誕生30年Jリーグ なぜ「魅力的な試合少ない」選手の“海外流出”に追いつかぬ育成スピード【月刊ラモス】

Jリーグが誕生から30年を迎えた。5月には記念マッチが行われたが、月刊ラモスのラモス瑠偉編集長は「私を満足させてくれる魅力的な試合が少なくなっている」と厳しい。いい選手がどんどん海外に進出することが当たり前となった昨今。育成のスピードが、魅力のある選手の流出に追い付かない現状に「いまこそ育成に全力を注ぐとき」と提言する。育成組織からトップで通用する選手をいかに多く輩出するか。40周年、50周年、未来に向け、大きな課題だ。

浦和レッズがACLを制した。世界に向け、Jリーグをアピールするためにも、レッズの頑張りには拍手を送りたい。

ただ、アジア制覇後は苦戦が続いている。浦和は4月23日にリーグ川崎戦を戦い、その足でサウジアラビアへと旅立った。約9000キロ、20時間のフライト。時差は6時間。アルヒラルとの決勝第1戦は完全アウェーの戦いを1―1でしのぎ切り、今度はサウジアラビアから日本へ。5月6日の第2戦も前半は圧倒的に攻められ、後半に相手のオウンゴールで手にした1点を守り切るという死闘を演じ、アジア王者に輝いた。

そこから中3日でJ12連戦。鳥栖に0―2で完敗し、G大阪には先制されながら、なんとか3―1で逆転勝ち。その後の福岡戦は0―0で引き分けた。これもアジア王者の宿命だが、あまりに過酷な戦いであり、肉体的、精神的な疲労はピークに達している。

例年、ACLに出場するクラブは日程的に厳しくなり、疲労の蓄積がリーグ戦に影響し、苦労している。今後はその傾向がさらに強くなる。ACLの秋春開催が決まり、現行のままだとJリーグの開催時期とのズレが生じるため、リーグの夏春制移行も検討課題となっている。

加えて天皇杯、ルヴァンカップというカップ戦があり、さらには2025年からクラブW杯が各国代表によるW杯と同様に4年ごとの開催となり、同年6月に32チーム参加でスタートする予定だ。Jクラブが世界に討って出る絶好の機会となるが、そのためにはACL制覇が条件となり、アジアを制して本大会に出場すると、さらに負荷が大きくなる。

これだけ多くの試合を戦い抜くためには、レギュラークラスの選手が20人は必要になってくる。その人材をどうやって確保するのか。

多くのJ1クラブはJ2の若くて有望な選手を即戦力として移籍で補強している。でなければ外国人助っ人を獲得するか。かつては一級品の外国人が多く来日したが、いまは資金的にも大物外国人の獲得が難しくなっている。とはいえ、中途半端な外国人を連れてきても、日本人を使った方がはるかにマシな場合もある。そもそも、現在のJ1は外国人のエントリー枠が5人となっている。これは多すぎる。

やはり基本は自前の育成組織で育て、プロとして一本立ちさせることだ。その好例が川崎フロンターレだ。板倉滉、三笘薫、田中碧は川崎の育成組織の出身で、3人とも川崎のトップチームで活躍し、海外へと飛び出していった。余談になるが、FC東京からスペインに渡った久保建英も川崎の育成組織出身だ。

川崎は風間八宏前監督が現在のベースを築き、鬼木達監督が引き継いで黄金期を迎えた。育成出身選手だけでなく守田英正、旗手怜央ら才能あふれる若い選手を積極的に起用し、高速パスワークを武器に攻撃的なチームを作り上げた。

しかし、多くの若手が海外クラブに移籍し、昨季までは何とかやりくりしてきたが、補強がままならなかった今年は財産を使い切り、大苦戦している。

育成組織からの選手供給がいかに重要か。川崎の躍進と今季の苦戦が象徴している。宮本恒靖、稲本潤一、大黒将志、宇佐美貴史、井手口陽介、堂安律ら多くの才能を育て上げ、一時代を築き上げたG大阪も近年は新たなタレントを育成できず、宇佐美を復帰させたもののJ2降格のピンチを迎えている。

育成部門を充実させることがいかに重要か。さらに大事なのは育てた才能を試合で使うことだ。才能があっても、試合で使わないことには伸びていかない。育てながら勝つのは難しいが、起用のタイミングを見極め、積極的にチャンスを与えることで選手は成長する。

いい外国人が獲得しにくくなり、多くの才能が海外に流出するといういまの流れは今後も変わらないだろう。ならば自前で育てるしかない。サポーターにとっても、育成出身の選手への思い入れは大きいだろうし、愛される選手になるだろう。

昨季までは川崎、横浜Mが攻撃的で魅力的な試合を見せてくれた。しかし、今季は私を満足させてくれる魅力的なゲームが少なくなっている。正直言って、全体的に面白みに欠ける。これぞサッカーだと、私を熱狂させてくれるプレーヤーも少なくなっている。プロとは、勝つことはもちろん、見るものを魅了する、熱狂させることが重要なのだ。その意味で、30周年を迎えた今年のJ1は、正直、物足りない。

日本サッカーの未来を考えるとき、育成部門をさらに充実させるべきときがきたと思っている。そのためには指導者の育成も重要だ。いかにして才能を発掘し、育て、プロフェッショナルな選手をつくり上げるか。第2、第3の三笘薫の出現が待ち遠しい。(元日本代表)

◆新方式のクラブワールドカップ FIFA(国際サッカー連盟)は今年2月に行った理事会で、新方式のFIFAクラブW杯の詳細を発表。2月の時点では「UEFA(欧州)12枠」、「CONMEBOL(南米)6枠」、「AFC(アジア)4枠」、「CAF(アフリカ)4枠」、「Concacaf(北中米カリブ海)4枠」、「OFC(オセアニア)1枠」、「開催国1枠」という各大陸の参加枠数が発表された。

また、各大陸王者のクラブと開催国枠の1クラブが集まって開催されている現行のクラブW杯は2023年サウジアラビア大会で終了。一方でFIFAは24年から代替の大会を新設し、欧州以外の5つの大陸王者がプレーオフを戦った後、勝者の1クラブが欧州CL王者と対戦する。

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