ハリルホジッチも熱望?宇佐美貴史がマルセイユにチャレンジする価値 webスポルティーバ 11月27日(金)14時4分配信

ハリルホジッチ監督率いる日本代表が、2018年ワールドカップに向けたアジア地区第2次予選のカンボジア戦(アウェー)を迎えようとしていたとき、そのニュースは流れた。

「フランスの名門マルセイユが宇佐美貴史に正式オファー」

マルセイユのクラブ関係者が明かしたとして報じられたそのニュースは、それ以外に宇佐美獲得を模索しているというドイツの複数クラブの名前とともに、フランス国内でも2次情報として数行のニュースで報じられた。

宇佐美といえば、2011年7月に買い取りオプション付きの1年レンタルで、ドイツの名門バイエルンに移籍。19歳という若さで世界的クラブに加入した ものの、厚すぎる選手層にもがき苦しみ、ほとんど出場機会を得られないまま契約を終了したという苦い経験がある。さらにその翌シーズンも、ホッフェンハイ ムと同様の契約でレンタル移籍を果たしながら力を発揮できず、2013年6月にふたたびガンバ大阪に復帰した。

まだ若かったと言えばそれまでだが、しかしその後の宇佐美がドイツでの経験を生かし、日本国内でさらなる成長を遂げたことは間違いない。実際、ハリルホ ジッチ体制になってからの宇佐美は全試合に出場する唯一の選手となり、その指揮官の寵愛ぶりは誰もが認めるところである。

今、ワールドカップのロシア大会に向けてもっとも期待をかけられている23歳の宇佐美にとって、自身3度目の海外挑戦は日本の将来を担う選手へと成長するために、避けては通れない道。そういう点で、マルセイユはうってつけの移籍先といえる。

正式名称「オランピック・ドゥ・マルセイユ」は、通称“OM”として知られるフランス国内ナンバーワンの人気を誇る名門クラブだ。過去9度のリーグ優勝 を果たした南仏のビッグクラブは、1980年代後半から1990年代初頭に黄金期を迎え、1992-1993シーズンにはチャンピオンズリーグ優勝を果た している(後に国内リーグ戦における八百長事件が発覚したためタイトルは剥奪された)。

最近では元マルセイユの名手で、現フランス代表監督のディディエ・デシャンがチームを率いた時代(2009~2012年)にもリーグ優勝1回、リーグカップ3連覇という偉業を達成。また、タイトル獲得こそ実現しなかったが、昨シーズンはアルゼンチンの名将マルセロ・ビエルサが指揮を執り、スペクタクルサッカーで国内を席巻したことも記憶に新しい。

常に世間の注目を浴び続けるマルセイユは、カタール資本で黄金期を築くパリ・サンジェルマンを目の上のタンコブとしているが、それでも国内の人気ナンバーワンの座は譲っていない。特にサポーターのクラブに対する忠誠心は特筆すべきで、来年のユーロ開催のために新装オープンした本拠地「ヴェロドローム」 の熱い雰囲気は欧州屈指レベル。「結果が出なければ即暴動」という気性の荒さは玉にキズだが、あのサポーターの大声援は体感した者でなければわからないほ どの熱狂度だ。

現在、そんなビッグクラブを率いるのは、スペイン人のミチェル監督である。今シーズン開幕直後に突然ビエルサ監督が辞任したことを受け、急きょ8月19日 から新監督に就任。さっそく夏の移籍で積極的な補強を行なったものの、前任者がマンツーマンで全員がハードワークをする特殊なサッカーを実践していたこと もあり、いまだにサッカースタイルの大幅変更に選手をフィットさせるには至っていない。

第14節を終えた時点で勝ち点は18ポイント(首位はパリ・サンジェルマンの38ポイント)。攻撃サッカーで優勝争いを演じた昨シーズンとは打って変わり、目下12位に沈んでいるのが現状だ。

ミチェル監督が採用する基本システムは4-2-3-1。オーソドックスなスタイルを実践するものの、いかんせん組織としての連動性はまだ低い。そんな状 況のチームに宇佐美が加入したと仮定すれば、やはり「3」の両サイド、とりわけ左サイドウイングで起用されることが濃厚だと思われる。

両ウイングでプレーするのは主に3人で、ファーストチョイスは右のロマン・アレッサンドリーニ。26歳のアレッサンドリーニはレンヌ時代に大ブレイクしたレフティで、強烈なキックと縦へのスピードを武器とする。スタミナ、フィジカルの能力も折り紙つきで、現状、ミチェル監督はアレッサンドリーニを「攻撃の軸」としている。

一方、左サイドはまだ固定しているとはいえない状況にある。当初はアルゼンチンのドリブラー、21歳のルーカス・オカンポスが最有力と見られていたが、 モナコ時代に右サイドを主戦場とし、ドリブルでカットインしてから効き足である左足でシュートやラストパスを放つプレーを得意としていたこともあり、左サ イドでは精彩を欠いているのが実情。次第にベンチを温める時間が増えている。

そこに登場したのが、同じくレフティの新戦力ジョルジュ=ケヴィン・ヌクドゥである。今夏に加入した弱冠20歳のヌクドゥはフランスの各年代代表でプ レーしてきた期待のアタッカーで、スピードに乗ったときのドリブル突破が最大の武器。テクニックにも優れ、最近はスタメンの座を獲得しつつあるが、課題はドリブル後のパスやシュートがまだ粗削りな点だ。そこが改善されなければ、チームとしての得点力アップも望めない。

このように、3人のレフティが両ウイングでプレーする現状を考えると、右効きの宇佐美加入はミチェル監督としても喉から手が出るほど欲しいタイプであ り、加入が実現すれば左サイドをヌクドゥと宇佐美で競わせ、オカンポスを本来の右サイドに回してアレッサンドリーニのバックアッパーとすることもできる、という利点がある。

かつて、マルセイユには2005年1月から約1年半、中田浩二がプレーしたことがある。だが、残念ながらそのときは成功を手にすることができなかった。ま た、これまで8人の日本人がフランスリーグに挑戦したが、唯一成功を収めたのは、2部時代のル・マンに加入してクラブの昇格と黄金期形成に貢献し、その後 もサンテティエンヌやグルノーブルなど、計8シーズンにわたって複数クラブでプレーし続けた松井大輔だけである。

アフリカ系の選手が多くを占め、フィジカルなサッカーが主体となるフランスでは、「アジア人は成功することが困難」というのがフランス内での定説。しか し、松井がそうだったように、突出した技術と創造性を兼ね備える宇佐美が、フランスサッカーに揉まれてフィジカルが鍛え上げられたとき、日本代表の主軸となる可能性は極めて高い。

ドイツでの苦い思い出を払拭して大きく羽ばたくためにも、フランスの名門にチャレンジする価値は十分にある。選手としても監督としてもフランスで名を残したハリルホジッチも、それを望んでいるのではないだろうか。

 

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