大迫勇也、酒井宏樹、鈴木優磨…現在のJリーグに欠かせない“出戻り組”、移籍後の高い成功率
日本サッカー界が誇る“天才”小野伸二が、今季限りでの現役引退を発表した。改めて彼の25年にわたるプロサッカー人生を振り返った際に気付くことのひとつに、欧州リーグで活躍した年数よりもJリーグ復帰後の方が長いということがある。そして近年、海外に移籍する選手の数が右肩上がりで増え続けると同時に、小野と同じような“出戻り組”も増加。最近3年、2021年以降だけを見ても、以下のような多くの“例”がある。
まずは今季のJリーグで首位快走の原動力となっているFW大迫勇也(神戸)だ。鹿島から2014年1月にドイツに渡り、2021年8月に神戸と契約を交わして7年半ぶり、31歳でJ復帰。すぐに前線の核として働くと、怪我によるコンディション不良に悩まされる時期もあったが、3年目の今季はリーグ戦全28試合(スタメン26試合)に出場してリーグトップの19得点をマークしている。この19得点は渡欧する直前の2013年シーズンに並ぶ自己最多タイの数字。ドイツでは中盤に配置転換されるなど正当な評価を得られないことも多かっただけにJ復帰は大正解だったと言える。
同時期に同クラブに入団した武藤嘉紀(神戸)の活躍も目立っている。FC東京から2015年5月にドイツに渡り、イングランド、スペインを経て2021年8月に6年ぶり、29歳でJ復帰。半年間14試合で5得点7アシストとすぐに結果を残すと、以降も欠かせない戦力として献身的かつ決定的な働きを続け、今季はリーグ戦全28試合(スタメン27試合)出場で8得点9アシストの働き。大迫との連携も抜群で、充実の日々を過ごしている。神戸には2019年に28歳でJリーグに復帰した酒井高徳もおり、豊富な資金力で“出戻り組”を活用し、確実に戦力アップに成功している。
“出戻り”から大きな歓喜を味わったのが、酒井宏樹(浦和)だ。柏から2012年7月にドイツに渡り、フランスで活躍した後、2021年6月に9年ぶり、31歳でJ復帰。すぐに不動の右サイドバックとして働き、日本代表として2022年末のカタールW杯にも出場した。そして2023年、浦和のキャプテンとしてアジア制覇を成し遂げ、自身は大会MVPを受賞。西川周作と2人でACL優勝トロフィーを掲げたシーンは、酒井のサッカー人生の中でも重要なワンシーンになった。
J舞台で抜群の存在感を見せつけているのが、鈴木優磨(鹿島)だ。鹿島から2019年7月にベルギーに渡り、シントトロイデンで得点を量産した後、2022年1月に2年半ぶり、25歳で古巣に復帰。すぐに前線の核として獅子奮迅の働きを見せると、2022年はリーグ戦32試合で7得点9アシスト、そして今季もここまで27試合出場で13得点5アシストをマーク。日本代表復帰待望論が沸くなど、傑出したパフォーマンスを続けている。現在27歳という年齢的にも、J復帰後の“今”が全盛期と言える。
日本代表で長く背番号10を背負った香川真司(C大阪)は今季、日本に戻ってきた。C大阪から2010年7月にドイツに渡り、計6カ国でプレーした後、2023年2月に12年半ぶり、34歳でJ復帰。年齢によるスピードの低下、そしてここ数年の不完全燃焼の働きぶりから懐疑的な声もあったが、蓋を開けてみれば開幕から衰えぬ技術を随所で発揮し、第4節以降はスタメン出場を続けて今季リーグ戦全28試合に出場している。記録的には2得点0アシストと物足りないが、それでもゲーム、そしてチームに与える影響力は大きい。
2018年ロシアW杯でヒーローとなった乾貴士(清水)も忘れてはならない“出戻り組”の一人だ。C大阪から2011年8月にドイツに渡り、2015年夏からスペインで活躍を続けた後、2021年8月に10年ぶり、33歳でJ復帰。C大阪でプレーした後、2022年7月に清水に移籍すると、極上のテクニックで“違い”を作り出している。今季はリーグ戦26試合に出場した中で、7月のJ2月間ベストゴールも含めて8得点7アシストをマーク。J1自動昇格圏の2位という現在のチームの順位に貢献している。
その他、2020年以降だけを見ても、宮市亮(横浜FM)、長友佑都(FC東京)、植田直通、昌子源(ともに鹿島)、小林祐希(札幌)、食野亮太郎、鈴木武蔵(ともにG大阪)、井手口陽介(福岡)、北川航也(清水)、松原后(磐田)ら多くの選手の名前が挙がる。
期間を広げれば家長昭博(川崎)、宇佐美貴史(G大阪)、清武弘嗣(C大阪)、西村拓真(横浜FM)らも海外リーグでのプレー経験のある“出戻り組”だ。さらに今夏には柴崎岳(鹿島)、中島翔哉、安部裕葵(ともに浦和)、原大智(京都)、前田直輝(名古屋)、田中聡(湘南)らがJ復帰を果たしており、今後の活躍が大いに期待されている。
改めて現在のJリーグ全体を見渡すと、“出戻り組”は決して珍しいものではなく、彼らが各チームの主力として活躍している姿が大いに目につき、Jリーグ復帰後に苦しんでいる選手はごく少数だ。サッカー界の中心は欧州にあり、海外リーグでプレーすることは、多くのサッカー選手たちが持つ「夢」であることは確かだが、それがすべてではない。今後さらに日本人の海外移籍の数が増えていくことは確実だが、それは同時に“出戻り組”の増加を意味し、Jリーグのレベルアップに繋がるはずだ。(文・三和直樹)