W杯経験者に囲まれ、持ち前の向上心に火 新天地・神戸で変貌中の齊藤未月

明治安田生命J1リーグ第9節、屈指の注目ゲームと位置づけられたヴィッセル神戸vs横浜F・マリノスの上位対決。昨季最終節に同じノエビアスタジアム神戸で、同じ相手に敗れて優勝を決められている神戸にしてみれば、是が非でも勝ち点3を得て、首位固めをしたかった。

その思惑通り、序盤からハイプレスで主導権を握り、開始19分には相手右SB山根陸とGK一森純の連携ミスを突いて汰木康也が先制。9分後には大黒柱の大迫勇也が汰木のクロスに飛び込み、豪快なヘッドで2点目と首位らしい強さを見せ、優位に試合を運んでいた。

ところが、小さな綻びが生じたのが31分。アンカーの齊藤未月がマルコス・ジュニオールを削ってイエローカードを受けた場面だ。齊藤の右足はボールに行っていたが、背後から寄せたことでファウルと見なされ、警告と判断された。

「あれは僕的には大きかった。あまりつぶしに行けなくなっちゃったので。今日の審判の感じだったら、次にファウルだったらもう1枚イエローが出ちゃうんじゃないかという恐怖心があったので」と本人は目に見えない心理的重圧がのしかかったことを明かす。

確かにボール奪取職人の齊藤はフィジカルコンタクトが必然的に増えてくるタイプ。ギリギリのクロスプレーが多い分、ファウルも積み重なりがちだ。それを怖がったら持ち味が出なくなるのだが、早い時間にイエローを受けたら自重しなければ仕方ない。今後はもっと巧みな駆け引きを覚えていくしかない。

齊藤の心理的変化が影響したのか、神戸はそこから立て続けに失点を食らう。33分にアンデルソン・ロペスに1点を返され、前半終了間際には渡辺皓太にビューティフルゴールを決められる。前半を2-2で折り返すことになるとは、選手たちも考えなかっただろう。

「1失点目も2失点目も『安い失点』だった。もっとアラートにやるべきだった」と背番号16も反省しきりだった。

そこから巻き返せればよかったが、この日の神戸は決めるべきところで決めきれなかった。後半頭の大迫のゴールが際どいオフサイドで取り消されるなどもあったが、先手を取れる機会は少なくなかった。それを逃し、最終的にスローインの流れからヤン・マテウスにボールを奪われ、最終的にアンデルソン・ロペスに逆転弾を許すという最悪の展開に持ち込まれた。

2-3の逆転負けというのは、負けず嫌いの24歳のMFには許しがたい結果に他ならない。「本当にもったいないし、悔しいゲーム」と敗戦を噛みしめるしかなかった。

しかしながら、今季から期限付きで加入した神戸に赴いてからの齊藤は、確固たる前進が見て取れる。首位争いをしているチームにいること自体、湘南ベルマーレ、ガンバ大阪時代とは一つ異なる点ではあるが、大迫、酒井高徳、武藤嘉紀、山口蛍、アンドレス・イニエスタといったワールドカップなどのハイレベルな経験を持つ選手がいる集団に身を投じたことも大きい。プレー基準や要求レベルが自ずと高まっているのである。

「(昨季の)ガンバは若い選手がすごく多くて、自分より年下の選手もたくさんいたけど、神戸は今日のスタメンを見たら分かる通り、全員が年上。すごい経験をしている選手が多いので、彼らの感情の振り幅や緊張感を体感しながらやっています。みんな一つの負けに対しての悔しさは凄まじい。自分が本当に成長できる環境だと感じますね。それに要求レベルも高い。今までの環境では自分がベラベラ喋るシーンが多かったけど、ここでは自分が還元してもらう部分が多い。他の選手の話をしっかり聞いて、要求に応え、自分も要求するといういい形の高め合いがよりできればと思っています」と齊藤は神妙な面持ちで語る。

とりわけ、「僕のプレーモデル」と10代の頃から羨望の眼差しで見つめていた山口と並んでプレーできるのは非常にポジティブな要素だ。ボール奪取力や戦術眼、最近は攻撃センスにも磨きをかけている32歳の経験豊富なMFは齊藤にとって目指すべき理想像と言っても過言ではない。普段はアンカーとインサイドハーフという立ち位置でやっているが、この日は状況に応じて横並びになって守備に入るケースもあり、臨機応変にお互いの良さを出し合える関係性を構築しつつあるようだ。

「練習でも試合でもそうですけど、攻守において蛍さんの役目はチームにとってすごく重要。スピード感、技術的な部分も含めて、見習う部分や吸収できる部分はたくさんあります。チームが勝ちながら、蛍さんがやってる自分に落とし込んでいけたらいいのかなと思います」と齊藤は目を輝かせた。

今回、昨季王者・横浜FMに敗れたことで、向上心をさらに強く掻き立てられたはず。そのエネルギーを先に生かしていくしかない。

イエローカードを受けてからのマインドや駆け引き含め、齊藤がやるべきことはまだまだ多い。課題を一つひとつ突き詰めて、最終的に山口を超える存在になることができれば、彼自身も成功に近づくし、長年の夢であるA代表招集も現実味を帯びてくる。

そうなるように「貪欲さの塊」とも言える男には、泥臭く前へ突き進んでほしいものである。

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