スペインで優勝&3部昇格 セスタオ・元日本代表DF丹羽大輝「今が一番楽しい」理由

21年からスペインのセスタオ・リベル・クルブでプレーする元日本代表DF丹羽大輝(37)が今季、同4部リーグ相当で優勝し、3部リーグへの昇格を果たした。コロナ禍の21年にFC東京を退団してスペインへ渡り、自らクラブを探して当時5部相当のセスタオと契約。1年目は2か月間の短期契約で4部昇格を果たして契約延長を勝ち取り、2年目の昨季はプレーオフ進出の末に昇格を逃した。そしてクラブ創設100周年の今季、念願の優勝&昇格を達成。35歳からスタートした海外挑戦で、丹羽は何を追い求め、何を得ようとしているのかに迫った。(取材・構成=金川誉)

■試合後に熱狂パレード

その光景に、わき上がる感情をかみしめた。23日、ホームのRソシエダC戦に3―1と勝利し、2位のアラベスBとの勝ち点差を12に広げてセスタオはリーグ優勝を決めた。試合後には、セスタオの町で優勝&昇格パレードが、その日のうちに開催された。バスに乗り込み、歓喜にわく人々を見つめる中で、丹羽の胸中にはこれまで経験したことのない思いがこみ上げてきた。

「町中の人たちが、僕らのバスを囲んでくれて…ベランダにもセスタオのフラッグが並んで、まるでW杯で優勝したのか、思うぐらいの盛り上がりでした。セスタオの町の人たち、ほぼ全員がパレードに参加してくれたほどで、みんなで祝ってくれた。本当に特別な瞬間でした」

人口約3万人弱の小さな町とはいえ、今回の優勝パレードで感じた熱はすさまじかった。さらに驚いたのが、優勝を決めた当日にこのイベントが行われたことだ。勝利以外では優勝は決まっておらず、当然延期になる可能性があった。それにも関わらず、町中の人々の協力の下にパレードは開催された。

「パレードはパトカーでの警備だったり、セキュリティ面もすごく配慮されていました。キャンセルしたときのリスクも相当あったはずです。それでも優勝したらパレードをやろうってという町全体の協力があり、いろいろな人たちが一つになってやってくれた」。サッカーが文化として根付き、人々にとって欠かせないものとなっているスペインの空気を肌で感じ、この地に来た価値をあらためて感じていた。

■37歳「成長できる」

今季、丹羽はJリーグ時代に本職としてきたセンターバック(CB)だけでなく、MFとしてもプレーしている。スペインでは「ピボーテ」と呼ばれる中盤の底を担うポジションで、攻守のつなぎ役を担うこともある。昨季の公式戦28試合出場と比べ、ここまで同13試合出場と出番を減らしてはいるが「めちゃくちゃ楽しいですよ。この国でプレーしているだけでも新鮮なのに、さらにCBよりもっと試合をコントロールする役割がある。まだまだ自分が成長できる、という感覚になっています」と充実感をにじませた。

Jリーグ時代から食事等にもストイックな準備を重ね、体やメンタルのトレーニングも追究してきた。しかしスペインに渡り、さまざまな変化を受け入れた。食事面では日本時代は必ず決まったメニューを続けてきたが、スペインに渡ると同じ食材がそろわないこともある。

「たとえば納豆やめかぶ、という食材はこっちでは手に入らない。もう必然的に変えていかないといけない状況だったので、それをフルーツやナッツなど、色々なものに変えていったんですよ。そしたらいけるどころか、逆に体脂肪も減って、今まで理想だと思っていた状態より、さらによくなった。変化を受け入れ、新しいものを取り入れることの重要性は感じさせられました。もちろん、これは違うなってことも出てくるけど、トライエンドエラーを繰り返して、エラーが起きたときには素早く変化するアドリブ力があればいい、と考えるようになりました」

■来季もスペイン希望

今季前には、自身の新たな可能性を模索するためにDNA鑑定も実施。「僕は持久力に自信があるので、遅筋(収縮するスピードは遅いが、疲労しにくく力を長時間発揮し続ける筋肉)優位のタイプだと思っていたんですけど、DNA的には速筋(速いスピードで収縮する筋肉)優位のタイプだったんです。だからトレーニング次第で、まだまだ速くなると思いますよ、って言ってもらった。体の動かし方も改善し、実際Jリーグでやっているころより、スピードが上がっているんです」。プレーも肉体面も、いまだ成長の余地があることをかみしめている。

日本でプレーしていたころは、30代後半にさしかかって引退後のキャリアについて考える回数も増えていた。しかし現在は「今はもう、全く変わりましたね。以前は先のキャリア形成をイメージしていたんですけど、今はまったく考えず、プレーヤーとしてどれだけできるか、どれだけ勝負できるか、としか考えていないので。どうなったらもっと自分がうまくなれるか、どうなったらもっといい選手になれるかにずっとフォーカスしています」とうなずく。

G大阪で14年に3冠を達成するなど数々のタイトルを獲得し、日本代表にも選出された輝かしい経歴がある。しかし「今がキャリアの中で、一番楽しいですね。比較するっていう感覚はないんですけど、今はとことんサッカーが楽しい。本当に充実しているので」。セスタオとの契約は今季終了時には切れるが、来季もスペインでのプレー継続を希望している。

優勝後に与えられたオフの日も、プールとジムで体を動かし、残り試合への準備に集中した。「5部から3部まできたので、もし2部までいければどんな景色が見えるんだろう、という思いがあります。ただ契約ごとなので、来季はどうなるのかわかりません。僕は自分のできることに集中して、ドンと構えるつもりでいますよ」。スペインの地で自ら切り開いてきた道の行く末は、本人もまだ知らない。それでも確かな充実感と新たな挑戦への野望を抱き、サッカー選手としての本道を突き進んでいく。

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