なぜガンバは驚異的なV字回復を見せたのか?「異邦のカルテット」はAランクの出来。指揮官の軌道修正と柔軟な人選も見事
豪華助っ人陣のハイパフォーマンス
シーズン序盤は実に25年ぶりのリーグ戦5連敗を喫し、一時は最下位に転落したガンバ大阪が、驚異的なV字回復を見せている。
5月28日の新潟戦で連敗にピリオドを打った後、10試合を戦って8勝1分1敗。横浜には競り負けたものの、近年苦手にしてきた鹿島や川崎に勝利して積み上げてきた勝点は、確かな地力の証である。
今、最もJ1で勢いがあると言ってもいいG大阪の足取りを支えるのは、クラブ史上例を見ない豪華助っ人陣のパフォーマンスによるものだ。
その象徴が、やはり直近の対戦では3敗2分と苦戦を強いられた湘南戦の先制点の場面である。
37分、自陣からのビルドアップでファン・アラーノにボールが入ると、一気に攻撃はスピードアップ。山本悠樹のパスを受けたイッサム・ジェバリが絶妙のポストプレーを見せると、J・アラーノが冷静に蹴り込んで湘南ゴールをこじ開けた。
「困った時のパトリック」とばかりにロングボールを蹴り込むことが多かった攻撃(もちろんパトリックは素晴らしい働きを見せていたが)とは対照的に、理詰めのパスワークで崩し切った一連の流れは、全盛期のG大阪を彷彿とさせるものだった。
現在のG大阪の強化部の目利きの確かさが称賛されるべきだが、かつての「ブラジル・韓国」路線に固執しない助っ人は、上位陣に引けを取らないタレント力を見せている。
負傷が癒え、コンディションが整った新潟戦以降、最前線の橋頭堡として5得点という数字以上の貢献を見せているジェバリはもちろんだが、鹿島時代にはフィニッシュの精度に課題があったJ・アラーノもウイングで新境地を開拓。チーム最多の7得点に加えて、4アシストをマークする。
ブラジル時代にはSBやCBも経験してきたマルチロールのダワンは、未経験のインサイドハーフで攻守を黒子として支えながらも6得点・4アシストと奮闘中だ。
そしてイスラエル人初のJリーガー、ネタ・ラヴィも日本で経験する夏に一時パフォーマンスを落としていたが、圧巻のターンとボール奪取力で存在感を見せている。
韓国代表のクォン・ギョンウォンは稼働率とパフォーマンスを考えれば、助っ人として物足りないのは事実だが「異邦のカルテット」は強度、走力、そして献身性の全てでAランクの出来を見せている。
ポヤトスガンバの真骨頂が現われた札幌戦
もっとも、勝てない時期にもブレることなく、チーム作りを進めてきたダニエル・ポヤトス監督の手腕も見逃せない。
単なるパスサッカーではなく「どこにスペースが生まれるのか、作り出すのか」を最も重視するポヤトス監督の戦術的な落とし込みは、勝てなかったシーズン序盤にも顔を覗かせることがあったのだ。
ホームで行なわれた3月18日の札幌戦は、2点を先行される苦しい展開だったが、後半は最終ラインから狙い通りのボールの動かしを見せ、左右両方のサイドを崩し切って2得点。湘南戦の先制点同様、ポヤトスガンバの真骨頂が現われた一戦だった。
シーズン序盤はウイングの人選に試行錯誤が続き、敵陣深くでの仕掛けにまったく迫力を欠いたのが低迷の一因でもあったが、復調のスタート地点となった新潟戦の前節、すでにチームが変わる予兆は現われていた。
5月20日の横浜戦ではセットプレー2発に泣き、0-2で敗れたものの、この試合で抜擢された倉田秋のウイング起用は戦術の修正を示すものだった。
新加入の杉山直宏らが一向にフィットせず、ウイングの破壊力は明確なチームの課題だったが、ポヤトス監督は選手の立ち位置と役割を変えることで、「エストレーモ・プーロ(生粋のウイング)」不足という難題に処方箋を見出すのだ。
ウイングがよりジェバリに近い内側でプレーし、大外では黒川圭介らが攻撃参加。「選手の特長がより生きる形」と微修正の意図を明かしたポヤトス監督だが、シーズン途中の軌道修正と、対戦相手に応じた柔軟なウイングの人選は見事というしかないだろう。
新潟戦以降、圧巻の収まりを見せるジェバリをシンプルに活かす形あり、最後尾からつないで崩す形ありと、変幻自在の攻撃を見せ始めているG大阪。
パスサッカー至上主義者でない指揮官が、常々口にするのは「水のようなサッカー」である。
その心は「水は器に応じて、柔軟に形を変えるから」。攻撃時にスタジアムが湧く空気感の多さを含めて、G大阪はそのサッカーをモダンなスタイルに変えつつある。