「久保はいろんな位置にいたけど…」絶好調の森保ジャパン。元日本代表がさらなる進化のために“3つの修正すべきポイント”を提示する
フィジカル面の“強み”がかなり増してきている
ノエビアスタジアム神戸で行なわれたチュニジア戦を2-0で制し、国際Aマッチの連勝を「6」に伸ばした森保ジャパン。11月のワールドカップ・アジア予選、年明け1月のアジアカップに向けて順調な歩みを示しているが、浮き彫りになった課題も少なくない。現地観戦した元日本代表MF、橋本英郎氏が鋭く考察する。
【動画】古橋だ! 伊東だ! チュニジア戦の鮮やかな2ゴールをチェック!
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チュニジア戦でキーになったポイントと、試合からみえてきた課題を私なりに分析しました。勝利を手繰り寄せたポイントはふたつになります。
まずは「攻撃→守備の切り替えの速さ」。もともと日本が得意としてきたところですが、この切り替えの精度が抜群に上がってきています。昨日の試合ですと、冨安健洋選手、板倉滉選手の両センターバックは自軍ポゼッションの際はあまりプレッシャーを受けることはありませんでした。そうした意味で体力的にも余裕があったのかもしれませんが、前線や中盤で奪われたあとのアクションが非常に速かったです。
前の選手はボールの周辺にいるのでスムーズに切り替えができていました。加えて、上記のようにボールから離れたセンターバック、サイドバックも狙いを持って連動してプレスを掛けていました。そのため、チュニジアはボールを奪ったあとにパスを繋いで突破を図ろうとしても、最終的には日本のDFラインを崩せませんでした。
また、中盤の遠藤航選手のフィルターが突破される回数も少なく、チュニジアはボールキープができたとしても素早い攻撃を繰り出せず、自分たちのDFラインでポゼッションするしかありませんでした。
次に「フィジカル面の成長」を挙げます。日本はこれまで何かとフィジカル面の弱さを指摘されてきましたが、チュニジア戦などではもはや互角、ないしは勝てるシーンが増えていました。チュニジアにボールキープされていてもプレッシャーを常に感じさせ、それだけではなく日本ボールの際も、チュニジアのプレスに対して怖がることなく、身体を使いながらブロックしてポゼッションしていました。
ふたつの得点シーンでもその傾向が顕著でした。1点目のシーンでは、久保建英選手に相手DFがアプローチしてぶつかり取られそうになりました。そこで倒れることなく、逆にDFのプレスの力を利用して前へ進んで行きました。チュニジアのDFはファーストアタックでボールが取れると思っていたはず。彼らが感じている日本人選手のサイズからは、想像がつかないほどのフィジカル(バランス・体幹の強さ)があったということです。
2点目のシーンでは、久保選手が身体を上手く使って前へのスペースをみつけると、ドリブルのスピード(緩急)で簡単に突破しました。伊東純也選手、三笘薫選手も同じような形での突破が多くみられますが、今回突破したのは久保選手でした。今までは三笘選手や伊東選手くらいが振り切ってドリブルしていた印象でしたが、新たに同じようにドリブルで突破できる選手が出てきたなという印象です。
それだけではなく、浅野拓磨選手、前田大然選手、昨日ゴールを決めた古橋亨梧選手はいずれも、代表クラスの外国人選手が相手でも振り切れるだけのスピードを有しています。
冨安がパスの出しどころに困ることが多かった
一方で、チュニジア戦で感じた修正ポイントも3つありました。
最初は「ポゼッションのボールの動かし方」。チュニジアは守備に回った際、選手個々のポジショニングが絶妙でした。相手選手にくっつくわけではなく、2人、3人の選手の中間に立ち、どちらでもプレッシャーが行けるポジションを取っていました。
またチュニジアは、逆サイドバックのマークをある程度あけて、数的不利にならないように「5DF-3MF」のブロックを組んできていました。両サイドの伊東選手と旗手怜央選手にウイングバックがついていましたが、ときにはそこのマークを捨てて、サイドバックの菅原由勢選手、中山雄太選手へプレッシャーをかけていました。
