前田大然VS古橋亨梧 スコットランドで日本人FWが熾烈な「1トップ争奪戦」
2006-2007シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)・グループステージで、マンチェスター・ユナイテッド相手に直接FKを2本も叩き込み、世界に衝撃を与えた中村俊輔(現・横浜FCコーチ)。当時、中村が在籍していたスコットランドリーグの名門・セルティックは、いまや日本人選手5人を抱える親日クラブとなっている。
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「日本人選手はオン・ザ・ピッチでもオフ・ザ・ピッチでも非常に紳士で謙虚です。それでいてハードワークもしますし、振る舞いが本当に“ファーストクラス”だと思っています」
7月19日と22日、そのセルティックが横浜F・マリノス、ガンバ大阪の両Jリーグ勢と親善試合を行った。これは初戦の際、「日本人が5人もいるのは非常にユニークだが」と記者に問われたブレンダン・ロジャーズ新監督のコメントである。監督はこう続けた。
「勤勉で何事にも手を抜かない国民性を持つ人間が5人もいれば、規律ある雰囲気を作るうえでプラスに働くだろう」
一方、“レジェンド”中村はこんなデメリットを話している。
「日本人同士で阿吽(あうん)の呼吸ができるのはいいことだけど、多すぎて難しい部分もある。『あいつが試合に出てるのに俺はピッチにいない』と過剰に意識してしまったり、プレッシャーを感じる可能性がある」
ポジションが同じ古橋亨梧(28)と前田大然(25)は、とくに負の感情を抱く可能性がある。アンジェ・ポステコグルー監督(現・トッテナム)が率いていた昨季は古橋が1トップ、前田が左FWと別の役割を担っていたため、2人が真っ向勝負をすることはなかった。だが、今季は前田の1トップ起用が有力で、日本人FW同士が激しいポジション争いを繰り広げる可能性が高まっているのだ。
テストの第一段階となった今回の横浜戦。前田が前半だけでハットトリックを達成する傍ら、途中出場の古橋は仕事らしい仕事ができなかった。昨季、公式戦で34ゴールという目覚ましい成果を挙げた古橋だが、試合後こううなだれた。
「流れの中でボールを引き出したり、抜け出したりしようと思ったけど、悪い流れになってしまった。失点も重ねてよくなかった」
古橋にとって、ロジャーズ監督が描くFW像は難易度が高いのかもしれない。前田はこう説明している。「監督はFWが中盤まで下がってボールに絡むことを要求している。そこは(前任の)アンジェとは全く違う」
最前線でゴールを奪う役割に専念していた古橋にとって、この戦術は異質な負担がのしかかるのかもしれない。実際、横浜戦での古橋は下がった際に相手につぶされたり、ボールを奪われるシーンが目についた。
「もう少し頑張ってポジショニングしながら、ボールをつないで、中継役もしつつ、もっともっと前に仕掛けられたらなと思います」
古橋の弁である。
古橋が2022年カタールW杯メンバー落選の憂き目に遭ったのは「前向きにゴールする」こと以外の仕事が、前田や浅野拓磨(28・ボーフム)、上田綺世(24・セルクル・ブルージュ)と比べて見劣りしたからに他ならない。今季は今のところコンディションの問題で出遅れを強いられている様子だが、セルティックの新指揮官に存在感を認めさせ、輝くことができれば、代表FWの仲間入り、そしてエースの座も近づいてくるはずだ。
前田大然は好スタートを切ったプレシーズンの勢いを、8月5日の新シーズン開幕・ロス・カウンティ戦につなげることが肝要だ。開幕スタメンを勝ち取れば、9月からスタートする欧州CLでもコンスタントに戦うチャンスが得られるだろう。
欧州リーグの格付けである「UEFAランキング」9位というスコットランド勢にとって、欧州CLでの活躍はインパクトが大きい。そこで目覚ましい働きを見せられれば、森保監督はもちろん、世界の見る目がガラリと変わるに違いない。
果たして古橋と前田のどちらがFW争いを制し、欧州で突き抜けた存在になるのか……。韓国人FWオ・ヒョンギュらもいるだけに、ロジャーズ監督がどのような起用法を採るかは未知数ではあるが、今後の展開が非常に興味深いところだ。
中村自身もセルティック在籍時を振り返り、こう悔恨している。
「自分は欧州CLレベルになるとFKしかアピールできなかった。いまだにマンU戦でのFKを取り上げてもらえるのは嬉しいけど、もっと個人のレベルを上げなければいけなかったな、という思いが強い」
欧州には旗手怜央(25)、岩田智輝(26)、小林友希(23)もいる。最高峰の戦いで世界を震撼させる存在が出てきてくれることを楽しみに待ちたい。
(文中敬称略)
取材・文:元川悦子