【インタビュー後編】「ベルギー2部とJ1は同レベル」…ACAFPが選手獲得時に重視する3つのポイント

Jリーグは「欧州のトップリーグに近づいている」

「東南アジアと欧州のサッカーには大きなギャップがある」

ACAFPは「アジア発」ということもあり、アジア出身のタレント発掘にも力を入れており、今後さらなる日本人選手の獲得に動く可能性は十分にある。ただ、経営陣のトップが日本人だからといって日本人選手の獲得にこだわるのではなく、近年急速な発展を遂げる東南アジアからも有望な若手選手を見出し、欧州の市場に乗せていくこともプロジェクト内の重要施策に位置づけている。実際に今季は東南アジア出身の選手を2人獲得した。

特にインドネシア代表でも活躍する18歳のMFマルセリーノ・フェルディナンは、冬にデインズに加入するとベルギー2部で初ゴールを奪うなど確かな存在感を発揮。ACAFPの取り組みを象徴する選手の一人となっている。エスパラガ氏もそのタレント性の大きさには舌を巻く。

「マルセリーノは東南アジアでも屈指のポテンシャルを持つ選手です。順調に成長すれば、ベルギー2部のレベルを超える選手になる。すでにピッチ上で彼自身の能力を証明していますし、チームへの溶け込みも早く、ゴールも決めるなど素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。彼の進歩を非常にうれしく思います」

デインズには他にシンガポール代表のFWイルハン・ファンディも在籍している。シンガポールサッカー界のレジェンドを父に持つストライカーは負傷のためまだ実戦デビューを果たせていないが、将来を嘱望されるタレントなのは間違いない。

ACAFPはマルセリーノやイルハンのような東南アジアの若手有望株を探し、積極的にチャンスを与えていくつもりだ。ただ、闇雲に若い選手を欧州に連れて来ればいいというわけではない。現実的には「東南アジアと欧州のサッカーには大きなギャップがある」とエスパラガ氏は語る。

「東南アジアにはポテンシャルの大きな選手がたくさんいます。ただ、欧州では現在プレーしているリーグよりも早い判断が求められることに留意しなければなりません。ベルギーに限らず、欧州では試合中に判断を下すまでに与えられる時間が少ないので、正しいプレーをするためには水準以上の戦術的な素養が必要になります。

フィジカル能力やテクニックは練習で伸ばすことが可能ですが、判断の早さと質を練習で高めるのは非常に難しく、簡単に身につくものではありません。東南アジアのサッカーは毎年どんどん成長していますし、欧州の基準に近づいてはいます。ただ、東南アジアのリーグには、欧州の基準まで判断の早さを上げられる環境がまだないのです」

すでにデインズに所属し「将来的には欧州のもっと高いカテゴリでプレーできる」と称えるマルセリーノのような選手は極めて珍しいのが現状だ。プレー強度や展開のスピード、それに伴って求められる判断の早さや正確さは欧州と東南アジアを隔てる大きな「ギャップ」になっている。

ただ、アジアからやってくる将来性のある人材を欧州仕様に進化させるための仕組みは出来上がりつつある。スペイン5部相当のトレモリーノスが、アジア人選手の欧州への適応を促す場となるのだ。これぞまさしくカテゴリの異なる複数のクラブがMCOのネットワークを構築していることの強みである。

ベルギーにもU-21チームが参加するリザーブリーグは整備されているが、そこでは基本的に同年代の選手としか戦うことができない。一方でカテゴリこそ下がるものの、スペイン5部にはプロとしての経験がより豊富な選手たちと競いながら実戦経験を積める場がある。アジアとデインズのトップチームの間をつなぐ役割を担う「ブルーミングステージ」としてトレモリーノスの存在価値は高い。

マルセリーノがU-22インドネシア代表として参戦したSEA Games(東南アジア競技大会)を見ていても、東南アジアには若くて将来有望な原石がひしめいているのは明らかだ。だが、代表チームのワールドカップでの実績は乏しく、日本人や韓国人などと比べて個人として欧州サッカー界に名を残した選手が極めて少ないなど、いわゆる「成功例」がないという現実も無視することはできない。エスパラガ氏が指摘したような「ギャップ」も簡単には埋まらないだろう。

だが、対岸に飛び移れるかわからない幅の広い川も、橋を渡してあげれば誰でも対岸へ行くことができるようになる。つまり大きな「ギャップ」を一気に越えさせるのではなく、その間に選手個々に合わせた「ステップ」を用意することで、より確実に成功へ導けるのがMCOの利点なのである。

アジア市場に特大のポテンシャルが眠っているという事実に疑いの余地はない。ACAFPはそこから才能を掘り起こし、MCOの強みを活用した様々なキャリアパスを整備して欧州の競争環境の中で成長を促そうとしている。そして、アジアから欧州に挑戦する選手から「成功例」が生まれる確率を上げることも重要なミッションの一つだ。

すでにデインズと契約しているマルセリーノやイルハンをはじめとした先駆者たちが欧州で実績を残すことができれば、それによる刺激が東南アジアサッカー界全体の発展につながっていく可能性は十分にある。かつての日本サッカーがそうであったように。

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