とくに菅原選手サイドのウイングバックは出て行くように言われていたのか、3バックの左CBの横のスライド(伊東純也選手をマークしに行く)が素早かったです。さらに、伊東純也選手がウイングバックに仕掛ける際も背後で左CBがカバー(1対2の形)していて、仕掛けにくくしていました。冨安選手がパスの出しどころに困ることが多く、ボールがいつもよりスムーズに回らなかったです。
理由としては、日本をしっかり研究してきて、アウェーでの試合、しっかり日本をリスペクトしてくれていたから、このようなゲームの流れになったように感じました。
次は「個の優位性を封じられたときの対策」です。チュニジアは、個人で上回られる部分を上記のように伊東純也選手に対して2人で対応したり、最後の局面で人数が足りなくならないように防いでいました。
日本の個の優位性は、これまで両ウイングのところにありました。チュニジア戦では、中央突破で偶発的ではありましたが古橋選手がゴールを決め、また後半相手の運動量が落ちて2ゴール目を挙げて勝ち切りましたが、個の優位性を抑えられた際は難しくなりそうです。
3つ目は「新しい選手の立ち位置(ポジショニング)調整」。最終的にはゲームを進めていくなかで解決しましたが、これはチーム力向上という観点で気になった部分になります。
前半、久保選手はさまざまな位置取りをしながらボールを引き出そうとしていました。ただ、彼がいろいろな場所に移動してポジショニングすることで、どこにいるか見つけられなかったり、冨安選手や守田英正選手、遠藤選手がスムーズに前線へ繋げられないシーンもみられました。
久保選手は相手の目先を変える動きをしていたはずですが、今までの中盤は、ボランチ寄りの選手がインサイドハーフに入ることも多かったので、前線に近いポジショニングはあまりなかったように感じます。伊東選手の立ち位置も久保選手がサイドで受けたりもしていたことで、インサイドに取る機会も多くなりましたし、旗手選手も少しポジション取りに四苦八苦しているように映りました。
後半になってチュニジアの運動量が落ち、多少間延びしていきました。さらに久保選手の立ち位置をボランチより後ろの選手が分かってきたことで、久保選手にスムーズにボールが入り、攻撃のスピードが上がって活性化しました。
今回は久保選手の新たな動きによる周りの連携の変化に、アジャストするのに時間がかかりました。また南野拓実選手などメンバーが変わるたびにポジショニングの仕方が変わっていたように感じます。そうした際も選手の特徴を活かせるよう、周りの選手との立ち位置調整は今後に向けて臨機応変さが必要になりそうです。
今後は同等レベルのチームが守備的な対策をしてくる
全体的にみると、個の優位性が、以前までの日本代表にはなかったさまざまなポジションで生まれています。優位性がなかったとしても、フィジカル面でのネガティブな要素がほぼなく、スピード、デュエルの面でも競り勝つ場面のほうが圧倒的に多くなりました。
森保一監督が継続してきた、相手に対してダメージを常に与えられる選択を選手自身が考えてプレーしているので、相手も対策がしにくくなってきています。ただ、これから日本も強豪国として認められていくなかで、同等レベルのチームが守備的な対策をしてくる可能性もあります。実際にカタール・ワールドカップのコスタリカ戦はかなり手こずりました。
今後は、アジアの戦いで日本をリスペクトしてくる相手をどのように崩して、勝ち切っていくのか。楽しみにして観察したいと思います。
<了>
PROFILE はしもと・ひでお/1979年5月21日生まれ、大阪府大阪市出身。ガンバ大阪の下部組織で才能を育まれ、1998年にトップ昇格。練習生からプロ契約を勝ち取り、やがて不動のボランチとして君臨、J1初制覇やアジア制覇など西野朗体制下の黄金期を支えた。府内屈指の進学校・天王寺高校から大阪市立大学に一般入試で合格し、卒業した秀才。G大阪を2011年に退団したのちは、ヴィッセル神戸、セレッソ大阪、AC長野パルセイロ、東京ヴェルディでプレー。2019年からJFLのFC今治に籍を置き、入団1年目で見事チームをJ3昇格に導く立役者のひとりとなった。2021年5月2日の第7節のテゲバジャーロ宮崎戦で、J3最年長得点(41歳と11か月11日)を記録。2022年は関西1部リーグ「おこしやす京都AC」に籍を置き、シーズン終了後にスパイクを脱いだ。日本代表はイビチャ・オシム政権下で重宝され、国際Aマッチ・15試合に出場。173センチ・68キロ。血液型O型。