神戸初優勝に見る「2023年J1リーグ3つの傾向」 G大阪やFC東京に洗礼、帰還組の活躍やプレー強度の“落差”で明暗【コラム】
象徴的だった神戸のJ1初優勝、川崎と横浜FMの時代に終止符
J1は最終戦を残してヴィッセル神戸が初優勝した。6年間、川崎フロンターレか横浜F・マリノスの優勝だった時代に終止符を打ったことになる。神戸の優勝は2023年J1のいくつかの「傾向」と重なるところがあり、その意味でも神戸の優勝は象徴的だった。
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【1】ハイプレス優勢
キックオフから20分程度はハイプレスとビルドアップの攻防が見られる。川崎と横浜FMは優れたパスワークで相手を引かせる力があり、ビルドアップの優位性は6年間タイトルを分け合った要因の1つだったが、2023年はそれがハイプレス優勢に逆転した。
近年、ポジショナルプレーの浸透とともに2強以外にもビルドアップの向上が見られたのだが、それによってポジショナルプレーの手の内も把握されることに。ビルドアップを寸断するハイプレスが整理されたことで、ポジショナルプレーによる「位置的優位」が減退。ある意味、メッキがはがれたことで技術的な弱点を露呈するチームが多かった。
そんななか、神戸はビルドアップに拘泥せず、むしろ早めに敵陣にボールを蹴り入れてハイプレスを回避した。ビルドアップ型では後発のガンバ大阪やFC東京がハイプレスの洗礼を受ける格好になったのとは対照的に、そこから離脱した神戸の被害は少なかった。
【2】欧州帰還組の活躍
早い攻め込み、シンプルなクロスボール、こぼれ球の回収やハイプレスで奪っての波状攻撃。神戸の戦い方のベースである。同種の戦い方をしたチームはほかにもあったが、神戸の戦法が効果的だったのは大迫勇也、武藤嘉紀の欧州から戻ってきたFWの働きが大きい。2人だけでなくは酒井高徳、山口蛍、齊藤未月が欧州リーグ経験者だ。戦法に欠かせないフィジカルコンタクトを厭わない強さがあった。
欧州から戻って来る選手のほとんどは欧州での市場価値が下がっている。しかし、市場価値が下がったからといって実力も比例して低下しているとは限らない。もともと欧州へ行くだけの力のあった選手が、たった数年で別人になったりはしない。セレッソ大阪の香川真司は自身のピークは過ぎているが、ボランチへのコンバートで新境地を見せた。
欧州経験は外国籍選手にもあるが、Jリーグに適応するのはそんなに簡単ではない。その点、元Jリーガーは適応に問題が少なく、欧州での経験も活かせる。欧州での市場価値が下がった実力者はリスクの少ない補強対象と言える。
下位低迷のチームに見られる落差、神戸もそうなる危険はあったが…
【3】戦い方の幅
序盤はハイプレス優勢の傾向があったとはいえ、それが90分間続くわけではない。全体で60分を過ぎると、ハイプレスの強度が落ちてビルドアップとの力関係は逆転する。
ハイプレスで強度の高いプレーをしているうちは良いが、それができなくなった時に落差の大きいチームは下位に低迷している。神戸もそうなる危険はあったが、以前はFCバルセロナ化を掲げていただけあって、ビルドアップもテンポを落としたプレーもある程度はできる。トレンドに合致しているだけなく、戦い方に幅を残していた。
[著者プロフィール]
西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。