙な日々を過ごしながら近未来的に目ざすのは、プロクラブの監督就任だ。
「目標はそこです。でも、監督はまだやったことがないので、一度トライしてみないと分からない。実は僕には向いてないかもしれませんしね。脇役プレーヤーなので」
常にピッチ上で本質を見極め、最適解を探ってきた名手。いかにも正直な、橋本英郎らしいコメントである。
橋本英郎の引退試合に参加した総勢54名の豪華な顔ぶれをチェック!
【橋本英郎 引退試合/参加メンバー】
<ガンバ大阪05>
監督:西野朗 出場:橋本英郎、松代直樹、シジクレイ、入江徹、實好礼忠、宮本恒靖、山口智、遠藤保仁、フェルナンジーニョ、アラウージョ、二川孝広、松波正信、森岡茂、家長昭博、渡辺光輝、大黒将志、児玉新、吉原宏太、中山悟志、寺田紳一、三木良太、藤ヶ谷陽介、日野優、松下年宏、小暮直樹、前田雅文、松岡康暢、青木良太、木村敦志、岡本竜之介
<日本代表フレンズ>
監督:岡田武史 出場:橋本英郎、中田浩二、中澤佑二、坪井慶介、駒野友一、内田篤人、安田理大、佐藤寿人、加地亮、鈴木啓太、播戸竜ニ、稲本潤一、今野泰幸、玉田圭司、大久保嘉人、石川直宏、中村憲剛、楢﨑 正剛、松井大輔、乾貴士、山瀬功治、髙木和道、本田圭佑
PROFILE
はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。2019年からJFLのFC今治に籍を置き、入団1年目で見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。2021年5月2日の第7節のテゲバジャーロ宮崎戦で、J3最年長得点(41歳と11か月11日)を記録。2022年は関西1部リーグ「おこしやす京都AC」に籍を置き、シーズン終了後にスパイクを脱いだ。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。173センチ・68キロ。血液型O型。



