北川信行の蹴球ノート 欧州クラブ「訪日ラッシュ」、Jリーグ「シーズン移行」でどうなる
今夏も欧州を中心に、サッカーの名だたるビッグクラブが相次いで来日した。Jリーグのクラブや来日したチーム同士であわただしく国際親善試合を開催。選手らは慣れない蒸し暑さと強行日程に悩まされながらも、随所にキラリと光るワールドクラスのプレーを披露し、日本のファンを魅了した。しかし、この「訪日ラッシュ」も、間もなく終焉(しゅうえん)を迎えるかもしれない。Jリーグのシーズン移行が、きっかけになるのではないかと思っている。
【写真】アル・ナスル戦をベンチから見つめるパリSGのネイマール
■観客1万人台の試合も
まずは、今夏に計画されているクラブレベルの国際親善試合(Jリーグワールドチャレンジ含む)のスケジュールを列記してみる。
〇6月6日=ヴィッセル神戸0-2バルセロナ(東京・国立、気温21・8度、湿度81%、雨、観客4万7335人)
〇7月19日=横浜Fマリノス6-4セルティック(横浜・日産、気温29・5度、湿度50%、晴れ、観客2万0263人)
〇7月22日=ガンバ大阪0-1セルティック(大阪・パナスタ、気温29・8度、湿度65%、晴れ、観客1万2482人)
〇7月23日=横浜Fマリノス3-5マンチェスター・シティー(東京・国立、気温28・9度、湿度63%、晴れ、観客6万1618人)
〇7月25日=パリ・サンジェルマン0-0アル・ナスル(大阪・ヤンマー、気温29・5度、湿度68%、晴れ、観客2万5432人)
〇7月26日=バイエルン・ミュンヘン1-2マンチェスター・シティー(東京・国立、気温30・8度、湿度52%、晴れ、観客6万5049人)
〇7月27日=アル・ナスル1-1インテル・ミラノ(大阪・ヤンマー、気温30・5度、湿度70%、晴れ、観客1万3805人)
〇7月28日=パリ・サンジェルマン2-3セレッソ大阪(大阪・ヤンマー、気温29・9度、湿度75%、晴れ、観客3万2430人)
〇7月29日=バイエルン・ミュンヘン0-1川崎フロンターレ(東京・国立、気温30度、湿度55%、晴れ、観客4万5289人)
〇8月1日=パリ・サンジェルマン-インテル・ミラノ(東京・国立)
6~8月に計画された10試合のうち既に9試合が終了。来日したのは、①バルセロナ(スペイン)②セルティック(スコットランド)③マンチェスター・シティー(イングランド)④パリ・サンジェルマン(フランス)⑤アル・ナスル(サウジアラビア)⑥バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)⑦インテル・ミラノ(イタリア)の7クラブにのぼる。ユニークなのは、1つの国・地域から1クラブずつ来日している点と、ポルトガル代表の世界的スター選手、クリスティアノ・ロナルドが所属しているとはいえ、これまであまりなじみのなかったサウジアラビアのクラブが来日したことだろう。
Jリーグ側は①ヴィッセル神戸②横浜Fマリノス③ガンバ大阪④セレッソ大阪⑤川崎フロンターレの5クラブがこれらのクラブとの対戦を請け負った。
今夏限りでヴィッセル神戸を退団した元スペイン代表、アンドレス・イニエスタとのつながりで6月初めに来日したバルセロナは特殊なケースだが、他はシーズン開幕前の調整的な意味合いが強かったと思う。ただし、7月の試合はナイターにもかかわらず、いずれも気温28度以上。湿度も50~70%と高く、決して良好なプレー環境ではなかった。
興行的にみても、東京・国立競技場で行われた横浜Fマリノス-マンチェスター・シティーとバイエルン・ミュンヘン-マンチェスター・シティーの2試合は観客数が6万人を超えたが、1万人台の試合も2試合あり、すべてが成功だったとは言い難い。欧州からビッグクラブが来日すれば、必ず満員になる時代ではなくなっている。高額すぎるチケットも話題となった。
■シーズン中の相手と戦うメリット
実際に取材した試合や記者会見での各チームの監督や選手の声を拾うと、来日ツアーについての本音ものぞいていた。
最も興行色が薄かったのはセルティックだろう。指揮官に就任したブレンダン・ロジャーズ監督はガンバ大阪との試合後に「全体的にいい試合になった。いい訓練になった」と振り返った上で「試合はスピーディーに始め、強く終わりたいと思っている。(ツアーは)フットボール的に言うと、コンディションを高めるのが目的。Jリーグはシーズン中で、相手の方がコンディションが上がっている状態。それがわれわれにとっていい試験になる。(対戦した横浜Fマリノス、ガンバ大阪の)2チームとも異なる戦術、いい組織を持っていた。選手たちも暑さや湿度など慣れない環境でプレーする必要があった。フットボール面でも人間的にもいい経験になった。日本に来ることができて光栄に思っている」と強調した。
興行面を除けば、シーズン中でコンディションが上がっており、そこそこのレベルを保っていて、しかも比較的クリーンなプレーをする相手とプレシーズンマッチを戦うことで、自分たちのコンディションを上げていくというのが、世界の名だたるビッグクラブが慣れない高温多湿な環境にもかかわらず、来日する理由のように思う。
また、インテル・ミラノのシモーネ・インザギ監督は「選手たちは頑張って努力した。やるべきことができた。チャンスはたくさんあり、決めることができれば勝つことができたと思う」と話し、アル・ナスルのルイス・カストロ監督はインテル・ミラノ戦後に「湿度が高く、選手の疲労度を高める要因になった。このあと10時間かけて帰国し、すぐに試合をしなければならない」と強行日程を嘆きながらも「アル・ナスルは日に日に評価を上げているチーム。選手だけでなく、スタッフを含めて全員が役割を果たしている。世界のどんなチームとも互角に渡り合えるチームにしたいし、タイトルを取るチームにしたい。世界からリスペクトされるチームに育て上げたいと思っているし、成し遂げられると思っている」と話す。
その上でカストロ監督は「欧州のみならず多くの選手がサウジアラビアに集まってきている。自国の選手も育っており、リーグのレベルが上がるのも自然な流れだと思う。(世界的スター選手の)ロナルドが入ったことで注目度が上がり、加速度が上がっている。アル・ナスルは成長過程にあるチーム。(日本ツアーで多くのファンに)情熱を持って試合を戦う姿を見せられたと思う。戦った(パリ・サンジェルマンとインテル・ミラノの)2チームとも格上との対決。うち一つは欧州チャンピオンズリーグの決勝に進出したチームだった。そこともいいレベルの試合ができた。メンタルと技術、両方の面でいい練習になった。収穫はあったと思う」と力を込めた。
また、パリ・サンジェルマンのルイス・エンリケ監督は来日会見で「(日本ツアーの)目的は親善試合を通してフィジカルを高める機会にすること。選手が互いにより良く知り合う機会にしたい」と話していた。
仮にJリーグがシーズン移行したとすると、欧州(サウジアラビア含む)とほぼ同じ年間スケジュールとなるため、この時期の国際親善試合はともにプレシーズンマッチとなる。すると、欧州のクラブ側が対戦相手に求めるプレーの強度にJリーグのクラブは達することができず、わざわざ長時間をかけて蒸し暑い日本に来るメリットは少なくなるのではないだろうか。
もっとも、最後に身もふたもない話をすれば、興行的にうまみがあれば、ビジネス重視のクラブの来日は続く気もしている。「Money talks」はサッカー界の常識だからである。



